職人技は絶理の境地
『篠崎雄二:能力《盥の錬金術師》』
「先生、なんっすかコレ?」
「“任意の場所に金ダライを落下させる”、それが君の能力だ。頑張れ少年!」
「……は?」
◆◇◆◇◆
世の中、どうしても壊せない物って有ると思うんだ。例えばそれは物理法則だったり形の無い物だったりする訳で、それでも何故か俺達《能力者》と呼ばれる存在は色々な力を使う事が出来た。いや、訂正しよう――ほんの一握りの《能力者》に限り――物理法則や存在としての形なんて物は皆無だったのだ。
太陽の島、ここは、そんな《能力者》達の学園であり一応は楽園だとされている。
現在は国の脅威とも成り得る彼等《能力者》は、ここで未来永劫に飼い殺しにされようとされていた。完全に管理された総てが手に入る都市、理想郷の名前を冠したその都市は今、“総てが揃う《能力者》の楽園”から永き時を経てディストピア、つまりは“翼をもがれた《能力者》の監獄”と化していたのだ。
突如能力者《盥の錬金術師》として覚醒した俺も例外ではなく、定期健診の会場から即座に輸送され、《サン・アイランド》の一角に部屋を与えられたのだ。
この都市は橋で繋がる群島であり、外部との連絡経路は島と海底トンネル或いは地下鉄及びモノレールで結ばれた島以外は完全に隔絶されていた。それはネットワークでさえ同じで、住民として強制移住させられた人達には監視端末でもある腕輪型携帯の常時着用と島内ネットワークへの接続を強制されるのだ。そして、外と繋がるのは空と海だけとなってしまう。だから、大半の《能力者》には“飼い殺しにされる”か“その生活を享受する”かの二択しか道が無いのだろう。
◆◇◆◇◆
「へぇ……物質生成の能力ですか、それも希少な金属系と。
是非、政府の為に働いていただきましょうじゃ無いですか。
何、どうせメリットも知らずに《盥の錬金術師》は絶望しているでしょうね……それが、神の力だとも知らずにね」
◆◇◆◇◆
「おほほっ! この私に挑戦する馬鹿は居りませんの?
ウェルダンにこんがりと焼いて差し上げましてよ?」
クルクルと髪をドリルの様に左右に垂らした女子生徒は無い胸を自慢げに張りながら辺りを見回す。如何にも高飛車な印象を与える勝気な表情、そして人を蔑む眼差しだけを放つつり目は人を悪い意味で寄せ付けない高尚さが有った。絶対友達居ないだろ、コイツ。
コロッセウムの様な形状を形作る白い壁が目に映えるここは特殊教室である。《能力者》同士のバトル会場である。表向きにはストレス発散用のスポーツとされているが、実態が“軍事転用可能な能力者を探す試験場”だというのは最早知らない能力者は居ない。入学したてで情報に疎い俺ですら知っている、つまりはそれ程までに有名であり悪名高い場所だ。この島一番の見所であり、一番大きな闇を抱えた場所だと言える。今のところは、だが……後に怪しい研究施設でも出てこなければ無問題であろう。
「おい雄二、ちょっとお前行って来い……よっと!」
不覚にも後ろからしたクラスメイト、名前も知らない大柄男に俺は投げ飛ばされてしまった。実際であれば乱入は褒められた行為でも無いし、変に注目を浴びる為に嫌いなのだがこうなっては仕方が無いのだ。俺は渋々と、痛む尻を摩りながら立ち上がった。
「貴方が挑戦者ですの?」
立ち上がり掛けた俺を、障害物として設置されたコンテナから見下ろす高飛車女。桃色とは意外と乙女ちっくな奴だ。彼女は俺にパンツを見られても気にせず、というか獲物である俺を見下すので手一杯なのであろうが腕組みをして港ステージの高みから俺を豹の様な眼差しで見詰めていた。むしろ削岩機ちっくな髪型からして岩場ステージに変えてやれよ、なんて言ったら後が面倒なので止めておこう。
「そうなっちまった様だ、俺は雄二。タライのプロだからよろしく」
《アリーナ》内の観客や島ネットに中継されるこの状況を見た何人が噴出しただろう。そう、俺の能力は《発火能力》でも《空間転移》でも無く《盥の錬金術師》だ。勿論、四肢は完全だし兄も弟も居ないし「湿気たマッチ」呼ばわりする部下も居ない。と、まあ冗談交じりの自己紹介はこの程度にしておこうか。
「ぶっ……ドリフターズですの? 馬鹿らしいですわ。
私は秋、別に名前なんて忘れてくださって結構よ。どうせ貴方も唯、私の無敗記録を彩る内の1部と果てるのでしょうし、おーほっほっほ!」
「初めて見たよ、あんたみたいな笑い方をする奴。
タライに負けて泣きたくなければ降参しときな、責任は取らないぞ。職人である以上は自信を持ってお送りするからな、タライを」
