第九話【宣告】
爆音と灼熱の熱波が、離れたここまで伝わってくる。しかしその場に居る誰もが、いつこちらにまで規模を拡大するかわからない破壊以上に、自然体で佇むたった一人の男、トールだけを警戒していた。
「やってるなぁ……まぁ、あれくらいならいなほさん一人でも大丈夫だとは思うけど」
「我らを前に随分と余裕だな」
「例えお前に比べ遥かに劣るとはいえ」
「この身、『暗球』で向上した今、油断すれば腕の一つはいただくぞ」
「……舐めてるのはそっちだろ」
トールは吐き捨てるように呟いた。
その盲目の瞳に小さな怒りの炎が灯っている。この程度の『小物』に舐められた自分自身への怒り。
何より。
「俺を舐めるってことはな……俺を認めてくれた奴らまで舐めるってことなんだ」
自分だけならまだ少し苛立つだけですまそう。
だがトールが何者かを知ったうえで侮るとなれば話は違う。
「教育だ」
異色の炎を吹き出す右手の指先で影達を指差し、トールは宣言する。
「そして刑罰だ」
左腕から異端の冷気を吐き出してトールは宣告する。
「俺を『魔道兵装』と知りながら侮辱した罪……その身体に刻みこむ」
「キャー! お兄ちゃんチョーカッコイー!」
気が抜けるような隣の黄色い声は意識的に無視をして。
まずは一人。
「え?」
「遅い」
反応させることもなく影の一つの背後を取ったトールは、その燃え滾る右腕で、軽く声をかけるような気軽さで肩に触れた。
そして、悲鳴をあげることなく影が燃え上がる。
一瞬で白色の炎に蹂躙された影は、数秒もせずに燃えカスだけとなって散っていった。
「ぬっ……」
むしろ美しさすら感じるような焼殺を見て、影が呻き声をあげた。
決して侮っているつもりはなかった。
だが、やはり心のどこかで侮っていたのかもしれない。
「……イレギュラーをカースト達が倒す時間を稼ぐ」
影のまとめ役が残りの四人に言った。
勝てるとか。
ましてや戦えるとかというレベルではない。
「そうだ。奴は隊長がここまでの準備をせねば対峙出来ぬと悟った相手」
「隊長が、いや……『傾いた天の城』の全ての隊長が認めた規格外の一人」
「やっと理解したか」
トールは見えぬ視界にもよく映る、敵の怯えた顔を感じて暗い笑みを浮かべた。
「忘れたとは言わせない。俺が誰なのか。俺がお前らにとっての何なのか……少しは頑張れよ格下共。命を賭ける程度の覚悟で、俺を留められると思うなよ!」
最早、言葉は要らない。
ただひたすらに一方的な蹂躙劇は、炎と氷の二重奏を引き連れて始まった。
次回、熱戦。
感想などいただけると作者のやる気もアップするよ!という露骨なクレクレ。