断片的な神の山羊楯
眼鏡のクソ野郎がにやりと笑った。つり上がった口角に緩んだ口許、歪な笑みに肩を震わせ八面六臂は真横へすらりとステップを踏んで揺れ動いた。
その途端、奴の動きへと連動する様に右腕が痛んだ。筋を引っ掻けた様な、それでいてスッと通り過ぎた束の間の苦痛。それが走った俺の右腕には、深さ5ミリ足らずの浅い切り傷が生まれていた。さほど痛みは無いが、出血量は後々に響くために馬鹿には出来なかった。
だが、問題はヒトエだ。どう見ても即死、本当に水溜まりみたいな、なみなみとした血溜まりに生首と首無し胴体が倒れていた。真っ赤に染まったハンチング、輝く髪には真紅の飛沫がまるで染み入る様に絡み付いていた。
色白の肌は蒼白く、そして、その上にはただ赤く濃く疑い様も無く致死量の鮮血がまとわりついていた。色白の肌は蒼白く、そして、その上にはただ赤く濃く疑い様も無く致死量の鮮血がまとわりついていた。
もう治療では助からない、それは明白だが、それでも此処には能力者達が居る。傷を癒す者や治癒を早める者、中には他人の傷や痛みを肩代わりするなんていう変わり者でさえも居るのだから。
きっと、どうにか間に合う筈なんだ。
俺は小さく呟き、重ねて自分に暗示を掛けた。きっとやれるさ、大丈夫だと。ヒトエは無事だ、死なれて堪るものかと重ねに重ねてそう願い言い聞かせる。
ならば、やるしか無いのだと自分へと言い聞かせる。頬を叩く両手、切り傷だらけのそれは力を動かす些細なキーにしかならない。それでも、今はそれに縋るしか無かった。
「来ないなら、行くぜ篠崎バカダライィイイイイ!!」
クソ眼鏡が叫び、此方に向かって猪突してくる。同時に、右腕の真横を深い斬撃が走った。
神経に刺さる刃の様な断裂の痛み。それに耐えかねて右腕を押さえてしまった、これではトドメを刺せと言わんばかりの状態だった。
「ははっ、脆いね弱いね盥野郎ちゃんよォ? 《盥の錬金術師》だァ? 笑わせんなよ屑鉄野郎がァ!!」
男の声を背に、構え、
「堕ちろ天罰!!」
解き放とうとした瞬間、
「やらせねーよバーカ」
深く、刺さる痛みが胸を貫く。沈み、捩じ込まれていく強い力に屈服しそうになる。
奴は背後に居る筈なのに、その攻撃は真っ正面から襲い掛かって来たのであった。弾ける痛みに解ける肉質、捩じ込まれる冷たく鋭利な感触に俺は――
「ん……!?」
――拭いきれない違和感と冷たく痛く不自然な肌触りを感じた。さながらナイフの様な、いや間違いなく刃物こそが持ちうる鋼鉄の感触を肌に感じた。
抉られる胸、押し通す様な力を感じるそこには明らかに不可思議な、血生臭い違和感の原因が存在していた。血の流れるそこは明らかに異常、宙にある“見えない何か”を避ける様に赤々とした血が流れ出ていた。
「踊らされていたね、いや踊り狂っていたのは僕の方かも知れないね?
