第十二話【ちっぽけでゴー】
授業も半分終わり、昼休み。クラスの女子生徒達に、一緒に食事をしようと誘われ、食事を終えたエリスは、食事も早々にメイリン・メイルーの話を聞くことにした。
そうすれば出るわ出るわと、色んな噂が彼女達の口から出てくる。まぁ色んな憶測混じりの噂がほとんどだが、端的にまとめると、こういうことだ。
「ようするに性格が最悪なうえ、学年トップの実力者なのを良いことに、何か裏で色々やっているみたいデスよ」
そう言うと、ネムネは売店で買ったアイスをエリスに手渡した。
パクリと一口。ひんやりシャキシャキの触感に口を結ぶ様子は小動物か何かのようにしか見えない。これであの強化魔法を扱うというのだから油断ならないなぁとネムネは内心で感嘆した。
現在は女子の一団から一旦は慣れて、エリスとネムネはいつも食堂にいるというキースの所に向かっている最中である。エリスは初めて来る学校に興味津津デ、忙しなく視線を動かしていた。
「じゃあ色んな人から恨みを買ってるの?」
それでも話はちゃんと聞いているようで、アイスを舐めながらエリスが聞くと、「どうなんデスかねぇ」と、言葉を濁してネムネは答えた。
「あくまで噂デスからね。まぁそういう噂が流れるくらいには妬まれてるってところデスかな? 一学年で数百以上の学生が在籍してるデスから……それにメイリン・メイルーと言えば、これまでのトップと比べて異質ってのもあるデスし」
「異質?」
「完璧すぎるのデスよ」
「? それって良いことじゃないの?」
エリスの素朴な疑問に、どう答えたらいいものか言葉に詰まるネムネ。
「学生らしくないってことだよ」
そんなネムネの代わりにエリスの疑問が答えられる。二人が振り返ると、そこには気だるそうに眼を細めたキースが立っていた。
「キース君」
「こんにちはキースさん」
二人に呼ばれて、片手をあげて応じるキース。そのまま二人の間に入ると、先程の答えの続きを話始めた。
「俺も含めてだがな、学生って奴は所詮学ぶのが専門だ。当然だけどよ、知らないことが多いし、知らないからこそ色んな失敗する」
「クイーンの時みたいなおもら──」
ネムネの横やりを視線で制するキース。その様子に首を傾げるエリスに、キースは取り繕うように笑顔を向けた。
「まぁ、そういうわけだからさ。若さゆえの粗ってやつかな? そういうのがあの女にはないのさ」
「見たことあるんですか?」
キースは頷きを返すと、さらに続ける。
「達観してるっていうのかな? あれも天才ゆえの孤独なのかもしれないかわからないけど。如何にも私は孤高の天才ですぅ、って態度が気に入らない奴は、上に行けば行く程多いよ」
実際、キースもメイリンについてはあまり良い感情は持っていなかった。現在こそ、現状の強さを競うことのアホらしさを知っているので、以前ほどの悪感情を持ってはいないが、苦手としていることには変わりない。
「だからこそ、どうせならあの野郎と今度の大会でぶつかってとっちめてやるのさ」
何処となくいなほを思わせる不敵な笑みを浮かべてそう締めくくる。
その横顔を見て、ついエリスは嬉しそうに口を綻ばせた。同時に、いいなぁと内心で思う。一対一が原則の大会とはいえ、いなほと共に大会に出て戦えるキースと、ネムネが羨ましい。
そこで、ふと思う。それでいいのかと。いいなぁという羨望だけで終わらせて本当にいいのか?
決めたのだろう。自分は、いつかあの背中の隣に立って、共に行くのだと。
「あ、あの!」
エリスは立ち止まると、意を決して口を開いた。
キースとネムネが振り返り、その視線に晒されて、堪らずエリスはどうしようか言葉を詰まらせ、それでも言わなければならないと覚悟を決める。
そうだ。いつまでも後ろに何ていられない。だからこれは、最初の一歩、今はまだまだ遠くにいる兄に追いつくための、ちっぽけで、それでも大切な──
「私も! 一緒に大会に参加させてもらえませんか!?」
そうだ。私はここから始めるんだ。
小さな勇者の、小さな進軍は、今、このちっぽけな宣誓から始まる。
次回、ヤンキー、落ちる。
その頃のヤンキー
ヤンキー「道がないなら作ればいい」
迷宮「らめぇぇぇぇぇ! 壁に穴開けるのらめぇぇぇぇ!」(ヘブン状態!)
新たな道が出来ました。