第二十話【ヤンキーと新たな村】
短め
翌日、朝早くから出発した一行は、道中に数回の魔獣との遭遇があったが、どれもアイリスが単独で殲滅したことで、特に問題なく村までたどり着くことが出来た。
「随分と普通なとこだな」
と、いなほ。マルクに比べれば、村の周りを簡単な柵で覆い、人のにぎわいも商店街に比べて静かなものであるので、普通と思うのも無理はない。
だが近隣その他の村々に比べて、ムガラッパ村は随分と栄えているほうである。鉱山のほうは、国により魔獣の討伐後、癒しの森と同じ魔法が使われているため、危険はほとんどなく、ここでは安心して鉱山から鉄鉱石などを採掘することが出来るので、色々な場所から出稼ぎにくる人も多いらしい。
「では皆様、村長の元へ御同行お願いします」
馬車を預け、従者に宿屋への荷物の運搬を任せたルドルフは、いなほ達にそう言った。
勿論断る理由もないので、ルドルフを先頭に、一同は村で一番大きな家の前まで歩いて行った。
数度のノックの後、少しの間を置いて扉が開いた。
「おぉルドルフ。随分と早かったな」
出てきたのは、白髪が目立つがまだまだ生気に溢れた初老の男性だ。彼が村長なのだろう、何処か人を引っ張る強さが纏う雰囲気に現れている。どうにもルドルフに対する態度から見るに、二人はかなり気心が知れた友人のようだ。
ルドルフと村長は軽く挨拶を交わすと、中にへと案内した。ルドルフに続いていなほ達も中に入る。随分と広い室内で、村長は全員にテーブルの席に腰かけるよう促した。
「遠路はるばるご苦労でした。私はここの村長のエドと申します」
上座に腰かけたエドが自己紹介をする。いなほ達もそれから一人一人簡単な自己紹介をした。
「では、早速ですが皆様には近隣の魔獣の間引きのことについて説明します。一応ここにも駐在の兵士の方々はいますが、彼らはあくまで村に来た魔獣を討伐するのが任務なので、原則村から出て魔獣を倒しにいくことは出来ません。なので皆様にはその代わりに、この時期に繁殖するバウトウルフの討伐をお願いします」
エドが簡単にではあるが依頼の概要を説明する。
「規定討伐数以上を討伐した場合、私から依頼料を追加で支払いますので」
そう付け足したのはルドルフだ。アイリスが本来部外者に近いルドルフが何故そんなことを言うのか首を傾げる。というか、そもそもこの間引きについても、依頼料はルドルフ持ちであった。
「すまないが、どうしてビッヒマン殿がそこまで? 確かに商売相手ということもあるが、この討伐については村が別途で行うことではないだろうか」
「ほほ、実は私、この村の出身でしてね。こうして定期的にここを訪れては、鉱石の取引ついでに、村のためになればと思って魔獣の間引きも請け負っているのですよ」
ルドルフがふっくらとした頬を赤らめて恥ずかしそうに答える。アイリスとネムネは、ルドルフの素顔の一面の優しさに触れて、穏やかな笑みを浮かべた。その隣でいなほはテーブルの上に肘をついて欠伸をしていた。
ぶち壊しである。アイリスの穏やかな心が一瞬にして荒波だった。何というか、無性に泣きたくなる。
「君は空気を読め」
「ヤだね」
ともかく、と気を引き締めるのも兼ねてアイリスが立ちあがった。
「この期待に応えねばなりませぬな。魔獣の間引きを出来ぬようであればビッヒマン殿が村への信用を失ってしまう」
決意に燃える眼差しが場の全員を見渡した。視線が全てアイリスに注がれる。
やろう、そういう思いを込めてアイリスは強く頷いた。
「では早速我々は間引きに向けて会議を行いたいと思います。そちらも積もる話があるでしょう。皆、一先ず酒場に行こう」
「よろしくお願いします」
「任せろよルドルフのオッサン」
何故かルドルフの言葉に応えたのは、椅子に背中を預けてふんぞるいなほだった。
「……もういいや」
「大変デスねアイリスさん」
力なく項垂れるアイリスの背中を、慰めるようにネムネが撫でる。
何はともあれ作戦会議だ。一同はルドルフとエドを置いて酒場に向かうのであった。
次回も会議。超絶筋肉乱舞まで残り数話