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不倒不屈の不良勇者━ヤンキーヒーロー━  作者: トロ
第二章・第一部【For All We Know】
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第十九話【探索ヤンキー、サポートヒーロー】

 迷宮に入るための指輪にいなほとエリスの二人は魔力を通した。そうすれば鈍い音を立てて目の前の門が開く。


「うわぁ……」


 いなほと違って初めて迷宮に来たエリスは、まるで大きく開いた口のような迷宮の入り口を見て溜息を漏らした。

 三度目となれば特に思うこともないので、いなほはさっさとエリスを肩車したまま迷宮へと入る。随分と慣れてきた薄暗い部屋には、迷宮より帰還した生徒達がちらほらと居た。

 少女を肩車した珍妙な男を気にする程余裕がある者はいない。誰もがくたくたになってへたり込んでいた。

 幾ら学生用の簡単なものとはいえ、一歩間違えれば命を奪われるのが迷宮だ。肉体的な疲労もさることながら、精神的な疲労も計り知れないのだろう。

 そんな彼らを見渡した上で、エリスは何てこともないようにいなほの顔を覗きこんだ。


「行きます?」


「あいよ」


 気負いなんてどこにもない。いなほがいるという安心感と、対峙しただけとはいえトロールキングやミフネの威圧にも耐えたからこその胆力がある。

 それに、自分はいなほの隣に立つのだ。ならば彼と同じように大胆不敵でなくてはならない。

 いなほはエリスのそんな意志には気づいてはいないが、何となく感じ取ることは出来る。

 それに、安心感というならば自分も一緒だ。エリスがそこにいる。それだけでいなほはいつも以上に前に進めるのだ。

 二人は動じることもなく迷宮へと足を踏み入れた。ゆっくりと階段を下りて行き、まずは第一階層。暗がりに僅かな光源だけなので、魔獣の奇襲には気をつけていくのがセオリーではあるが、殺気をまき散らす魔獣など、光源がなくても容易に感じ取れる。罠に関しても、形状については把握した。

 そして魔法的な罠に関しては、今回エリスもいる。道を遮る魔獣はいなほが蹴散らし、落とし穴などの古典的な罠も上手く掻い潜り、魔力反応を感じたらエリスが注視して進むことで、二人はあっという間に五階層、十階層と超えて、二十階層まで難なく到着するのであった。


「やっぱパッとしねぇよなぁ」


「それ、いなほにぃさんだからですよ。普通、オークを壁で椛おろしする人間なんていませんから」


 その時のことを思い出してエリスはげんなりとした。十階層にて、ついテンションの上がってしまったいなほが、エリスの制止も聞かずに暴走。オークの顔面を壁で摩り下ろすと言うおぞましい処刑方法を行ったのであった。

 幾らなんでも不味いという気持ちはあったのか。エリスがペシペシ頭を叩くのを甘んじて受け入れながら、ようやく辿りついた二十階の通路を目を凝らして見つめた。


「なぁエリス」


「うん、メイリンさんって人が言ってたことホントみたい。そこらじゅうに魔力の反応があるから……『光源、水滴』」


 エリスは魔力を指先に集めると、そこから水滴のように魔力を床に垂らした。


「何だ?」


「教科書に書いてあったマーキングの魔法の簡略式です、ほら、結構強い光でしょ? これを定期的に垂らしていれば、迷子になることはないって代物です」


 言われていなほが魔力の落ちた部分を見ると、緑色の眩い光を発していた。


「だったら何でこれまで使わなかったんだよ」


「私自身の魔力はほとんどないですから、ずっと使ってたら直ぐ無くなっちゃうんですよ。だから、節約のためにこれまで温存していました」


 申し訳なさそうにエリスが言う。「ならいいさ」といなほは返すと、改めて二十階層に足を踏み入れた。

 いなほはエリスと違って魔力反応などというのは感じ取れない。代わりに、以前来たときよりも活発な魔獣の反応だけは確認していた。

 メイリンと遭遇したときも結構な数と戦ったが、それにしても数が多すぎる。


「気、抜くなよ。身の程知らねぇ雑魚がうじゃうじゃ居やがる」


「なら……『風林火山』」


 いなほの忠告を聞いて、エリスは強化魔法を体にかけた。こうすることで、いなほが戦闘行動に入ったとしても、引き剥がされずにしがみつくことが出来る。

 普段よりも強く回されたエリスの腕の力を感じとって、いなほも存分に動くことを決めた。

 こちらの準備は完了だ。後は、客人の出迎えをするだけである。


「来るぜ」


 いなほが体を屈めると同時、通路の向こうから三匹のオークが現れた。

 野太い声と唾液をまき散らしながらオーク達が棍棒を振りあげて襲いかかる。額に回された腕の感触を改めて確認してから、いなほはオーク達に向かって飛び出した。


「くぅ……!」


 まだ加減はしているが、それでも強烈なGがエリスの体にかかって、堪らず苦悶の声が漏れた。

 だけど構わないで。

 だから構わない。


「■■■■ッッ!」


 先頭のオークが棍棒を振り下ろす。人間の頭がい骨など豆腐のように砕く一撃を、いなほは真っ向から右腕で掴みとった。


「■■■■ッッ!?」


「温いんだよボケェ!」


 驚くオーク棍棒を握りつぶすと同時に、右側からもう一匹のオークが襲いかかってきた。

 いなほは慌てることなく、手に残った棍棒の残骸をそのオークに投げつける。破片がその眼球に入り、堪らずその場で動きを止めた。


「らぁ!」


 蹴り足。鞭のようにしなった左足が、目を手で覆うオークの顔面を、その腕ごと爆散させる。だけでは勢いは止まらず、棍棒を砕かれて困惑するオークの顔面もついでに吹き飛ばした。

