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(完)

「…と、いうわけだ」

 深夜、どこかにある車両基地。

 の、回送電車内で、社長が謎の人物と何かを話している。

「『前回』の顛末をまとめた書類は、マイクロフィルムに収めて用意した。参考にしてくれればいい」

 帽子を目深に被り、厚手のコートを羽織って表情の見えない謎の人物は、

「…これだけやるとなると、いくら田舎でも騒ぎになると思うが」

「心配ない。すでに関係各所に手は回してある」

 社長はニヤリと口元が歪み、

「あくまでも豪雨の時に土砂崩れが発生して、列車が飲み込まれるだけだ。現地に行く手段の道路は無い。警察も関係各所が動く頃には、とっくに逃亡できているだろう」

「…わかった。必要な人手や物資はこっちで用意する。だが…」

「報酬と必要経費含め全て前金で南スイス信用金庫川越西支店の架空名義口座に振込んである」

「…結果を待ってもらおう」

 フラッシュが光って目くらましをされている間に、謎の人物姿を消していた。


『それでは今日の天気です』

 うぼーっとテレビを見ている休憩中のなるせ。

 クロハは隣で必死に勉強中。

『大型で非常に強い勢力の台風13号は現在、奄美大島沖250キロの海上を毎時15キロのゆっくりした速度で北西に進んでいます。丁度日本列島を縦断する進路をとり、今週末には関東地方に近づく予想です。ここで…』

「台風ねえ。工事が遅れちゃ大変なのかなあ」

 なんてことを考えている。


 法案が可決して、碧風高原鉄道は勢いにぎわっていた。

 みどりかぜ高原にて風力発電用の土台基礎工事用の測量や各地の環境影響調査や工事準備が始まった。

 今まで殆ど使われていなかった貨物ホーム(JTR貨物時刻表にも掲載されているのに)には、連日のように臨時貨物列車が到着し、資材を搬入していく。

 巴の旅館は勿論、三峰峠や黒川、徳那賀にある民宿などの宿泊施設も工事関係者が滞在のために賑わい、夜は街で飲むので繁華街や商業施設も時ならぬミニバブルで沸きあがっていたのだ。

「台風かあ。このコースだとここ辺りも直撃だねっ」

「まあ、こっちは安全運転でもしときゃいいナリかな」  

 何この軽いノリ。

「ところでクーちゃん」

「なにー?」

「『ログ・ホライズン』見ていい?」

 どこまでもアニメ三昧かい(苦笑)


「支局長」

 デスクワーク中の石勝に、スーが何か持ってきた。

「また来てます。例の手紙」

「またか…一体なんだろうな?この、差出人の判らない手紙は…せめて日本語で書いてくれよ…」

 そこへ、

「ごめんくださーい」

 一階から呼ぶ声が。

「お客さんですな」

「まったく、この忙しいのに店番もかい」

 そうだった(苦笑)

 店先には、買い物袋を持っているらえるが。

「ええと、注文していた書類袋が届いているはずですけど…」

「あ? ああ、はいはい」

 倉庫へ行こうとした時、

「そうだ。ちょっと待ってる間に…」

 石勝は、差出人の判らない手紙をらえるに見せ、

「ここのところ、同じ手紙が来てるんですが、とんとダレなのか判らなくて…」

「わたしでよければ、見させてくださいます?」

 石勝が引っ込んでいる間、らえるが手紙を読む。

 が、表情が険しくなったようだが…?

