エピローグ【そして最強は、地に落ちた】
衝撃の第四章。ゆるりと開幕。
敗北せよ。
夢あるならば、敗北せよ。
「強いな。あぁ、テメェは強い。強すぎて、これまで自分を疑ったことなんて、ないんだろ?」
だからこそ、敗北せよ。
その先に絆が欲しいだろう。
だからこそ、敗北せよ。
その未来で栄光を掴みたいだろう。
だからこそ、敗北せよ。
その手で勝利を得たいのだろう。
だからこそ、敗北せよ。
お前はここで、敗北しろ。
無敵を歌い
最強を誇れ。
圧倒的な力を持って。
頂点をいつまでも吼えていろ。
「でも足りない。でも届かない。テメェは強いから、強すぎたから、そこにいる。弱さを知らねぇから、行けもしない。知るしかねぇんだよ。弱さを、弱者を、雑魚を、紙くず当然の自分を」
だからこそ、敗北するのだ。
「テメェのそこは、まだ常識だぜ? この最っ高の力をよぉ! 開放できる最っ高の状況をよぉ! 何も知らねぇただのカスだよなぁ!」
舞台は破壊された大地だ。力なく倒れた男を、最強を謳っていた男を、より圧倒的な力で踏み潰す化け物、そしてその少し先で、男を救うためにゆっくりと立ち上がった化け物。
化け物が二人と、常識に落ちた最強が一人。それ以外の者は全て死屍累々と化していた。
全てが、今高らかと笑っている化け物によってなされたことだった。
そいつは、何もかもを滅茶苦茶にした。
あらゆる正義も。
あらゆる悪も。
主義も主張も。
決着したあらゆる事柄を。
全てをまとめてその拳で磨り潰して、血の海の中で高笑いをした。
その化け物のかつての姿を知る者なら、変わり果てたその姿に衝撃を受けるだろう。
かつてはそうではなかった。
暴力は振るっていた。
気に入らないことには躊躇いなく力を行使した。
だが、こんな、こんな虐殺をするような人間では、なかったはずだった。義侠に溢れ、不器用な優しさを持つ、誰もがその背中に憧れるような人間だった。
だというのに、今そこにいる化け物は、最早化け物と形容する以外になかった。
結果、今この状況で生きているのは、化け物が二人と、哀れな最強が一人だけとなっていた。
男を踏み潰す者の足は、どんなに力を込めてもまるで動かない。単純な力で敵わない。究極の暴力を体現した化け物は、力に酔った表情で恍惚としている。核弾頭の発射スイッチを手に入れた子どものようであった。無邪気ゆえに、暴力を躊躇わない。その化け物は、力に狂った化け物だった。
対している化け物は、最早言語を超越していた。混沌を孕んだ極限の暴力は、無言の圧力で力を増大し続けている。傷だらけながらも、それでも乾坤一擲。油断すれば目の前の化け物すら絶殺するほどの力を未だに宿している。
どちらも化け物だった。異常を常識とする化け物であった。
「味わっておけよ。絶頂だぜ? テメェ」
そして、男を踏み潰して嘲笑する化け物は静かに笑う。
拳を掲げ、極限の暴力を漲らせ。
その挙動を皮切りに、対峙していた化け物が絶叫しながら突撃した。
目の前の化け物の名前を叫び、猛り、怒り、咆哮する。
その名前こそ。
「ハヤモリぃぃぃぃ!」
ハヤモリと呼ばれた化け物は、応じるように薄い笑みを貼り付けると、拳に極限の暴力を宿して、その最強を天に示した。
「遅いんだよ! クソ雑魚がぁぁぁぁ!」
振り下ろされる断頭の拳。
遅れて破裂する四つの極限。
今、最強は地に落ちた。
次回、プロローグ。