違うかい《盥の錬金術師》、いや……違わないねッ!!」
「ぐっ……!」
勝ち誇った笑みを浮かべる気に食わない眼鏡を前に、俺は、痛みを堪えて目前の虚無を掴んだ。グレーの壁と、それを満遍無く照らすELパネルが織り成す無機質な光景。その一本道、手前にある“見えない何か”のその根元。
そこには、やはり確かな腕を掴む感覚が存在していた。
「ははん、“虚仮威しめいた”ね……?」
「ぐあっ、クソ!!」
「見えたよグランギニョル、血生臭くて安っぽいクソ野郎の正体がな!!」
未だに血がダクダクと滴る右腕を振りかざす、見えない奴の頭上、グランギニョルの真実が眠るその目前へと。そして、俺は叫ぶ同時にその手を強く振り下ろした。
こいつを倒すのには力なんて要らない、ただその手を“そこ”へと叩き付けるだけで良かった。見えない奴の首筋へと、俺はどぎついチョップを放った。
「天っ罰!!」
奴の力は恐らく錯視、光か視界かを掻き回して距離や存在を誤認させる程度の能力だ。鎌鼬でも何でもない、手に持つナイフで俺を切り裂けば良いだけの単純明快なトリックだった。
俺を切り裂く為の距離、実は相当な至近距離に奴は居た。能力ではなく、自らナイフで手を下したのだ。
気絶したのかよろめいたのか、奴の手からナイフが転がり姿を表す。黒いシンプルな刃に艶消しを施されたカーボンファイバーの刀身、姿を見せた奴の腕ごと、俺はそれを踏みつけにした。
「がっ!!?」
ナイフを蹴飛ばし、顔面に向かってトウキックをぶつかる。八面六臂の鼻っ柱がひしゃげ、眼鏡が砕けて地面にカチャリと落下した。それでも奴は強く、依然倒れる事無く立ち続けていた。
根性だけは見上げた物だ。ただ、俺の身体にも限界が来ていた。
なみなみと拡がる血色の水面、赤く明滅を始めた視界に男の狂った笑みが飛び込む。すかさず、俺はよろけ混じりに左へと身をかわした。
「ちっ」
クソ野郎の舌打ちが響いた。奴は、不自然な姿勢のままで肩を捩って身をくねらせていた。それが、手を掴まれていた故の姿勢だと理解するまで、俺は束の間首を傾げていた。
そして、その手を掴んでいたのは白い腕。しかし大きく武骨、そしてよく見ると8本指の化け物だった。ヒトエと同じその肌色、おぞましい何かに畏怖する様に目線をそらすと、それがヒトエの首から生えていたという事実に気が付いてしまった。
「ひえっ!? はひい!!?」
余りに恐怖したのか、八面六臂は能力を解いて慄く。そんな奴に対して、転がる少女の生首は話を始める。不気味な程に明瞭な声、声帯だけがにょろりと垂れた頭は呟く。
「流石に切れたわ、確かに頭はちょん切れた。笑えないわね? だから、私は貴方を許さない。《断片的な神の山羊楯》、しかとその身に刻み込め――っ!」
メキメキと、男の腕が音を立てて捩れた。そんな最中に切り裂かれたヒトエの胴体には大腕の脇に頭が、生首にはもう1つのちゃんとした身体が生まれでていた。
「いぎゃっ!!?」
腕の骨が皮膚を裂いて飛び出た、血肉が床へと飛び散り落ちた。《断片的な神の山羊楯》、フラグメンテーション・アイギス。異形の身体再生が織り成す恐怖の景色を、その夥しい程の惨たらしさを俺は全身に感じていた。
背筋は凍り、手は震え、膝は笑って立てなくなった。鳥肌とむず痒さが全身にあらわれ、胸は苦しみ、喉は咳して吐瀉物を放出していた。
ヒトエは呟く、2人に分裂しても尚、まるで1つの口頭で語るかの様に口々に喋った。
「気持ち悪い?」
1人が寂しげに訊ねた。
「嫌いになった?」
「好きになれない?」
1人が呟き、もう1人は涙を溢した。それが、どうしようもなく悲しく感じて、問われた俺は涙を流していた。
鼻が潰れた男はもう、息の1つもする事を忘れていた。白眼を剥いて、凍った笑みで気絶をしていた。
そんな中で、生首だった方のヒトエが俺に向かって歩み寄って来た。怯える様にそろそろと、それにも関わらずに大きな歩幅で、彼女は抉れた俺の胸部を眺めに近寄る。
そして、それを覗いて静かに訊ねてきた。
「血液型は?」
「B」
圧し殺した少女の声に、俺は短く一言で答えた。
すると、もう一方の彼女が急かす様に呟く。
「脱いで、後――」
「Rh? プラス? マイナス?」
「Rhはマイナスだ、何故か《能力者》には多いらしいな?」
と、それに答えながらも上着を脱ぎ捨て、大きく裂けたシャツを破った。
大腕を萎める様に首へと収めて、ヒトエは静かに胸元へと指先を触れさせた。赤く、でろりとした生傷を少女の指先がなぞった。
何をするのか――恐怖の中にも――それを理解した俺は、ただ首を傾げた少女に対して頷く。頭に浮かんだ不気味な光景、しかし現実はそこまで残忍でも無かった。
「痒くなるけど我慢しなさい」
呟くヒトエと逆の方、一糸纏わぬ生首だった方のヒトエは自らの指先をパクリと口深くに銜えた。
そして、その指に滴る白く濁りきった唾液を傷口へと押し合て、そしてそれを容赦無く塗り込み始めた。
