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不倒不屈の不良勇者━ヤンキーヒーロー━  作者: トロ
第三章【やんきー・みーつ・ぷりん】
145/192

エピローグ【やんきー・みーつ・ぷりんせす】

 サンタが消え、墓穴の迷宮の攻略が終わってから一週間。迷宮都市シェリダンの光景は変わらない。いつも通り、荒くれ者が闊歩して、弱者が潰れていく暗黒世界。

 とはいえ、住めば何処でも都にはなる。こんな過酷な場所でも、笑顔で楽しく暮らしているものは無数にいるのだが。


「むふふ、むほほほほ」


 だからといって、その笑い声はないだろう。

 新聞紙を片手に気持ち悪い笑い声をあげるバンへ、コリンはついに脳みそをやってしまったかと哀れみの眼差しを向けた。


「どうしたの? ようやく頭が狂ったの?」


「……あのなぁ、その、いつか必ず頭がいかれるって感じの言い方やめろよな」


「だって、あんた、頭やばいじゃん」


「……おい」


 確信を持って頭がやばいと言い切るコリンに、最早言い返す気力もなくバンは項垂れた。

 そんなバンの憂鬱を振り払うくらい快活な声が店内に響き渡る。


「いっええええええええええい! お姫様のナイトの登場でぇぇぇぇぇぇぇす!」


 現れたのは、バンを千倍したくらいうざったらしいテンションのカッツァであった。

 一体全体どうしたというのか。シェリダンのダブルあっぱっぱーとも呼ばれているカッツァとバンであるが、今日は輪にかけてあっぱっぱー具合が加速している。

 不思議そうなコリンに気づいたのか、カッツァはバンのもっている新聞に気づき、バンに意味深な視線を送る。頷き返すバンとのアイコンタクトにコリンがドン引きしていると、超うざったらしい笑顔を浮かべながら、バンが新聞紙をコリンに手渡してきた。


「何々……アリス姫、無事に王の審判を完了。王権を巡る勢力図に新たな波乱が生まれる……って、そっかぁ。サンタちゃん、無事にお家に戻れたみたい……でもホント、あんなぽけっとした子がお姫様だったなんて、世の中何があるのかわかったものじゃないわよねぇ」


 そう言って、アリス姫がいつも座っていた特等席、席料銀貨一枚、君も姫様の残り香を楽しもう! と書かれた板の置かれたサンタの指定席を見て、今はいない彼女の幻影をコリンは眺めた。