 血に濡れた足を地に降ろすと、同胞の亡骸を超えて最後の一匹が飛びかかってきた。棍棒の間合いがあるため、いなほの拳の射程には一足分遠い。

 それすらも構わない。いなほは降ろしたばかりの足を再び上げると、上段から勢いよく振り下ろされた棍棒を足の裏で受け止めた。


「っと!」


 さらにいなほは片足だけで跳躍すると、完全に衝撃を吸収した棍棒を舐めるように足の裏を滑らせて棍棒の上に回し、一気に下に向かって踏み潰した。

 あまりの負荷に、オークは棍棒を持った肩が脱臼したあげく膝をつく。

 結果、上に飛んだいなほの足元にオークの頭は下がった。


「ダイレクトシュートだろ!」


 空中で足を後方に振りあげて、勢いよくその醜い顔面を蹴りあげる。ワインのコルクのように吹っ飛んだオークの頭のあった場所から鮮血が飛び散った。

 拳を一振りして、こちらに飛び散った血を風圧で弾き飛ばし、頭を失った胴体を蹴って転がす。


「……まっ、これで脳みそがある奴らならビビって出ないだろうよ」


 あえて凄惨極まり、かつ圧倒的な戦力を見せ付ける。いなほの目論見通り、集まってきていた魔獣の気配は遠くに消えて行った。

 上手くいったぜ。本人的には爽やかな、他人から見たら下衆い笑顔を浮かべて、いなほは頭上のエリスに「どうよ? 上手くいったぜ」と言ったところで、その表情が固まった。


「うっぷ……」


 顔面を蒼白させて、両手でエリスは口を抑えていた。

 グロ映像を見てそうなったのではない。その程度の女ならいなほはこうもエリスを信用していない。

 単純な話、エリスは普段いなほの肩に乗っているが、その戦闘速度となればジェットコースターよりもハードな揺れとGを体験するのは初めてだ。強化したとはいえ、その凶悪な機動にエリスの体は耐えられなかったのである。

 そんなエリスの青白い顔を見て、咄嗟にいなほはエリスを引っぺがした。その勢いによって、遂にエリスの我慢が限界を迎える。

 そして、引っぺがす=振り回すという暴挙の最中限界を突破したことにより──


「ちょ、ま──!」


「うぇ」


 自主規制。簡単に言えば桃色パラダイスはばら撒かれた。





「……こっからはお前も歩け」


「わかりました……」


 気分は落ち着いたものの、顔を真っ赤にして疲れた様子のいなほの言葉にエリスは頷きを返した。

 鮮血とは別の汚物に濡れたシャツは通路の横に放り投げたので、いなほは現在半裸となっている。エリスはそんないなほを見上げて、申し訳なさそうに苦笑した。


「私、いなほにぃさんの揺れにはなれたつもりだったのになぁ」


「じゃあ今度から肩車は無しにするか?」


「えー! それは駄目だよ!」


 エリスが不服だと騒ぎたてるが、いなほは冷めた目で自分の体を指差し、ついで通路の奥に捨てられたシャツのある方向を示す。

 エリスの喉が詰まった。それを言われてはしょうがない。だが、それでも肩車だけは、肩車だけは……!


「冗談だよ冗談。ったく、これだからガキは面倒くせぇ」


「ホント!? よかったぁ……」


 心底安堵したとばかりに背を丸めたエリスは、そうしながらも魔力を滴らせることと、虚空に魔力で魔法陣を描くことだけは止めずにいた。

 探知と妨害。二つの意味を込めたこの魔法陣は、罠の捜索と、探知に漏れた罠を僅かながら妨害する機能を持っている。いわゆるジャミングの一種だ。

 いなほも手持無沙汰のため、エリスに手渡されたメモにここまで歩いてきた道を記している。


「何もないですね」


 都合二十回目の突きあたりに遭遇したときにエリスはそんなことを呟いた。

 幻覚魔法に捕らわれているということはないだろう。エリスは自分の魔法が上手く作用していることを実感している。

 もしかしたら最下層ということもあり、他の階層に比べてかなり入り組んでいるだけかもしれない。

 そして二十三回目の突きあたりに遭遇した時、いなほはメモを書くのを止めて「ここ、マジで何もねぇぞ」とメモをエリスに手渡した。

 確かに、いなほのメモは雑ではあるがこれまでの進路がしっかりと書かれており、もしこれが正しいのなら、これ以上のルートは存在しない。

 全ての探索が完了したのだ。道中、オーク以外にも魔獣とは遭遇したが、いなほが苦戦するほどの魔獣は一匹も現れていない。


「どういうことなんですかね?」


 エリスの疑問に、いなほもわからないと首を横に振った。


「さっぱりだな。疑ってたわけじゃねぇけどよ、メイリンの奴が言ってたことはマジだったみたいだ」


 どの道、罠を解除して魔獣を排除できるからと言って、いなほとエリスは迷宮の専門家というわけではない。

 一応、怪しいところなどを調べながら、いなほとエリスは地上に戻ることにした。






次回、ヤンキー集会、多分三回目くらい。

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