「ええと、お待たせですー。こいつで…」

「石勝さん」

 らえるの見つめる顔に、石勝は顔を赤くしながら、

「な、何でしょう」

「ひょっとすると、とんでもない事がおこるかもしれませんよ?」


 その日の夕方、

 みどりかぜ高原駅に関係者が集まったのはいいが、妙な緊張が支配する。

「…ということです」

 特に呆然としているのは、ハガネとクロハ。

「じゃあなんですか? 父さんと母さんは事故に見せかけて殺されたって言うんですか!?」

「この手紙が確かなら、です」

 それでもらえるは静かに言う。

「丁寧なドイツ語で書かれていますね。差出人と思われる人は、シルク・D・ソレイユ…」

 麗夏はハッとなり、

「ソレイユ…って、ソレイユ財閥の令嬢じゃないの!?」

 それに石勝も気づいたようで、

「ソレイユ財閥…世界に名だたる鉄道王か。だが、またなんで…?」

「そこまでは書いてありません。ただ…『15年前の再来に気をつけろ』と…」

「15年前…」

「ハガネ君?」

 何かが思い当たったハガネに、石勝が問う。

「15年前、二羽黒山でがけ崩れがあったんです。その時に巻き込まれて亡くなったの僕達の両親なんです」

「クロハは、生まれたばかりで覚えてないけど」

 石勝はらえるに向かい、

「つまり、その事故は、人為的に起されたものだ、ということなのか?」

「この手紙の内容の通りならば、です」

 らえるは全員を見ながら、

「この手紙が真実だとしましょう。ならば、このシルクと言う人はどう言った経緯で事実を知ったのか、何故知らせようとしているのか…。考えうる疑問はいくらでもあります」

「悪戯か?」

「イタズラにしては、騙る名前がデカ過ぎるわね」

 麗夏の一言。

「何にしても単純に済ませるわけにはいかないでしょうね。これが悪戯としても愉快犯が後を絶たなければ風評被害も出かねないだろうし」

「でも、ホントに起こったらそれこぞ被害甚大ナリね」

 なるせの一言でみんなが沈黙。

「とりあえず、ウチの若い衆が当時の事故を含め調査しているし、判れば何かしらの手が打てると思うが…」

 石勝が考えながら呟く。

 でも、なるせが何かを思い出しながら、

「でも前回を気にしろって事は、要は人為的に土砂災害を起して巻き込んだって事ナリね。となると…」

 上を指差し、

「タイミング的に、事を起すとなれは、この台風を利用すると思うナリよ」

 ハガネがハッとして、

「…そうか! 確かその昔、季節外れの大雨で地盤が緩んでいたとか…」

「よし。その辺も詳しく調べさせよう」

 石勝、頷いてみる。

「それとしても、時間は余り無いナリね」

 なるせはにゅふふ笑いをしながら、

「例えば、結果はどうあれ、それがやはり自然災害なら、誤魔化せると思うナリが」

 なるせはにやりと笑い、

「なにしろ、台風のすることナリから」

「…なるおねーちゃん、またヘンなこと考えてる…?」

 怪訝な顔でなるせを見るクロハ。


 そして、

 さしたる新情報も出てこないまま、台風はやってくる。

 前線も刺激され、台風はまだ遠いはずだが、風雨が強くなってきている。

 JTRの主な乗り入れ車両であるE531系は車体重量が従来車両と比べると軽い部類だし、みどりかぜキハ20形は単車運用だとそもそも軽い。

 強風と雨で、速度を落としての運転を強いられていて、軒並みダイヤが乱れているのだ。

 もとより本数の少ないみどりかぜ鉄道線でも、JTRからの連絡輸送の兼ね合いで、時刻が遅れ気味だ。

 そんな中、二羽黒山の山中を蠢く人影に気づくものは、誰もいなかったわけで…


 その頃、

「『アフターアーカイブ』の閲覧?」

「ええ。お願いできるかしら、かのんちゃん」

 『かのんラボ』で、電力供給システムのプログラムに勤しんでいたかのんに、らえるが尋ねる。 

「らえ姉、判ってると思うけど…」

「『未来の行き先は確率論でしかわからない』でしょう? そんなに先ではないわ。知りたいのは、今後一週間以内に『能力』を使用した時に、監察官に発見される時期」

「…まあ、いいけど」

 ちょっと考えたかのん、古いタイプライターみたいな機械を取り出し、なにやらガチャガチャ打ち込む。

「『想定されている未来の改変率』から、長くても2ヶ月かからないと思う」

「そう…」

 らえるは、目を閉じてしばし考え、

「…全員を集めて」


「滑るなー…」

 秋桜が丘駅に11分遅れで到着したキハ20形混成連結車。

 雨で車輪が空転するのだ。

 夕方ラッシュの場合、増結していてもワンマン運転が基本(人手不足なので)だが、悪天候ということもあり、殆ど空気輸送でも今日はクロハが車掌として乗務している。

 車内には、調査がある程度まとまったということで、石勝達が乗っている。

 停車中、車内無線が鳴る。 

『お兄ちゃん』

「どうしたの?」

『石勝さんたちが「もし何だったら茜森温泉で降りるから、このまま運行打ち切りにしてもいい」って言ってるよ? どーする?』

 ハガネ、ちょっと考え、

「…仕方ない。茜森温泉で運休して、高見盛信号所へ回送しよう。クロハ。一応、車内アナウンスで連絡してあげてね。僕は駅指令に連絡しておくから」

『らじゃ☆』

 ハガネは、列車無線でみどりかぜ高原駅に連絡、麗夏が運休連絡をやってくれるだろう。


 列車は二羽黒山の崖沿いに差し掛かり、30キロ程度に速度を落とし、ゆっくりゆっくり走っていく。

 ハガネは前方をじっくり見ながら、

「今の状態でこれだと、台風が本格的に来た時には…」

 と、前方で小石がぱらぱら落ちてきている。

「落石!?」

 慌てて非常ブレーキを叩き入れる!

 ギギィ! と鈍い音を立てて、列車は止まったまさにその直後、地響きとともに、落石が発生!

 列車は止まったが、土石流が真ん中の車両を飲み込んだ!

 一時は横転寸前まで車両が斜めに傾く。前後が残っているので完全な横転は避けられたが、

「うおお!」「なんやなんや!」

 その急激な衝撃で、車内で放り出されそうになる石勝と安藤&スー!

 と、山向こうで双眼鏡を覗いていた、迷彩服を着ている奴が、

「爆破は中途。途中の岩に邪魔されたようだ。目標はゼロポイントマイナス50」

 ザッと無線の雑音が鳴り、

『了解。状況を開始する』


 山中から、何かが蠢く。

「大丈夫ですか!」

 運転席からハガネが座席に捕まりながらやってきた。

「なんとか、頭を打ったくらいだ…」

 頭を振りながら答える石勝。

「おい、しっかりしろ」

 目を回してる安藤を、石勝がひっぱたく。

「う、うーん…」

 どうやら、大丈夫みたいだ。

「お兄ちゃん!」

 後方から、怪我をしているスーに肩を貸しているクロハがやってきた。

「スーさん! 大丈夫!?」

「ああ。この位の怪我、どうって事あらへん!」

「とにかく、前方車両に来て下さい。この車両を切り離して、移動を試みます」


 合羽を着たハガネ、傘を差して懐中電灯を照らしている石勝が、連結部へやってきた。

「連結器が外れないと、これは…」

 雨音に混じって、ガラスの割れる音、さらに、車中なら、

「うきゃあああん!」

 クロハの悲鳴!

「な、何だ!?」「行ってみましょう!」

 車内に戻った二人が見たものは、現場作業員の格好をしている男に羽交い絞めにされているクロハが!

 が、ジタバタするクロハを押さえつけることが中々出来ない上に、安藤が『作業員』の腕を掴み、必死に抵抗している!

「くそう! 離しやがれ! オイラの嫁なクロハたんをっ!」

「うおおおっ!」

 ハガネ吶喊!

 身を当て、隙が出来た!

 クロハは刹那、『作業員』の腕に噛み付いた!

 一瞬身を崩した『作業員』から身を翻し、

「むうー! 食らえ! 必殺クロハ超特急きいぃぃっく!」

 身を屈め瞬間、身体バネを生かして猛ジャンプし、全体重を乗せた回し蹴りが炸裂!

「ぐおっ!」

『作業員』が唸る! 一瞬身を抑える!

「逃げるよ!」

 ハガネは車内備え付けの消火器を『作業員』に向け噴射!

 非常用ドアコックを開け、わらわらと列車から飛び降りた!

「ハガネ君どっちだ!?」

「先に行きましょう! 後ろは戻れません!」

「クロハたんすごいな!」

「ンなこといーからスーさんに肩貸してあげてヨ!」

「すまんのうー」

 走り出したまさにその時

 銃声!


 弾痕がレールを弾き、更に虚空へ撥ねていく。

「なにィ!」

 一体どこから!?

 周囲を見回すが、雨と薄暗い森林で視界がはっきりしない…

 更に、

 チッ! と雑音が入る無線聞き取りつつ『作業員』が車内からよろよろと追いかけてきた!

「くそう!」

 『作業員』が石勝に向けて発砲!

 至近距離、当たれば唯ではすまない!

 折りしもこの雨で、小さい衝撃波は弾道が波紋となって見えてきた!

 後ろに後ず去ろうとしたが足が泥に埋まって身動きがとれず、逃げることもできない石勝っ!