しれっと率直な感想を述べる、爆笑と歓声と煽りと罵声に揺れる《アリーナ》はますます火が付いたガソリンの様に燃え上がる。プロレスのマイクパフォーマンスの様な具合だ、いわば対戦者同士の長髪合戦なのだが、観戦する側から見ればそれなりに面白いらしい。
そして、ドリル秋は降りてくる。もう面倒臭いのでドリルで良いやコイツ。
「ぶはっ、タライだなんて滑稽ですわね! それにしても貴方、死に急ぎたいなら手早く焼いて上げましてよ! この巻き髪を馬鹿にする不遜な輩には、この《火炎統制》(パイロキネシス・テラ)の力を存分に味わわせて差し上げますわ!!」
そう言って火の粉を指先で躍らせ始めたドリル。この島では同系統の能力でも、テラ、ギガ、メガ、キロなどの単位記号を末尾に着けて区別している。要は彼女はテラ、10の12乗つまりは数字にして1兆、大半が強くてもメガかキロかのこの島では充分に強力な《能力者》であるといえる。ドリルの癖に生意気だ。
「参りますわ!」
ドリルはその場で手を此方に突き出す、途端に吹き荒れる熱風が訪れ視界総てが陽炎に揺らいだ。靴裏が大地とくっ付きそうになる熱気に目を細めながらも、俺は余裕を扱いた笑みを浮かべるドリルを睨み付けた。
「……ターゲット、インサイト」
俺はつい呟く、見えないカーソルを夢想して奴の頭上を思い描いた。
「ここは殺人許可エリア、侮辱された以上は殺しても責任は取りませんわよ!!」
この島には物騒なエリアが所々に点在する、そしてそうでなくとも管轄が弱い地域ではひそかに《闇アリーナ》なんかも行なわれているらしい。中々にアンダーグラウンドな裏の顔がある、太陽の島だなんていう癖して日陰も沢山あるらしいな。
吼えたドリル、迫り来る火の大蛇を前に俺は、火の粉や熱を振り払うように、はたまた指揮者が大迫力の演奏を終えるかの様に右手を真横に振り払った。それが合図、能力発動の条件だった。
「行きなさい、私の焔!!」
「酸素を使い過ぎてる性か火の回りが遅いんだな、馬鹿か。
脳の栄養全部ドリル行きか、馬鹿らしい女だ。さあ……“墜ちろ天罰”!!」
――ガッツーン!!
鈍いが、しかし重厚感と清涼感溢れる音色が響いた。
清々しいそれはドリルの全身を痛みとなって、それよりも強い衝撃ともなって駆け巡る。衝突の衝撃にドリルの身長が5センチばかり縮んだ様にも思えた。そう、金色が眩しい器、それは洗濯板が廃れた今となっても煌々と輝きを放っていた。
美しき流線型は中身を溢さない為にそれを擁する母の手となり、その父の胸板が如きそ厚底は総てを支える大黒柱と言っても過言では有るまい。地上で最も美しいタライ、水瓶座の使途、王の幸運と俺が命名した空前絶後の金ダライがドリルの頭頂を直撃していた。それは頭の形に合わせて歪んでも猶、辺縁の芸術的なフォルムをそのままに魅せる強固さを持ち合わせていた。正しくタライの王、最高級の水瓶がそこには存在していた。
「な、なんと……いう、しょ、しょうげ……き……」
――ばたり、ドリルは無様にも地に倒れた。
「だから言ったろう? タライはタライでも職人のタライだってな。
はっ……馬鹿らしいぜ、物は大事にしろよ。特にそのドリルはな。あばよっ」
「お……覚えて、なさいよ……《盥の錬金術師》……! はうっ……」
そして、踵を返す俺。歓声をBGMにして、1人の少女と金ダライをバックに退場する。熱気以上の熱狂と、これから伝説となる俺の噂が華開いちゃった瞬間であった。
「また、詰まらぬ者を討ってしまった……」
はい、にゃんと鳴く狐っ娘と申します!!
初めましての方は初めまして、お久しぶりの方はお久しぶりです。此度は本作品をご覧頂きありがとう御座います。
多分予想通りの展開だった1話目ですが、飄々とした厨二病かっこつけ主人公雄二こと《盥の錬金術師》がこれから沢山の戦闘を“タライで”繰り広げて行くお話です。馬鹿能力から真面目能力、チート能力などの様々な《能力者》が登場するかと思います。大半が使い捨てになるかと思いますがね? だがそれが良いかなって私は思うのですよ。新キャラ万歳雑魚万歳な主人公無双系作品となっております。
気に入った能力者やアイデアは募集もしておりますので是非どうぞ、なんて言ってみたり。本編より人気でそうで怖いですコレ。猶、こちらはパソコンでの執筆です。
とにかく、皆様がサッパリすっきり気分爽快大爆笑な状態になっていけるように、真面目なギャグでシリアスにお送りしたいと思います。感想なんかも随時募集しておきますね!
では、また逢いましょう……ね?
P.S.これ本当にネタだからね! 例のVRもやるかもだからね!?