第二十七話【老人会議】
でも若いちゃんねェも出るよ!(死語)
話しはいなほ達が依頼のため出て行った直後に戻る。
ギルド街の事実上の総括である依頼斡旋所にて、その議題が上がったのはアイリスという優秀な冒険者の報告であったからだろう。でなければ、トロールの集団による村の蹂躙など、誰も信じなかったに違いない。
そして依頼斡旋所の職員のトップ十名が集まり、問題の案件についての議会は開かれた。事が事だけに、はいそうですかと依頼掲示板に張り出すわけにもいかないだろう。なのでその会議では誰もが迂闊な発言を出来ずに沈黙を保っていた。
「もしこれが事実なら、各ギルドに連絡を回し、調査団を組んだほうがいいだろう」
一人がこれでは話が進まないと、無難な提案をする。
「だが人員はどうする? まずは被害にあったという村に人員を派遣して事の真偽を確かめた後、改めて調査団を組むべきではないか?」
「それについてだが、実はミラアイスがギルドで信のおける者を既に二日前送ったらしい。早ければ今日にでも報告が来るが……」
「失礼します」
と、ノックと共に会議室の扉が開く。現れたのはいなほ達の受付をした女性だ。手にはおそらく件の調査結果をまとめただろう紙を持っている。
「中身は簡単な概要のみですが、精密な調査内容を送る時間があれば、早急な報告が必要と考えたのでこの書類を送る、そう火蜥蜴の爪先のメンバーから伝言です」
「わかった。渡せ」
女性職員が一枚ずつ配って回る。全員に行きとどいてから、資料を読むと、誰もがその表情を変えた。
「村の入り口より少し外れた場所に、十八体のトロールの死体を発見。村には村人のらしき墓があり、村には住人の姿は確認されず。状況を見る限り、現在のメンバーではこれ以上の調査は危険と判断。即座に離脱をした」
場の内の一人がそれを読みあげて唸り声をあげた。
「トロールが十八体だと?」
「それはミラアイスが倒したとみて問題あるまい。だが問題なのはそこではなく、それほどの数のトロールが何故一か所に集まったのだ?」
「推測だが、トロールは誰かに従い、集団で行動していたのではないだろうか」
「馬鹿な! トロールは群れても二、三体程だぞ!? それに奴らはゴブリンやオークを従えはするが、奴ら自らが従うというのは……」
思い当たる節があるのか、声を荒げていた男は最後の方は尻すぼみになり、最悪の予想を思い浮かべ顔を青ざめさせた。
「まさか、魔族だとでもいうのか……」
「奴らの大半は大陸の向こう側にいるはずだ! それにあの魔王共は、五年前に『傾いた天の城─バベル・ザ・バイブル─』の狂った化け物に高い金を払って殺し尽くしてもらっただろ!」
「だったらそれ以外に何だというのだ!? 第一奴らは唐突に姿を現しては近隣一体の人族を狩り尽くす。それに魔王が召喚した魔族を全て打ち滅ぼしたわけではないのだ! もしかしたらこの五年、潜伏していたのかもしれないんだぞ!」
「だからこそ対応を慎重にするべきだ! ここは王都に連絡を取って貴族の応援を要請するべきだろう!」
「無理だ。貴族のほとんどは北との戦いに備えて北部に集中している。それにここは中立故に周りに貴族がいない! 近くて応援を呼ぶまでに一月はかかるぞ!? その間に近隣の村々に被害が拡大する!」
会議は際限なくヒートアップしていく。意見が飛び交い、一層の混沌を描いていく室内。
誰もが声を荒げて、遂には立ち上がって口論をしだす始末。全く持って収集などつかなくなってきた。
そして三十分程経過したところか、ある程度勢いの収まったところで、一人の男が立ち上がった。
「……調査結果から、高い可能性で村の周囲は危険な状況になってるとみていいだろう。この案件の調査は緊急を要する。今晩には各ギルドに通達を行い、ギルドへの資金確保のため、各商店にも問い合わせをし、魔法学院からも教職の幾人かに応援を来てもらえるように言っておこう。調査団を整えろ、ただし魔法学院の教職には応援をいつでも出せるように言うだけにして、今回の調査団には組み込まないこと」
「ミラアイスはどうする? 彼女も居たほうがいいだろう。調査団を派遣して全滅という可能性もあり得るのだからな」
「止めておけ、彼女はマルクの中ではトップレベルの実力者だ。調査団を組織するとはいえ、実際は兵を寄せ集めるだけの連携もない烏合の衆、全滅するならばそれは仕方ない。精々足止めとして活躍してもらおう。その後ミラアイスと魔法学院教師クラスとギルドのエースの少数精鋭で臨むべきだ。現にギルドのエースで現在出張っている者は何人かいる。彼らが戻るまで待ち戦力を確保するべきだ。ところで彼女は何か依頼を受けているか?」
「ムガラッパに最長一週間程出掛けると」と受付嬢が答える。
「一週間か……確か他の者もそれまでには戻ってくるはずだな……よし、大規模調査団の構成は止めて、各ギルドから数名ずつ集め調査団とする。酷な話だが、これから行く者には状況を確かめる餌と、近隣への被害を防ぐ捨石になってもらおう」
男の発現に誰も意見はなかった。男は小さく頷くと「では、解散」と言って部屋から出ていった。
他の者も慌てて行動に移る。誰もがその顔に焦りを浮かべているのはそう、五年前の惨劇と殲滅を覚えているからこそ。
そして翌日出動することになった調査団は、いなほ達が帰ってきた今も戻ることはなかった。
次回、ヤンキーと少女。食事編。
どうでもいい用語説明。
『傾いた天の城━バベル・ザ・バイブル━』
世界最強のギルド。十の戦闘部隊と八の支援部隊。そしてそれらを総括する三人の幹部とトップのギルドマスターで構成されている。戦闘部隊は基本Eランク以上でないと入れない。支援部隊でも最低Fは必要。部隊それぞれの隊長は全員Aランクで、幹部に至ってはA+である。マジヤバい。
でもさらにヤバいのはギルドマスター。ぶっちゃけた話だが、傾いた天の城の全ギルド員がかかってもギルドマスターに勝つことは出来ない。過去、こいつのくしゃみで国が幾つも滅んだヤバい。ちなみにくしゃみさんは二代目ギルドマスターである。初代にフルぼっこにされてギルドマスターになった。
つまり一番ヤバいのは初代ギルドマスター。初代はヒャッハー言いながらリリカルマジカルするボインボイン姉貴である。
総評するとマジキチギルド。今のいなほでは平団員と互角程度(それでも充分凄いことだが)