 しかもバランスを崩し、手をバタバタさせながらエビゾってしまう。

 銃弾が波紋となり、石勝の右をすり抜けて行く様を目で追えてしまうフラッシュバックまで体験し銃弾が通過した瞬間、


   ずぼっ★ 


 両手も泥に埋まり、完全にブリッジ状態の石勝。

 巨大汗ジトな全員。

 呆然となったままの『作業員』を差し置き、その場の皆は、

「ま、マトリックス!」

「ネオだよネオ! すごいっすよ石勝さん!」

「いやリザレクションでしょ!」

「それはパクリのほうや!(苦笑)」

「いいから早く! 誰でもいいからなんとかしてくれよ!」

 さすがに怒号の石勝。

 そこへ、更に、


「ぞくぞくっ!」

 本能で震えるクロハ


「どうしたの!?」

「凄い、怖い、気配がするっ!」

 森の中から、何かが蠢くのが見える。それも、徐々にはっきりと。

「援軍って奴か…」

 瞬間、何かが光る

 気がつくと、空を切る音と共に、石勝の左肩から血が噴出す!

「ぐおっ!」

 よろけそうになる石勝!苦痛で顔を歪めつつも、

「だ、大丈夫だ!」

「そ、狙撃かよ!」

「これは、絶体絶命でんな…」

 安藤の絶叫、じっとり脂汗を拭うスー、

「こうやって嵐の中、父さんと母さんは殺されたのか…!?」

「お兄ちゃん!」

 唇を噛むハガネに、ぎゅっと抱きついてきたクロハ。

 そこへ、

「おまたせー!」

 前方からエンジンのついた自走トロッコに乗ってやってきた、小日向姉妹達!

「はあっ!」

 自走トロッコからジャンプして飛び出したあやみ、そのまま『作業員』をドロップキック!

 吹っ飛ばされた『作業員』は、列車に頭から叩きつけられる!

「ぐおっ!」

 そのまま落ちたようだ!

 あやみは振り向き、

「大丈夫!? みんな!」

「あやみおねーさん!」

 クロハ、会心の笑み。

「皆さん、乗って!」

 らえるが指図。

「すまない!」

 怪我人のスー、抱えている安藤が先に乗り、クロハ、石勝支えるハガネが自走トロッコに乗り込んだ!

 ちょこんと自走トロッコから飛び降りたほむら、らえるは前方を見たまま、

「とりあえずここは私達に任せて、先に行くだけ行って下さい!」

「しかし!」

「早く! かのんちゃん出してあげて!」

「ういういー。めぐー、前方監視してー」

「判りましたわ!」

 自走トロッコはバックで、今来た線路を戻っていく。

 その場の周囲、緊張で動きが止まる。

 あやみはすうっと深呼吸をし、神経を張り詰める。

「…山中に気配、15、17…、小隊規模なお増加中、総勢24ってとこか」

「向こうに監視の視線」

 ほむらが見えない先を指差す。

 あやみは頭をポリポリ掻き、

「こりゃー、ちょっと『減力戦』だと厳しいかな…」

「でも、今いるのを殲滅できれば終わる」

 ほむらがぽつり。あやみは身を構えながら、

「しっかたないわねー」

 腕を肩に回し、背中に装備していたレーザー刃が装備されているトンファーを構え、

「『裁定者』の許可を」

 目を閉じていたらえるは、かっと顔を上げて目を見開き、


「…歴史変動の誤差内で、二級階層である現地人の殺傷行為を承認します!」


「Yaahoooo!」

 あやみ突進!


 レーザートンファーをブンと振り回すと、突撃してきた『作業員』の胴を真っ二つに切り裂く!

 悲鳴を上げるまもなく絶命!

 一方、じーっと暗闇を見ていたほむら、ピアノ線みたいなものを取り出し、先っぽに重りが付いているそれをひょいと架線に向けて投げると、高圧電流まみれになっている自身がうっすら光芒を放ち始めた。

 そのまま、手をピストルのように組み、何やら呟く。

 指先に閃光が。やがて、

「ぱぁん☆」

 ずどぉん! と巨大なレーザー砲並みの咆哮が唸って跳ぶ!

 千代富士の一角で、爆発!

 というより、山の中腹付近の三割くらいが豪快に吹き飛んでるんですけど!?

 じーっと見たほむら、ふうと一息つき、

「命中」

 その光芒を見たあやみ、にやりと笑い、

「あとはこの場だけか。よし! それそれそれ! まだまだいくわよ!」

 そして、豪雨のジェノサイドは繰り広げられた…!


 一方、

 逆走する自走トロッコ。が、徐々にスピードが落ち、

「ど、どうしたのかのんちゃん」

 クロハがビックリしながら聞く。

 やがて、エンジンとともに止まってしまった。

「…ごめん、ガス欠」

「えええ!?」

「でも大丈夫。駅はもうすぐだし、それに…、あ、来た来た」

 上を見上げるかのん。

 雨音に混じって、何か別の音が。

 と、上からスポットライトで照らされ、眩しさに顔を顰めるみんな。

『おまたせナリー!』

 拡声器で怒鳴るなるせが、自衛隊の救難ヘリに乗ってやって来た!

「救助隊、ただいま参上ナリ~!」

 歓声とともに、どっと疲れたのか、その場でへたり込むみんな。


 そして、全員が救助され、石勝とスーが救急病院へそのまま搬送された、深夜。

 時間遅延(止めているわけではなく、超スローに時間を進ませている)空間で、

「これはちょっと…。流石にマズイかなー」

 災害現場に戻ってきたあやみとほむら。

 土砂崩れに巻き込まれた列車はともかく、その周囲は雨で洗い流され切れない血の匂いや原形を留めていない肉片、切断された樹木、吹っ飛ばされた千代富士の山腹など…。

「一部を除いて戻す」

 ほむら、息を吸って高速言語を詠唱、自身が光り輝く。

 タイミングが合ったのか、いきなりバンサイする。

 そして、腕を第一間接でうまく横に倒しながら

「なしよっ」

 上級魔法『欽ちゃんオチ再生』の呪文を唱えると、光が弾けて、周辺が飲み込まれていく!