傷の痛みに顔をしかめると、ヒトエは短くぴしゃりと俺を叱った。
「男の子なんだから」
「なんだか、母親みたいな叱り方だな」
「笑いなさいよ、馬鹿らしく馬鹿笑いしなさい。そうすれば気くらいは晴れるわ。後、裸まじまじと見ないで童貞」
まるで自分やその場を取り繕う様なその言い草に対して、居た堪れない思いに駆られて俺は訊ねる。デリカシーが無いのか、俺は単刀直入に口走ってしまった。
「どんな力だ、それ?」「フラグメンテーション・アイギス。神が与えた一生朽ちない究極の肉壁、テラどころかゼタ、ヨタ相当の半永久的再生能力」
「気持ち悪いでしょう?」
何も言えない、返す言葉を探せなかった俺に向かって生首だったヒトエは続けた。
「応用できれば、脂肪の壁も無限の力も……永遠の命でさえ手に入ってしまう虚しくも侘しいだけの能力なのよ。詰まらないわ、死ぬ事さえも怖くは無いのよ?」
「…………」
「無限に、そして任意に増やせるたんぱく質と鉄分の塊。対価はそうね、生きる意味を探せなくなる位かしら」
「嘘だろ……?」
分かっていても、目の当たりにした事実だと理解していても尚、俺は彼女に訊ねてしまった。
少女、ヒトエは悲しい目をして俺へと答えた。
「嘘に見えるの? それと寝て、上手く傷口を塞げないから」
新しい服を取りに行くのか、寝そべろうとした視界の隅を血濡れた衣服のヒトエが駆け抜けていった。首筋には傷ひとつ無く、先の光景が嘘みたいに霞んでしまった。
しかし、脳裏と目の前に残った現実は消えない。現実味、リアリティーではなくリアルその物として、裸の彼女は現実を見せつけてきていた。
寝そべる俺へと、少女が音もなく跨がって囁く。
「安心して、私にも弱点は有るの。『頭を潰されたら死ぬ』それは避けられない現実、唯一残された誤魔化しの無い即死」
「どんなつもりだ? 弱点を晒すのは――」
「ええ、馬鹿の無策。所詮は詰まらないお馬鹿さんの気位、私だって死にたくは無いから」
「ますます意味が分からないな」
銀の髪をしゃなりと靡かせた彼女へと、目のやり場に困りながらも俺は答えた。
死にたくないとか死ねないとか、即死だとか永遠だとか話が分からなかった。それこそ、俺が馬鹿だと言われればそれまでなのかも知れないが、どうも彼女の言葉には捻くれた何かが有るのではないかと俺は感じていた。
有るとか無いとか、本当にややこしい会話を一新しようと話題を変えようとしてみた。
「八面六臂、一体あの野郎は何者なんだ? やたら偉ぶっていたド外道だったが、俺には結局のところいまいち状況が分からん」
すると、ばつが悪そうな表情をしてヒトエは淡泊に答えた。
「三下。調子に乗って仕切っていた気違いスパイ、名前は木下はじめ君」
「数学じゃないかよ……」
距離や時間を求める公式、それを覚える円図形を思い出しながら俺はぼやいた。ええ、そうよとヒトエは呟き瞳で笑った。
き
━┳━
は┃じ
少しばかりは、場の空気が軽くなった気がしたその時だった。
ボルトも吃驚な物凄い速度の足音と、耳が痛い程のヒトエを呼ぶ声が地下通路へと大音響で響き渡った。
「何事ですかヒトエ大明神様、痴漢ですか変態ですかオッサンですか悪い蟲ケラさんなのですかーっ!!?」
まずは、お前が何事なのかと突っ込む間も無くセーラー服にポニーテール姿の女学生は早口で叫んだ。
手首足首や脹ら脛、そしてポニーテールをシュシュで結わえる様に包帯で結んだ姿が印象的な黒基調の制服の彼女はどうやら中学生。それにしては大きな胸と身長が目につくが、何より今は必死の形相が特に際立って目立っていた。
嫌な予感がすると目を反らした時、俺とヒトエを足元に見付けた彼女は嬉々として微笑む。
ちなみに、地面に倒れた木下はじめ君こと八面六臂の首筋と眼鏡を踏み潰している事を、彼女は気にも止めていない様だった。そうして、クソ眼鏡(元)の声帯機能は瞬く間に破壊されてしまった。
「あーれー、ヒトエ様その男は誰です? 悪い虫です、潰しますー?」
「いや、待て!」
「えーいっ! 足がわざと滑ったーっ!!」
ガンッ! 鈍い音を立てて、折り曲げた首の脇で床板が歪んだ。あそこがヒュンとなる感覚が背筋を走って警鐘を鳴らした。
こいつはヤバい、ガチで殺しに来ているぞ。と。
「おい待てお前!! 待て待て待て――っ!!?」
「聞こえますねー。往生せえやと言いたいですが、清楚でハイソな私は、そっとそれを胸の内にしまい込むのでしたー!」
「嘘だ、お前が清楚だなんて真っ赤な嘘だ!! 堕ちろタライ、疼け、俺の左腕ぇええぇええええええッ!!」
ニコリと悪魔の笑みを浮かべたそいつへと、俺は焦って台詞を唱えた。
火事場のバカ力、窮地き陥った人の覚醒能力とは恐ろしい物で、普段使わなかった本気の詠唱――ノリとメンタルの強化――であるそれを容易く噛まずに口走らせてしまっていた。
「疼け、俺の左腕ぇええぇええええええッ!!
