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不倒不屈の不良勇者━ヤンキーヒーロー━  作者: トロ
第四章【えんたー・ざ・やんきー!】
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第一話【ヤンキーご満悦】

お待たせしました!これからちょくちょく更新再開です!

 激烈な拳の一閃が、眼前の魔獣の群れをなぎ払う。

 噴出す惨劇。

 哄笑する拳。

 気力の高ぶるままに、血しぶきの中を、むき出しの両腕を血で染めた巨漢の男が走る。

 ともかくでたらめな強さだった。熟練の冒険者がチームを組んでようやく倒せるはずの、ゴブリンキング率いる一団を、たった一人で圧倒する様は圧巻の一言。拳が動けばそれだけで無数のゴブリンがただの肉の塊へと成り果てる。


「ハッ!」


 快活に笑った男は、男よりも一回り程大きい緑色の肌の醜悪な化け物、ゴブリンキングの眼前に着地。キングは男を待ちかまええ、着地の隙を晒している状態の男へ、手に持った不細工な鉄の棍棒を振るわんと腕を逸らした。だがその動作は対峙する男にとってはあまりにも大きな隙、口角を後ろに引っ張っただけの野獣の笑みを浮かべた男は、紫電の如き速さの拳で、巨大なゴブリンキングの体を貫いた。

 そうして、僅か五分にも満たない時間で、近隣の村々を脅かしていたゴブリンの群れは壊滅した。ランク持ちですら一人で殲滅するのは難しいとされるゴブリンキング率いる軍団を圧倒した男こそ、現在Bランクの大陸きっての実力者。いや、最早大陸最強の冒険者の呼び声高い『希望を拳に宿す者』と吟遊詩人にすら謳われているそいつ名を早森いなほ。天上知らずに強くなっていく無敵の男は、自身が作り上げた破壊の跡に一人立ち、己の存在を吼えるようにゴブリンキングを貫いた左の拳を空高くかかげるのであった。






「流石、早森いなほ様です! まさかこんな短期間にゴブリンキングを討伐してしまうなんて……えっと、こちらが報酬の金貨十枚です。それと村々を代表して、ささやかな宴会をコッペル村の村長がミラノで開くそうです」


「お、そいつぁいい。賑やかなのは好きだぜ」


 シェリダンより徒歩で二週間程度の場所。開拓都市クラリスの依頼斡旋所。ゴブリンキング討伐の報酬を貰ったいなほは、憧れの眼差しで自分を見つめる受付の少女に笑いかけると、背を向けて依頼斡旋所を後にした。

 その後姿をうっとりとした眼差しで見つめるのは、受付の少女だけではない。その瞳に宿す感情はそれぞれなれど、そこにいる者達がいなほに向ける眼差しは、それこそ希望の光でも見ているかのようであった。

 迷宮都市シェリダンで行われた『王の審判』と呼ばれる一件以来、アードナイ王国におけるいなほの知名度は急上昇していた。

 同じく依頼をこなしたカッツァとバンはあまり知られていないというのに、いなほだけが知れ渡っているのには理由がある。

 何せ、特徴がわかりやすいのだ。

 巨大な体躯。

 巌の如き鋼の肉体。

 そして、天すら貫く無敵の拳。

 何より、現在のいなほが誇るBランクという実力が、彼が姫を助け続けた男であるということを裏付けていた。

 しかもいなほはそのことをまるで隠しもしない。堂々と高らかに「俺が最強だ」という事実を言って回っているのだから、注目されないほうがおかしいというものだ。


「さって……ミラノだったっけな」


 金貨の入った袋を片手で弄びながら、周囲の視線を堪能して大通りを歩く。

 いなほは現状の気ままな旅を存分に満喫していた。

 ともかく彼は目立つことが大好きだ。ちやほやされるのも、畏怖の視線で見られるのも、恐怖でびびられるのも、怒りに燃え上がられるのも、ともかく己を見て、己にちょっかいをかけるということであれば、それがどんな感情であってもいなほは大好きである。

 そういう点では、シェリダンでの一連の事件はいなほの中の地雷だ。いなほではなく、その周りを仕留めにかかることだけは、絶対に許すことは出来ない。だが現在は再び気ままな一人旅ということもあり、そんな心配は杞憂といったものだろう。

 ともかく、現状は最高と言ってもよかった。初めて着いた場所では、自分の名前をあえて言いふらし、偽者だといぶかしむ者には、依頼斡旋所にある黒い水晶を使って納得させ、それでも突っかかってくる阿呆は、嬉々としてぶん殴って認めさせる。

 最高である。ゴキゲンである。ともすれば、現在の目的であるサンタの奪還のことが頭から抜けてしまいそうなほど、いなほは喜色満面であった。


「邪魔すんぜぇ」


 斡旋所を出て少し、開拓都市クラリスでは一番人気の酒場、ミラノに到着したいなほは、すでに賑わっている酒場の様子に笑みを浮かべた。


「お! 来たぞ! 我らがヤンキーのおでましだ!」


「本物のヤンキーだ!」


「すっげー! テンションが上がるぜぇ!」


 酒場にいた誰もがいなほを見て、口々に歓声をあげる。いなほも手を掲げて答えながら、そそくさと隅っこの席に座った。

 何処に行っても、酒の味と人の楽しさだけは変わらない。それだけわかれば十分で、その喧騒を見続けるのもいなほの趣味だったりする。


「あの、ありがとうございました」


 暫く喧騒を肴に酒を楽しんでいると、そんないなほの隣に一人の少年が酒瓶を片手に現れた。


「気ぃすんな。たまたまだよ。暇つぶしにはなったぜ」


「あはは、やっぱりヤンキーって凄いんですね。僕もいつかヤンキーになりたいなぁ」


「止せよ。ヤンキーなんてろくでもないんだぜ?」


 そう肩を竦めて苦笑するいなほ。少年はその言葉に驚きを隠せないようだった。


「そうなんですか? ヤンキーって、正義の人って意味だと思ってました」


「ハッ、そりゃ笑える冗談だぜガキ。生憎と、ヤンキーなんてもんはそこらの魔獣と変わらない阿呆でしかねぇんだよ」


「阿呆って……まぁ確かに、僕が少し前にいったマルクってところにいたヤンキーも、自分のこと馬鹿とか言ってたような」


「何?」


 今度は少年の言葉にいなほが驚く番だった。

 自分の他にヤンキーを名乗る馬鹿がいる。その事実に驚いたのもつかの間、一つの考えに至ったいなほは、押し殺すように肩を震わせて笑みを零した。


「ハッ……! そういうことかよ」


「ヤンキーさん?」


「いなほでいい。それよりもよ、テメェが見たっていうもう一人のヤンキーの話、詳しく聞かせてくれよ」


 そういって、いなほは空いているグラスを一つ店員を呼んで持ってこさせると、ついでに頼んだ果実水を並々と注いで少年に渡した。

 慌ててそれを受け取る少年。自分が酌をしに来たというのに、これでは立場が逆だ。しかし目を爛々と輝かせているいなほに何かを言うのも気が引け、少年は静かにマルクで会ったヤンキーの話をし始めた。





次回、疲弊村カナリア。

この四章は内容的には短いですが、その代わりにほぼ全編バトルです。テンション上がる!

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