 …こうして、大規模な土砂災害に巻き込まれた列車の被害を除き、乗務員たちの迅速な避難誘導で、死傷者はナシという快挙として、新聞に記事が載ったのだが…

 実際には、『その事象に存在した人の記憶操作はきわめて困難』(かのん、談)で、石勝と、特にスーは、混乱した記憶の中に、漠然と、あの日の出来事を覚えているようだが。

 と言っても、

「あないな凄い体験、言っても信用されヘンわな」

 と、彼は心の中にしまうことにした。


 一方…

 石勝は安静中。

 銃弾(みんなの記憶では、何かの衝撃で飛んできた建設資材用の鉄棒)が貫通していたとはいえ、骨の骨折と失血で、救出後は洒落にならない状態だったと言う。

 それでも、症状が安定化したようで、麻酔が切れたのか、

「…ぅ」

 うっすら目が開く、と

「起きた? ヘタレライター。いや、ヘボ支局長かしら?」

 石勝の目の前には、椅子に腰掛けて見ていたらしい、美多佳がいた。

「…! 吉祥寺…! どうしてここに…」

「余計なお節介しか出来ない、くたばりぞこないの様子を見に(苦笑)」

 美多佳は嫌みったらしい笑みで答えた。

 そして、大きく一息つき、

「説明しなさい」「な、何をだ?」

 美多佳の迫る迫力にたじろぐ石勝。

「全てよ全て。伊勢崎さんから色々と聞いたわ」

「あンのおしゃべりめが…」

 舌打ちする石勝。

 美多佳は今までと違って、真剣な眼差しで、

「なぜあたしを庇ったのか、冤罪を受け入れたのか、そしてそれをなぜ告発しなかったのか、全てよ。裏づけ調査は大原則、アナタからの話を聞きたいのよ」

「…そう、か」

 石勝は観念したようで、

「笑うなよ。それならキッチリ話してやる」


 石勝チトセが、大手新聞社のデスク(紙面編集権をもつ、担当記者たちのリーダー的存在)としてバリバリに活躍していた頃の話だ。

 夜討ち朝駆け当たり前、スクープ連発し、まさに現場では知らぬ者がいない程に有名な存在だったらしい頃の話だ。

 そこへ、

「は、初めましてっ! 研修の吉祥寺美多佳ですっ! よ、よろしくお願いします!」

 学校を出たての、緊張しまくりな美多佳が配属されたのは、まさにそんな時。

「はい! 学校ではマスコミ研究会に居まして、もう、あの石勝さんのような雲の上の人の下で仕事出来るなんて、夢のようです!」

「おいおい。『雲の上の人』って…」

 イワンとされたことに気づき、大慌てで

「ご、ごめんなさいっ!」

 なんてな事もあったりして。

「でも、あたしにとっては、本当に憧れの人だったんです」

 美多佳は、目を輝かせて、

「捨てられたコンビニのレシート一枚から当時のアリバイを崩して、捜査の全容解明に道筋を付けた大帝都造船の収賄疑獄事件のスクープ、山中に墜落した旅客機の取材そっちのけで救出活動に参加し、唯一の生存者を発見したことで逆にニュースになったことも」

「いやいや、俺は当たり前のことをしているだけなんだよ」

 石勝はちょっと諭す雰囲気を交えつつ、

「ジャーナリストと言っても、自分の得た情報がスクープになって注目されると、いつか其の快感に酔いしれていく。だから、真実を知るに近づくほど、常に人間でなきゃいけないんだ、ただそれだけのことなんだよ」

 石勝は、じっと美多佳を見、

「だから、キミもジャーナリストとしてやりたいなら、真実を追究したいっていう己の信念と、その信念は多数の無名な人たちの期待で支えられていることを、忘れなきゃいい」


 こうして、石勝は美多佳を部下として、本格的に鍛えることとなる。

 元来、やる気とパワーがあるところに持って、女性特有の強み(つまり、男性では出来ない女性ならではの潜入取材とか、色仕掛けの演技とか)を生かし、もちろん、仕事の成功には石勝の指導やバックアップがあったからだが、若さゆえか、勝気な性格もあり、驕りがなかったかといえば、それは嘘だ。

 そしてそれは、採用記事本数がたまたま石勝を抜いたその時に、起こった。

「まあ、当然ですよね。やる気になればこんなものですよ!」

 と、周りに吹聴する美多佳。だが、石勝の顔は険しい。

「だが、裏づけのないものや、偏った見解に言及している記事が多いな」

「そんな、若造に数で負けたからって嫉妬しなくても…」

 ドン! と机を叩き、

「初めに言ったよな? 購読者が求めるのは、正確で公正な記事なんだ。判断をするのはあくまでも向こう側で、単にセンセーショナルなだけじゃ駄目なんだと」

「言い訳っすか☆」

「そうじゃないだろ。一つの事例を掘り下げて、正確な内容を把握し、調べてそれを詳しくなおかつ判りやすく、そして公正中立に伝えるには、乱造はイカンと言っているんだ」

 石勝の言は正しい。

 が、己に酔っている美多佳は、いまいち聞く耳を持ちえなかったとしても、それは責められないだろう。

 まだ若いから、いずれは判る、大丈夫だ、と、そう思っているうちに、『事件』は起きた。


 ある地方の中核都市で、強烈な毒物散布が原因と思われる中毒事件が起こった。


 警察発表では、当時事件現場に近い所に住んでいた会社員の男性を重要参考人として任意で事情聴取しているとの事。

 美多佳は取材もそこそこに、この会社員が薬学系の学校に出ていて毒物に明るいこと、事件当時のアリバイがないこと、警察発表から、犯人と論調つける趣旨での記事を書こうとする。

 が、

 裏づけを進めていると、何者かに仕組まれた可能性が浮上し、更なる取材を命じる石勝。

 ところがそれを妨害と感じた美多佳が、石勝を通さず(正確には許可したと騙し)記事原稿を上に上げてしまう。

 もはや万事休す、そこで石勝は、記事作成責任者は自分だと押し通すことで、追加取材により方向性を変え、元の多面的な論調に戻そうとしたのだが、

「あのスクープの神がまたもや!」

 一斉に他の新聞、テレビ、様々なメディアが食らいついた!