カチ割れ、醜い現実を! 刻み込め、愚かさへの神罰を!!
墜ちろっ……金ダライ――!!」
現時点での最大強化、厚さにして5割重さにして8割増しの黄金ダライが自称清楚に飛翔する。
垂直落下の金ダライ、金色の目映い軌跡を描きながらも隕石がごとき超速度で落下するそれ。光輝く、夢想が導くゴールデンメテオは、ポニーテールの根元である赤茶けた頭部目掛けて落下していく。余りの速さに、世界がスーパースローになる感覚。遅れた視界を赤熱した天誅のタライが行き過ぎる瞬間、俺の意識は世界を置き去りにする程に超加速をしていた。
しかし、その須臾の出来事だった。
「紅い鼻血は忠誠心! 貫け私の騎士道を、さあ覚悟せよ悪党共!!
貫け正義、描けよ花園、《鮮血赤薔薇吸血剣》(ダインスレイヴ)!!」
「え、何それカッコイイ……」
俺は、鼻血滴る鮮血の刃に瞳を奪われてしまった。負けた。そう思った瞬間、世界は一気にはや回しへと変わった。
ひしゃげるタライ、飛び散る火花に炸裂する深紅の断片。紅の斬撃と赤々とした切り口、けたたましい金属音と共に真・王の幸運は打ち破られてしまっていた。情けない事に、至高の奥義はあっさりと敗北を喫した。
2つに裂けたタライ、それが左右彼方へと跳ね退けられ、それを切り裂いた深紅の刃(原材料は鼻血)が俺の首筋数センチで止まった。
「死にますー? 生きます恥辱にまみれてー?」
恐怖する事も忘れていた、上からヒトエが消え去っているという事にも俺は気付けずに居た。ただ、比類無く精緻で美しい忠誠の鮮血(鼻血)の長剣へと俺は見惚れていた。
鼻血だと言うのに、俺はつい、それをカッコイイだのと評価していた。まさしく魔剣(鼻血)、真実を知っていても尚、その偉容は神々しく魔性の魅力を全身から放っていた。(鼻血)
感服した俺には、立ち上がれるだけの気力だなんて当に無かった。
神との出逢いは唐突である、俺は彼女を中二病大明神(仮鼻血)と内心にて命名していた――。
◆◇◆◇◆
「これより、おおよそ第22400034回、重一文字一重サミットを開催する!」
「さあ、作戦会議を始めよう」
「一番に救えない馬鹿が来たけど、一体全体どうするつもり?」
「肉壁防御とか? あれ、裂けると気持ち悪いから嫌よ私」
「《鮮血赤薔薇吸血剣》、ダインスレイヴ……」
「……かっこいい」
「かっこいい!」
◆◇◆◇◆
「やっぱり、格好いいわねあの手の能力」
通路の影、タライの破片が生首だったヒトエの頬を掠めた。両手を万歳で伸ばし、真っ白に洗われたTシャツへと腕を通していた彼女。
そんな彼女へとプラチナのネックレスを手渡して、もう一方の重一文字一重は冷静に付け足す。
「鼻血でさえ無ければ」
「まあね」
ネックレスを受け取り、首に回して生首ヒトエは答えた。ただ、上手く締められないのか、カチャカチャ五月蝿く金具をしきりに鳴らし続けていた。
「彼は言うわ、デリカシーが無いもの。『え、お前らそんなの好きなの?』って」
「ただ、あれは一目惚れした少女の様な瞳よ」
そう言いながら胴体側のヒトエが、生首側に背を向かせてホック金具をカチリと止めてやった。
その間に、生首だったヒトエは自らの長髪をサイドポニーテールの形式に結わえる。
そんな彼女達の目と鼻の先には、窮地に陥りながらも鼻血の刃に魅了された篠崎雄二と、セーラー服姿の長身女学生とが織り成すなんとも奇妙な、あるいは珍妙な力場が存在していた。
赤黒いオーラと感嘆の眼差しが交錯する摩訶不思議な修羅場、それをさっと見遣ると、胴体側のヒトエは眉をしかめて呟く。
「例えが気持ち悪い」
「…………」
その的を射た一言に、2人のヒトエは意気消沈した。しかし、その静寂を破ったのは、また彼女。
