第二十五話【ヤンキー感謝祭】
「まさかこのようなことになってしまい、皆様には何と申し上げたよいことやら」
深々と頭を下げるルドルフとエド。簡単な討伐のはずがこのようなことになって申し訳ない気持ちばかりだ。
「気ぃすんな。俺らはこの通りピンピンしてんぜ」
そう快活にいなほは返した。傷の方は治癒の魔法を少しかけただけで塞がり、今では目立った傷の後もない。服のほうはガントのシャツを一枚羽織っている。しかしクイーンを相手どり、結果として肉を裂かれるだけですんだのは滅茶苦茶と評するより他あるまい。
怪我をしていたからと侮る者はいない。手負いの獣のもつ力は、むしろ通常の時よりも高い戦闘力を出す。短期間での戦闘力は、常時のクイーンの能力よりも優れていただろう。
それを僅かな時間で制圧することの意味。D+という実力の出鱈目を感じずにはいられない。
「ですがそうですかと済ませるには、私も、村の皆も申し訳ないという気持ちになります。なのでささやかではありますが、本日は酒宴のほうを用意させていただきました」
エドはそう言ってから、こちらにと自宅のドアを開いた。
「おぉ!」
いなほが歓声をあげた。大きなテーブルには所狭しと様々な料理が乗せられ、幾つもの酒瓶が周りを彩っている。見るが早く、いなほは軽いステップでテーブルの側に近付くと、躊躇いなく真ん中に置かれたドでかい肉を掴み口に突っ込んだ。
「なぁ!? ば、馬鹿いなほぉ! す、すみません、すみません! あぁもうウチのギルドの者がなんという醜態を……」
泣きそうな顔で何度も頭を下げるアイリスに、エドとルドルフは楽しく遊ぶ子どもを見るような眼差しでいなほを見てから、ルドルフが謝るアイリスの肩を掴んだ。
「ホホ、エドも私も村の者も気にしませんよ。それに本日の主役は彼ですし」
「しかし……」
「ヒャッハー! オイテメェらもさっさとこっち来て酒注げぇ!」
「君はちょっと黙っててくれないかな!?」
恒例と化したいなほとアイリスの漫才は置いておき、なし崩しに始まった酒宴に交わるため、ガント、キース、ネムネがそれぞれ席に着く。遅れてアイリス、エド、ルドルフも席に座った。
全員が目の前のグラスに金色に薄く輝く酒を注ぎ、代表としてアイリスが立ちあがった。
「えー。一部、い、ち、ぶ! 先に始めてはいますが……んんっ、トラブルのあった今回の討伐で、無事怪我もなく乗り切ったことと、エド殿とビッヒマン殿の手厚い歓迎を祝って……」
「うめぇぇぇぇぇ! 肉うめぇぇぇぇぇ!」
「……乾杯!」
怒鳴りつけるように言いながら、アイリスがグラスを掲げた。他の人も乾杯と同時に行って、一人の例外を除き酒宴は始まる。
「むー、にしても私も見たかったデス。いなほさんとクイーンの戦い」
グラスを傾けながら、唯一仲間外れとなってしまったネムネがそう不満を零した。
「ハッ、死体見ただけでビビってるお前みたいなのは、あれ見ただけで漏らしちまうだろうよ」
そう何故か得意げに語るのはキース。全力で漏らした自分のことは棚上げだ。
頬を膨らませネムネが不満そうにキースを睨む。とはいっても、運ばれたクイーンの死体の威圧だけで膝が抜けそうになった自分が戦いを見たら、もしかしたらはしたないことになるかもしれなかった。
「でもでも! やっぱし見たかったデス!」
「ネムネ、今回はたまたまいなほが居たから何とかなったが、実際手負いのクイーンが相手となれば、大抵の人では戦いにもならない。むしろ出会わなかった奇跡に感謝することだ」
尚も食い下がるネムネをアイリスはそう嗜めた。ガントも同意なのか頷く。今回の場合は、結果的になんとかなっただけで、キースは死んでもおかしくなかった。
身の丈に合わないことを望む者は破滅する。誰にもどん底の体験は必要だが、何も自ら飛び込むこともない。
「君は君のペースで経験を積めばいい」
「はぁい……」
項垂れながらも、アイリスの言うことなので渋々受け入れたネムネ。
ところでとクイーンとの戦いを見た後にキースが思ったことをアイリスにぶつけることにした。
「アイリスさんならクイーンとどう戦いましたか?」
「むぅ……そうだな。唐突に出会ったのならば冷気剣と強化魔法で防戦しつつ、氷結魔法を組んで機動力を削ぎ追撃の魔法。討伐に行くなら何処に現れるのかをしっかりと調査して、罠を仕掛けてから奇襲をかけるだろう」
「討伐に関しては随分と、その……」
「ずるい、だろ?」
言いにくそうなキースの代わりに、アイリスが続きを言った。申し訳なさそうにキースが頷く。アイリスはグラスを傾け中身を飲むと、小さく笑って見せた。
「だがリスクを減らすにはこれが最適なんだ。私達は体が資本だからね、リスクを避けて避けて、安全策を取ることは恥じることではない。むしろ無謀にも突撃するだけでは三流といっていいだろう」
「うっ」
思い当たるところがあるキースは冷や汗を流して唸った。しかも突撃の結果クイーンとはち合わせたことを思えば、返す言葉すらない。
「けっ。こそこそするなんざつまんねぇよ」
骨付き肉を片手にいなほが吐き捨てるように言った。
「つまらないとか楽しいの問題ではない。生きるか死ぬかなんだ。君はもっとそういった部分を勉強したほうがいい。戦闘力だけ高ければ良い話ではないんだぞ?」
「……へっ」
言ってることが事実なだけに、素直になれないいなほは鼻を鳴らしてアイリスから目線を切った。
「全く、子どもだな君は」
呆れて溜息もでない。言った通りに本当にこの男は我が儘な悪ガキだ。
だが、強い。その戦闘力だけではなく、いざ戦いとなったら絶対にぶれない心が強い。
今回の異変と、いなほが遭遇したという異変。この二つが結びつくとき、必ずやいなほの実力が必要となるだろうと、アイリスは半ば確信めいた予感を抱いていた。
次回、初依頼編完全終了。さらにその次より第一章ラストバトルなり