 だが、

 結果、この会社員が無罪だと判明した時、非難の矛先は『冤罪を作り出した記事の作成者』である石勝に向いたのだ。

 偏向報道だ、マスコミの暴走だ、ペンの暴力だと、様々な糾弾が飛び交い、しかも、同調していた他のマスコミも自己保身に走った結果、石勝本人は勿論、所属する新聞社にまで非難の嵐に包まれた。

 この責任を取って、石勝は会社を去ることになる。

 一方、

 本来この記事を書いた吉祥寺美多佳本人はこの時、自分のスクープを横取りされたと思い込み、石勝を逆恨みしたままで、しかも本人自体のその名前も知られていなかったこともあり、お咎めを受けるどころか、『ポスト石勝』の名跡で、ますます存在感を高めていくことになる。


「…お前が暴走しつつあった事を止めきれなかったのは、とりもなおさず俺の力不足だと思ったから、ああいった形でしか処理できなかったんだ」

「……」

「ペンの力は怖いよ。ああ言った、無関係な人間ですら、どうとでも扱えてしまう。だから我々はそれを常に心に留め置いていなきゃいけない」

 石勝は弱弱しく笑いながら、

「俺の顛末を見て、あるいは反面教師にしてもらってこそ、厳正中立で多面的な思考を促させる、ジャーナリストとしての本懐を理解してもらえれば、良かったんだが」

「…なによそれ、ふざけないでよ!」

 美多佳は軽くベッドの布団を叩き、

「まだ未熟な後輩の指導のために、自分自身の人生を棒に振る行為が立派だと思うわけ!? しかも、未だにJTR擁護の為に力を貸してる、あたしがまるで馬鹿みたいじゃない!」

 だが、石勝は一息ついて笑み、美多佳の頭をぽん☆と撫で、

「それに気づいただけでも、上等だよ」

 石勝は後ろ頭に腕を組み、

「よし、これで俺が教えることはもうないな。後は、自分で考えろ」

「……ふん、何様のつもりなんだか」

 鼻で笑いながら、でも目は優しく笑う美多佳。


「まあ、罪滅ぼしじゃないけど、一つくらいは恩返ししてあげるわ。『先輩』」

 そう言い、美多佳は石勝に近づき、優しく唇を重ねた。

「…今のは、今までの感謝の気持ちだから」

 顔を背け、耳まで真っ赤な美多佳は病室を出て行った。


 しばし呆然とした石勝、やがて、くすくす笑い、

「…ったく。この年で照れるのは恥ずかしいっつーのに」


 こうして、みんなのわだかまりが一つ一つ解けていく…。

 

 一方、

 JTR本社ビル社長室で、

「なんだと!? 全滅!?」

 呆然としながら震える社長。 

「現地との連絡が途絶えた。間違いない。少なくとも失敗ではあるな」

 謎の人物は抑揚のない声で

「ターゲットは生きていて、今日現在でこちらの生存確認はない。この状況を成功とは言わんだろうな…」

 そして気づくと一人になっていた社長は、握り拳を震わせ、

「もう紳士的対応はやめだ! これより実力行使に移る!」

 が、その反撃は意外な形で現れることになる…

 そして、

 災害復旧が関係者と現地作業員の極力によって尋常でない早さで終わり、県議会が崩落の危険性がある二羽黒山の保全事業を異例の早さで可決し、関連事業収入も月ごとに増加していくということで、再生軌道へ本格的に動き出してきた。


 そんなこんなで年も明け、季節は、春。


 そんな休日の朝、みどりかぜ高原駅前では。

 報道関係の車や人でごった返しているのだが、それでも寂しい集まりの方を見てみよう。

 駅入口で、みどりかぜ鉄道側に招待されたキハ社長は憮然とした表情のまま、テレビカメラを前に女性リポーターからインタビューを受けているようだ。

「…つまり、リゾート法によって大規模開発が出来、この鉄道を根本的に見直す事にもなる以上、この様な叛乱は断じて容認できるものではないと…」

 苦虫を潰したように口元を歪める社長。

 こそへ、まるで他人を装うように、ニヤリと笑った美多佳は、

「大東京日報の吉祥寺です。とある筋の情報ですが、使途不明の金銭収受が多数、社長自身が行ったという話がありますが、本当ですか?」

 その場のマスコミが一瞬ざわついたが、一気にそれを後追いし始める。


 これが最終的に、キハ社長による政財界の贈収賄に始まる、各種事件が発覚するきっかけになる…

 が、それはひとまずおいといて。


 一方、駅ホームでは。

 入線している新塗装のキハ181系(中間車にサロE231系を連結)の5両編成を撮影しまくる鉄道ファンの群れ。

 また、立会監視台では『ハセベ駅長用』と書かれたお立ち台で、ハセベさんがお座りして周囲を見渡すように首を振る。

 それを見て大歓声の観光客たちだ。

 また、列車最後尾で顔を真っ赤にしているクロハも車掌としても乗務するのだが、アキバ系の連中に囲まれ、写真を撮られまくっている。しかも安藤がここぞとばかりに、敬礼を始め、次々とポーズを要求してくるので、半泣き状態だ。

(後に、キレたクロハに「クロハ急行キック」を食らうことになる(苦笑))

 その時に発車ベルが鳴る。クロハはマイクを握り締め、

「お待たせしました。臨時観光列車『みどりかぜ1号』まもなく発車です!」

 運転席のハガネ、前方を指差呼称。

 汽笛を鳴らして動き出す列車に、フラッシュ焚かれまくりだ。


 同じ時間、三峰峠駅は、時ならぬパニック状態。

 入線しているまっさらな新車(完全リニューアル改造の意味)である、みどりかぜ仕様に統一塗装デザインされた小田急50000形同型車+中間車サロE531系である。

 その列車だけでも目を引くが、運転士兼コンダクターであるなるせ(ヘッドセットマイク装備)と、制服を模したデザインのメイド服(「臨時客扱」の腕章付)に身を包んでいる小日向姉妹が、車両先頭に立って敬礼のポーズ。