「もし、仮に――」
生首側とは違い、再生したまま髪を結い上げずにいた胴体側のヒトエが、勿体振る様に口を開いた。
すると、その続きを生首側のヒトエが横取りをしてしまった。結い上げた髪を直しながらも、サイドポニーのヒトエは頬を弛めた。
「『ちょっとだけ、キューンと来たらどうするのさ?』……って?」
「そう」
頷き合うヒトエ。やっぱり好きなの、とどちらかが訊ねていた。
そして、生首側が首を傾げる。
「彼の事が?」
対して、真っ赤に照れた胴体側が手の平を激しく左右へと振り回して答えた。
しかし、何故かそれを断言できない。
「ち、ちがっ……!!」
「なら、《鮮血赤薔薇吸血剣》が?」
「それこそ違うわ」
今度は静かに、かつ大きく左右へと首を振って胴体側は答えた。
手櫛で髪を撫でつつ、憂う様に目線を細めて、
「分からない」
「ならば尚更、」
「彼には側に居て欲しい」
2人のヒトエは結論付けた。1人なのか、1人じゃないのか。無数に分裂した少女達は未来を見ていた。
「…………結婚?」
「ち、ちがぁ――っ!!」
明るい未来と、その夢と。
その鍵は、案外身近にある物だと決して。男、篠崎雄二の事を見ていた。
◆◇◆◇◆
「最近、俺……死線の行き来が激しくないか?」
女学生の仄暗い瞳は、相変わらずとして俺を見ていた。
抉るような視線で。
お久し振りです、今回はまさかのまさかでこちら側の更新となりました。ええタライの。
本編は遅れて申し訳がありません、原稿全部消失したのでお待ちを! 作者は実は遅筆なのです、今更ですがね!!
さて、今回は苦労しました。無計画な予告が響きましたよ、やっぱりお茶は濁しておくべき物ですかね。しかも、シリアス率が高いからまあまあ……後半どうなるのよ、って感じですね。ええ。
きっと、普通に真面目な話になっちゃうんでしょうかね? もう既に、普通の域ではありませんがこの作品。みんな中二病だったり、或いは力がひねくれていたりと吃驚しました。作者にも関わらずに、です。
やたら多用しがちな少女なんかや“呟く”なんかを減らすのが、私自身の当面の目標ですが、何より今回はヒトエさんがややこしいのなんのって。
ミサカネットワーク? テレパスコミュニケーション? アダプティカルソナーランゲージ? いや、それとは違いますよ?(3つ目は作者内言語)
ヒトエさんは、単細胞生物みたいに肉体細胞を増やせる多細胞生物であり、双子なんかが持ち得る意思疏通能力を保持しているだけです。あるいは、過度のパロール認識力とか、視線会話能力とか読心力とかに長けているだけです。
最近、「メンタリスト」なんて言葉も良く聞きますが、彼らは巧みな心理誘導や極限まで研ぎ澄ました感性で感情の機微を読み取ります。人は、言葉以外にも視線や動作、癖や仕草といった然り気無い行動の内に意思表示をしている訳です。パロールとは、その意思表示だとでも思ってください。オススメのフリーゲームに、NoeSISと言うのが有りますのでそれを遊べば分かるかと思います。
ある意味では、オーラなんかもこれに扱われるのかも知れません。まあ、私自身は心理学もにわかなのでここまでにしましょうか。
さて、次回は謎のダインスレイヴ使いとの対決です、こう御期待!!
不死なる少女に紅の剣劇。垂れ流される鮮血、終わらない戦いと休まらない少年。
島に走る激震、心焼け焦がす業火。例え未来を変えられるとして、その先には何が待つのか。
次回――『時計仕掛けのマタニティブルー』――島の真実、眠る災厄の産声が聞こえる。こう御期待!!
P.S.不定期だよ、不定期なんだからね絶対!! 反響次第では書くかもだけれど。