不死の代償
私はある時、不死の力を手に入れた。
その時、私は既にヨボヨボの老婆になっていた。
三人のひ孫に看取られながら、間もなく息を引き取る。
そんなタイミングで、神は私に不死の力を授けた。
私は感謝した。しかし同時に困惑した。
この姿で、指一つ動かせなくなったこの体で何をしろというのか。
神は、そんな私に少しずつ、少しずつ力を取り戻させてくれた。
私は少しずつ若返って行った。
しかし、それは本当に少しずつだった。
ひ孫のひ孫が亡くなるのを看取った時、私はようやく中年の姿まで力を取り戻した。
人類は進歩した。
蒸気が発達し、機械が発達した。
やがて宇宙に飛び出し他の星々と行き来するようになる。
その時、私の体はすっかり若返っていた。
魔法は継承者がいなくなり、私しか使えなくなっていた。
私は興味本位で様々な星を訪れた。
月。火星。水星。金星。
木星は重力が強すぎて、人類が滅ぶまでについに足を踏み入れることはなかった。
そう、人類は滅びてしまった。
私一人を除いて。
あれから、どれほどの月日が流れただろうか。
自慢の胸も萎んでしまった。
銀色の髪も伸び放題。
しかし、困ったことが一つあった。
鏡が無くなってしまったのだ。
自分の姿が見えれない。
乙女としてそれは問題である。
乙女というには、少しばかり年を重ねてしまったが。
数億年程度。だけどね。
カリフォルニアに辛うじて残っていた農業プラントを修理する。
自分だって不死だがお腹は空く。食べ物が無ければ辛さは感じる。死なないけど。
小麦プラントから小麦を収穫し、パンを焼く。
合成ソーセージを焼き、一生懸命こねてホットドックを作った。
我ながら上手に出来た。最近は娘が作っていたホットドックに味を似せる事に成功した。
そうだ、たまには外で食べよう。
玄関から出て、階段に腰を下ろす。
そしてホットドックを一口。
人類が滅びてから一億年は経ったが、今でも家族と一緒に食事をしたいと思う事はある。
一人は、やっぱりさびしい。
私は、また老婆の姿になってしまっているのだろうか。
今は知るすべがない。
もう、どうでもいいことなのかもしれない。
ホットドックにたっぷりつけた粒マスタードが、ピリリと舌を刺激した。
挿絵を使ったお題小説でした
読んでいただきありがとうございました!
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