 交通の便とホームページの宣伝等があり、観客動員数(?)はみどりかぜ側のそれを大きく上回っている。


 なるせいわく「萌えはこっちが上でなきゃ」との事。


 その時に発車ベルが鳴る。

 小日向姉妹はそれぞれ散り、ドア前に立って乗客を迎え入れる。

 運転席(ホーム監視モニターを追加装備)に座ったなるせは、

「お待たせしました。臨時観光列車『みどりかぜ2号』まもなく発車です!」

 運転席のなるせ、前方を指差呼称。

 汽笛を鳴らして動き出す列車に、フラッシュ焚かれまくりだ。


「これが、復活の第一歩」

 クロハは、そう語った。


『みどりかぜ1号』が縁日で賑わう龍真神社駅前に停車。参道も人で溢れている。

 ホームを挟んで、乗務員室にいるクロハに向かって手を振る笑顔の綾。

 車内の情景に、クロハの車内アナウンスが被り、

「元々は、この鉄道を残したいと思った父さんと母さんの夢なんです」


――『2号』車内では、小日向五姉妹がコスプレ制服で、その手のマニア連中に大歓声の車内を練り歩く。


「そして、形見でもあるこの鉄道を守りたい、クロハの夢」


――『1号』が茜森温泉駅ホームを通過する瞬間、ハガネの視線に止まったのは、ホーム中央で微笑し軽く手を振る巴。


 巴に向かって軽く笑い、ピッと敬礼するハガネ。

「クロハの思いを判ってくれた、ハガネお兄ちゃんの夢」

 『2号』の座席の一つ、に、ちゃっかり座ってるほむらは、取材で同行しているはずのスーに、どんどんと食べ物をおごって貰っているのも凄いが。


 そして『1号』列車は目の前のトンネルに入っていく。

「自分たちの故郷を大切にしたい、ありのままの自然を大切にしたい、みんなの夢!」


 トンネルから出た途端、秋桜が丘では、

 桜吹雪と雪煙が風圧で列車を取り囲むように舞う。

 あたかも、桜色のダイヤモンドダストに包まれる感じだ。

 一瞬、その余りにも幻想的な光景で、言葉を失う。

 そして、外を魅入り、歓喜する乗客たち。


 クロハも窓から身を乗り出し極上の笑み。

「その思いは、これからも、いつまでも走り続けていくの……」


 列車は、走り去っていく…


 こうして、緑風高原鉄道の再生は、その舵を切った…



 月日は流れたようで、

 まもなく成人式を向かえる予定のクロハなのだが、

「うう…、なるおねーちゃんのうそつきー!」

 身長が2センチほど伸びたくらいで、昔のまま。胸はほんのりのままだし…。

 それ以前に、今着ている制服は、クロハがこの鉄道でバイトを始めた時に着てる物そのままなのだ(苦笑)

「うわあっ!」

 がばっと起きるクロハ。

「ゆ、夢か…」

 視線を落として、自分の胸をさわさわ★

 あからさまにたわわなそれを触りつつ、

「びっくりした…。いきなり元に戻ったかと思ったよ」

 ンなわけあるかい(苦笑)

『甘いわね! クロハ!』

 どこからともなく聞こえる綾の自信満々な声!

 ぽん☆と煙に包まれたクロハ、いつものちんまい姿に!

「ええええ!?」

 驚く中、ピピピっと電子音が鳴り響き…

 …うっすら目を開けたクロハ。

 時間は、朝5時半。

「…うー! なんなんだよお今のヘンな夢はっ!」


 というのも、実は…


「不確定性フィードバックのオーバーフロー?」

「簡単に言えば『未来で予想される記録』が『夢で混じる』現象があちこちで起きてる」

 荷造り中の小日向家。

 あやみの疑問にさらりと答えたかのんだ。そのまま続けて、

「台風の時の現状修正やほむらの『呪文』、みどりかぜ鉄道容認論への世論誘導するために使った『想い』とか色々あるけど、結果、この世界での『力』が飽和してるんだよ」

 かのんは、コンピュータの部品をダンボールにしまいながら、

「まあ、そのせいで監察官に『検索』されたみたいだから、こうしてずらかるわけだし」

「でも、それは大丈夫ですの?」

 めぐみが皿を新聞紙で包みながら聞く。

「ほむら達がいなくなれば『記憶が風化』していくから、問題ない」

 かのんは苦笑しながら、

「あい変らず、こればっかりは寂しいよねー。まあ、ボク達ってのは、本当は存在してちゃいけない『生命』だから仕方ないんだろうけどねー」

 らえるはぱんぱんと手を叩きながら、

「さあさ、お喋りはそのくらいにして。準備が出来たら『往き』ましょう。監察官が現時に来る前にお暇しましょうね」

「はーい」全員の素直な返事。

 そしてこの日の夜。

 二羽黒山からの光芒を見たものはただの一人もいなく、ここに住んでいたはずの小日向姉妹を知る、そして彼女たちが関わった全ての記憶は、皆の中から消えているのだ。

 唯一人を除いて。

「…せやから、言っても信用されへんから心にしまうゆうてるやろ?」

 スーは、携帯に付けている『カオストラップ』を見る。

 ひまわりの種が出来る所の部分がほむらの顔になっている、まさにカオスなストラップだ。

「まあ、一人くらい覚えておいて貰いたいっていう、気持ちは判るけどな…」

 


 そ れ か ら 幾 年 か 経 ち …


 クロハが正規の職員となって、最初に決めたことがある。

 列車が発車した際の、車内アナウンスの最初の一言だ。

 堅苦しい挨拶も悪くは無いし、でも、判りやすく簡潔で、乗ってもらうお客さんのココロをがっちりキャッチするには…として、真っ先に出る言葉が、これだ。


『みどりかぜ高原鉄道へ、ようこそ!』


 ちょっとだけ改造されているみどりかぜ高原駅。

 小さい雑居ビルくらいに改築されているのだが、なんか、それが中野駅南口に見えないこともないけど。

 山のふもとや谷口には、40m級の大風車発電機がそれぞれ20機ずつ稼動しており、碧風高原鉄道はもちろん、沿線を含む約1万世帯と商工業施設に電力を供給しているのだ。

 当然この風力発電は新たな観光名所にもなり、また、全国の自治体から様々な政策に生かすための参考にと、視察に訪れているようだ。


 そして。

 かつて空き部屋だった会議室も、いつの間にか社長室になっていたりする。

「社長ー、目を通してもらいたい書類が…」

 書類を持ってクロハが入ってくる。

 社長机にはいない。

 汗ジトで視線をずらすと、畳敷きの8畳間に置いたちゃぶ台前に寝そべり、お菓子食べながら深夜アニメ(を録画したもの)を見ているなるせの姿。

 そばにはのんびりお昼寝中のハセベさん(現役引退)もいる。

「社長っ!」

「んもー。その堅い言い方はやめてって言ってるナリよー、クーちゃんてば」

 クロハも成人式を済ませ、妙齢の美人(というにはまだ幼さが残る)と言ってもいい。

 昔とは違いまあ年相応には成長しているようだ(クロハ曰く「なるおねーちゃんに言いくるめられた」とのこと)。

「だいたい、アタシが社長って言ったって、肩書きだけでいいって話だったナリよー。確かにこっそりやってた財テクの資金で大株主にはなってるナリけど…」

 ぶうたれるなるせ。

 クロハは、だいぶ年老いた感じが漂うハセベさんを左手で撫でながら、

「まったく普段は仕事しない社長さんだよね、なるおねーちゃんてば。ねー、ハセベさん」

「わふう~」

 のんびり。

「へいへい。じゃあ、仕方ないからニュースでも見ますかねっと」

 寝っころがったまま、なるせはチャンネルを変え、

『本日のトップニュースです。先日発足した第2次長良川内閣ですが、今後10年以内に新エネルギー発電推進により、新たな環境社会を配慮する内容が閣議で決まったようです。伊勢崎官房長官の会見で…』

「結局、ここの鉄道が事業モデルになってくのかー。著作権使用料とか欲しいナリね」

 そんななるせのせりふに、思わず汗ジトで苦笑するクロハ。

 そこに、駅員が飛び込んできた。

「すいません! 助役は!?」

「どしたの!?」

「シルクさんが、ちょっと!」

「今行きますっ!」

 クロハは慌てて出て行く。

 そうか、クロハは助役さんになっていたのか。


「納得できませんわ!」

「ナニ言ってるんだよっ! これはこれでいいの!」

 JTRの件が原因で、正道を歩むべきと考える本人と清濁併せ呑むべきと考える親(だから、キハ社長はシルクを超えて好き勝手出来たのだ)と不仲になって、故あってここで修行(実質的な勘当)をされたシルク・D・ソレイユは、碧風高原鉄道で、表向きは契約社員として働いているのだが。

 何しろ鉄道業界の内情に精通している上に、それ以外は世間知らずのお嬢様なので、とにかくトラブルが耐えない。

 もちろん、クロハをはじめ、それなりに仲はいいのだが…。

「『旅客営業規則』には“列車貸切乗車券の販売は車両5両を超える場合”と明記されているはずですわ!」

「だからそれはあくまでも原則。ここでは気動車は最大でも3両編成でしか運行しないんだってば! だから“全車貸切×3”の計算でするのっ!」

「それでは運賃計算上で不合理が生じるじゃないの!?」

 なんか、鉄道業務にやたら詳しい綾といるみたいで、とにかく仕事ではケンカの耐えないシルクとクロハ。

 だが、

「どうしたの? なんか騒がしいけど…」

 運転指令所へ行く途中のハガネが顔を出す。

「お兄ちゃん!」「ハガネ殿!」

 事情を知らないので、ハガネは普通に、

「事情は良くわからないけど、他のみんなもいるんだから、迷惑賭けちゃ駄目だよ」

「ぶー。わかったよう…」

「ま、まあハガネ殿がそう言うのなら…」

 結局素直に従っちゃうのもまあいい子達なのかな。

「あ、指令所に行かなきゃ…。じゃあ、二人とも仲良くね!」

 そういい、ハガネはその場を後にする。

 なんか、早くも迷コンビ誕生の予感。


「おはようございます!」

 先ほどの道草で、ギリギリで運転指令所に入ってくるハガネ。

「おはよう班長」

「おはようです若旦那!」

 すでにJTRを退職し、ここで管区駅長(JTRと名称が違うだけで、複数駅を管理する地区駅長と同じ。

特にみどりかぜ高原駅は“あの”駅長なので)として安定した管理能力をフルに発揮する地区駅長と、JTRがもろもろの事態に陥ってリストラの憂き目に会ったときにうまく滑り込み、みどりかぜ鉄道で運転局長として後輩の指導に当たる川島がすでにいた。

 地区駅長改め管区駅長は、何班かに別れている運転士の班長になっているハガネを、職場の統制も考えて、班長と呼ぶ。


 あ。

 その、もろもろも話しておかないといけませんな。


 元は、美多佳が情報をリークしたことに始まる。

 キハ社長がみどりかぜ鉄道を追い込むために、政財界の関係者との間に金銭授受があった事実をマスコミがいる面前で叩きつけたのだ。

 これがJTR幹部や国土交通省幹部を巻き込んだ大規模な贈収賄事件に発展し、結果、社長退任を迫られるコトになる。

(なお、一部に流れたとされるブラックマネーについては、ついに証拠が見つからずに嫌疑不十分となっているようだ)

 その時でさえ、陽気に笑いながら

「生きていれば、もう一回くらいやれるさ!」

 と、言ったとか言わないとか。

 これにより、企業の透明健全化や効率の良い更なる民営化をせざるを得なかったJTRは、全国をブロックごとに分けた分社化をすることになる。

(一例だが、これによる分社化で誕生したミニブロック企業体の一つ、JTR静岡は、県内で快速列車の運行を開始し、地域住民に喜ばれているようだ)

 その際に、業態のスリム化として大胆なリストラが行われたが、その際にかなりの地元職員が逆に、みどりかぜ鉄道に再雇用され、鉄道会社としての体裁は一気に整ったのだ。


 話を戻して。

「ですから川島さん、さすがに若旦那って言うのは…。みんなそう呼ぶから後輩に示しがつきませんよ~」

「まあいいからいいから(苦笑)」

 とことんマイペースな川島。

「お。そう言えば班長、常務が呼んでいたぞ?」

 と言われ、事務室へ。

「麗夏さーん、いますか?」

「ああハガネさん。急に呼んでしまってゴメンナサイ。社長が、最終決裁は副社長に任せるって言うから…」

 デスクワークに忙殺されていた麗夏、書類の束をどん!と置き、

「乗務の時間まで、出来るだけ目を通してください」

 目を丸くして汗ジトのハガネ。


「せやから! これじゃアカンゆーてるやろ!」

 若い記者らしき男を叱り飛ばしている安藤。

 南北新聞社の政治部デスクとして、結構有能振りを発揮しているようだ。

「まあまあ、そう若い者を責めないで。まだまだこれからなんだから」

 苦笑しながら現れたのは美多佳。

「あ、総局長! お疲れ様DEATH!」

「こらこら(苦笑)」

 大分丸くなった感じのする美多佳、口に手を当てコロコロ笑うのもなんか可愛いのだが。

 もちろん、その左手に光る指輪も。

「まあ、ウチのダンナみたいなヘタレなら、ガツンと言ってもいいんだろうけど(苦笑)」

「ああ、あの(爆笑)」

「一応、社外取締役なのに、完全に向こう側で楽しんでるものね」

 そのダンナは、

「…くる、くる! くるくるくる!! キターーー!!」

 高速で山間を通過するリニアモーター新幹線を、山の中で撮影している石勝がいた。

 どうやら、デジカメで撮っているようで、すぐに画像チェックしている。

「…よーしよし。この『電チラ』はウケるな」

 にんまり笑う石勝。同行しているアシスタントらしい若いライラーは、困り顔で、

「いいんですかー、ここってマニア秘密のポイントなんでしょ? 副編集長」

「東北リニアの屋外走行撮影ポイントってここしかないんだよ。殆どトンネルだからな」

 今度はスチールカメラを準備し、

「まあ、こんな山奥まで来る勇気のある読者がいるなら、それに感謝して、かな」

 石勝チトセ、現在『月刊鉄道ジャンプ』副編集長として、改めて目覚めた鉄道の世界に。

 仕事を超えて、趣味としてのめりこんでいくのだが…(苦笑)

 とまあ、

 そんな状況を思って苦笑する美多佳は、

「そういうキミの友達だって、大して変わってないんじゃない?」

「まあ、そうでんな。でも結構お気楽やないんですかね」

 そのお仲間は。

「先生ー! 締め切りはとっくに過ぎてるんですよ! 印刷所は輪転機止めて待ってんですよ! ちゃっちゃと書いてくださいよ!」

「そうガミガミゆーなや。下痢じゃあるまいしネタはするする出てこないがなー」

 某高級ホテルの一室にカンズメにされて、ノートパソコンを前に腕組しているスー。

 一緒に居るのは恐らく編集者なのだろうが、ずいぶんと血相を変えているようだ。

 というのも、

 小日向姉妹の『記憶』が唯一残っている者なので、それをアレンジしつつ暇つぶしに書いた『向日葵の彼方に』と言う作品が、どこをどう間違ったのか、それとも小日向姉妹の誰かがいたずらで残した『力』なのか、なんと日本ファンタジーノベル大賞なんか受賞しちゃた(苦笑)ものだから、さあ大変。

 一応は人気作家の端くれみたいなことになっているようだが、この先生、とにかく筆が遅いのが定評。

 最後尾はスーさんか火浦功かといった感じで、今日も締め切りに苦しんでいるようだ。

「まあ、羽振りはええみたいですよ。よく奢って貰ってますし」

 それはうらやましいな。別の意味で(苦笑)


 一方、

 『歪んだ時間』が戻り廃墟と化していた小日向姉妹の住んでいた家があったところには、宅地造成や市街化が進み、そこにみどりかぜ鉄道の関連会社である『のほほん電力㈱』が出来て、もう随分経つ。

 そこの特高変電所から、どーみても手製で作ったとしか思えない引込線が山の中に向かって延びているのだが…

「ふっふっふ…! あーっはっは!」

 スパークの中、高笑いしているのは、白衣姿の徳那賀。

「出来た、出来たぞ! 1024ギガバイトのUSBメモリが!」

 おいおい! んなもん発表したらコンピュータ業界ひっくり返るって!(苦笑)


 そして、

 事務仕事から解放(正確にはクロハに更に押し付けた)され、ホームで列車を点検しながら発車待ちしているハガネ。

「ばうっ!」

 制帽を被っている犬がとてとて走ってくる。

「お疲れ様、タカセさん」

 みどりかぜ高原駅の2代目駅長であるタカセさん。

 首輪の色以外、ハセベさんと区別がつかないほど良く似ているタカセさんなのだ。

 そのタカセさんの背中にメモ書きが結び付けられているので、受け取って開封してみる。

「ええと…『帰りに大根とたまねぎ買ってきて。BY クロハ』。おいおい…(苦笑)」

 相変わらず下僕のようです。このお兄ちゃんは(苦笑)


 増収増益の結果、無事車両更新も出来まして。

 キハE200形(2両編成)が、汽笛も軽くなって発車していく。

 架け替え工事も出来て安全性の増した上軽備鉄橋を軽快に走り抜け、建物も増えてベットタウンと化した農宅共同地域の徳那賀で乗客が乗り始める。


 簡易駅舎がそのままな龍真神社駅では、巫女姿の綾が掃除をしていた。

「おはようございます! ハガネお兄様☆」

 すっかりその呼び方に慣れてしまったハガネも、

「おはよう綾ちゃん。今日はおうちでお仕事?」

「ええ。午後から街の方に出て、授業がありますけど」

 にっこり笑う綾。

「大変だね、神社のお仕事と、大学で助手もしているんでしょ?」

「そんなことありませんわ。こうして色々やれていることは楽しいですもの」

 ハガネは優しい笑みで、

「そっか。頑張ってね」

 綾の頭をぽんぽん撫でる。

「もう、ハガネお兄様ったら! わたしはもう子供ではありませんわ!」

 苦笑する綾。

「では、また後で。お仕事頑張ってくださいましー」

 手を振って見送る綾なのだ。


 建物は古いが適度に整備されいる梶取操車場に停車。

 同敷地内にあった『徳那賀万能科学研究所』は「趣味なのじゃ!」ということで先ほどの場所に移転し、元研究所は拡大整備され『エクセルワード総合研究所』としてその研究パテントは徳那賀氏の懐具合を潤し、怪しくない発明品はメーカーと提携して販売開発されていく。

 怪しい発明は「秘密じゃ!」とのコト。

 その梶取操車場も整備が進み、電車、気動車両方の全般検査まで行えるように、設備も人員も増えている。

(大半はJTRからのリストラ転職組)


 そして山間を抜け、茜森温泉駅へ。

 変わったと言えば、駅玄関になる歌舞伎門の屋根が茅葺から瓦葺に変わったくらいだ。

 到着する列車を手を振って迎えたのは巴。

「あなたー」

 ハガネも運転席から身を乗り出し、

「巴ー! お疲れ様っ」

 巴は両手サイズの包みを取り出し、

「はい、お弁当。向こうに着いたら食べてね」

「うん。ありがとう」

 笑んで受け取るハガネ。ちょっとおすましつつ、

「えと、今日は遅くなるの…かな?」

「今日は、若女将が来るから、夕方には帰れるかな…? だから夕食はわたしが作るわ。クロハちゃんに食材の買出しリストは朝連絡してあるし…」

 考えながら言う。

「それ、僕に押し付けられた(苦笑)」

「もう、クロハちゃんたら…」

 互いに苦笑。

 そして、二人は軽くキスし、

「じゃ、また後で!」

「はい。言ってらっしゃい」


 こうして、皆がそれぞれ幸せになっていく。

 その中心には、一度は廃止を余儀なくされた一本のローカル線が常に有った。

 時には争い、時には悲しみ、そして喜びを分かち合う。

 生きていくのに忙しい今、思い出はいつか風化し、忘れられてしまうかもしれない。

 そんな時、一度訪れてみませんか?

 みどりかぜ高原へ。


 そんな、各人が様々なところで生きていく。

 ある人デスクに、ある人は運転席に、家の写真立てに、収まっている同じ写真。


 古ぼけた写真だ。

 地域住民だけでなく、当時の観光客まで混じっている、まさに集合写真。

 が、当時のみどりかぜ高原駅をバックに収まって写っている。


 今でも、その写真の中の幼い15歳のクロハは、元気に笑っていた。



 全 て の 始 ま り は こ の 笑 顔 の 元 に 



                                      ~終~

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