 すでに、サンタがアリス姫であったという事実はシェリダン内に知れ渡っていた。当然、その従者を務めたいなほ達の注目度はとてつもないものである。

 だがバンとカッツァは、首を振ってその下の記事を指差した。そこには小さく「姫を守った三騎士の正体を探る」と書かれていた。


「えっと……燃え盛る炎の担い手」


 カッツァが気持ち悪いポーズを取る。


「……英知に富んだ冒険者」


 バンが気持ち悪いポーズを取る。


「で……あぁ、これは素敵」


 二人を無視して、コリンは嬉しそうに微笑んだ。


 『希望を拳に宿す者』。


 希望が最強ならもっと良かったのに、そんなことを思いながら、コリンは遠くを見つめるよに目を細めた。


「今頃、いなほさんはどうしてるのかしら?」


「さぁ? でもきっと……」


「きっと?」


「風を切って歩いているだろ」


 カッツァがその問いに答えて、バンも何度も頷きを返す。

 台風のように現れて、台風のように全てを滅茶苦茶にしていった男がもたらしたものは数多い。

 壊し、もたらし、このシェリダンという場ですら名を上げたその男を思えば、カッツァたちも気分が晴れ晴れとしていく。


「さてと……火蜥蜴の爪先、営業開始だ! 行くぞバン!」


「おうよ!」


「いってらっさーい」


 今日もいつもの日々が始まる。嵐の後の清らかな風に包まれながら。

 さて、今日は一体何処に行くのか。カッツァは、嬉しそうに頬を緩めて空を見上げる。

 台風の後、そこにはいつだって清々しい青空が広がっていて。


「……ふぁ」


 そんな青空の下を、欠伸をしながらいなほは歩いていた。

 あれから一週間。依頼達成による報酬をさっさと手にしたいなほは、王族を手助けしたということによる恩賞に目もくれず、荷造りをしてシェリダンを飛び出していた。

 別れの挨拶なんて特にない。カッツァ達との関係は、アイリスとのそれと似たようなものだった。

 軽く、浅く、でも硬い。いつだってここがお前の家だと、送別会の席でカッツァに言われた言葉だけでお腹いっぱいだ。

 とりあえず、サンタが王族であるという事実はあまりにも衝撃的であった。それから数日は、カッツァとバンが「畜生、こいつ、一人だけ畜生」と、ハウリングすら超える殺気でいなほを見ていたくらいにはそれはもうお祭り騒ぎであった。

 だが毎日が祭りのようなシェリダンであれば、数日もすれば酒と一緒に全部が洗い流される。いつもの日常の中、そろそろ行くかと決めたのが三日前、そうすれば、あれよあれよと送別会が決まって、あっという間にいなほはシェリダンを出ることになった。

 いなほは、アート・アートお手製の地図を見ながら、王都アードナイへの進路をとる。逃がさないと決めた。であれば、すぐにでも捕まえてやる。


「っと、そういえば……」


 そこでふと思い出した。いなほは鞄をあさると、少しだけ角が曲がった封筒を取り出して、その場に座った。

 あれから色々と慌ただしく、封筒を開ける暇がなかったのだ。一体何が入ってるのかねと、鼻歌交じりに封筒の中身を取り出した。




「略、おばかさんのいなほには色んな挨拶とか書いても眠くなるだろうから書きません。第一、今更取り繕って気にするような関係じゃ、ないよね?

 でも、いつ君がこの手紙を読んでいるのか気になります。

 おはよう?

 こんにちは?

 こんばんは?

 もしかして、おやすみなのかもしれないね。

 そんなことを考えるだけでも、にこにこしちゃうのは変かな?

 変だよね。

 でも、仕方ないね。

 さて、結局最初の挨拶が長くなったけど、色々書きたいことがあるから、飽きずに読んでね。

 読んでるよね?

 だったら嬉しいな。

 でね。

 まずは、ありがとうございます。君が居たから、私はここまで頑張ることが出来ました。きっとこの手紙を渡しているということは、君が私のことを知っているということになるから言っておきます。

 多分、色々と聞きたいことがあると思う。

 何で私がサンタ・ラーコンと名乗って、顔を幻術で騙したりしたのか。どうして、そんなことをしたのか。

 色々と事情があるにはあるけれど、でも、そういう難しい話はここでは書きません。

 書きたいのは、気持ちです。

 多分、この手紙を渡したってことは、結局私は君に何も伝えられずに別れたってことになってるんだと思う。

 だったらそのまんまが本当はいいんだけどね。

 君には彼女だって居るのだし。

 こんな言葉、迷惑なのはわかってる。

 でも、伝えたいことがあるんだ。

 うん。

 ねぇいなほ。

 君が好きです。

 大好きです。

 背中が好きです。大きな背中が大好きです。

 笑顔が好きです。カッツァは悪魔みたいとか言ってるけど、少年みたいで大好きです。

 心が好きです。前に前に進んでいく、迷いのない心が大好きです。

 そして何より、君の手が大好きです。強くて、大きくて、何でもつかめるその手で抱きしめてほしいです。

 うん。

 どうかな?

 ここまで言って、勘違いはしないよね?

 なんだか書いてて恥ずかしいけど、こんくらい言わないと、君ってば勘違いしそうだから、恥ずかしいけど書いたままにしておきます。

 だからごめんなさい。

 エリスちゃんっていう可愛い彼女さんがいるのに迷惑だとは思うけど。

 でも、気持ちだけは知っていてください。

 アリスアリア・アードナイとしてではなく。

 君の前にいた女の子。

 サンタ・ラーコンの気持ちをここに託していきます。

 きっと。

 ううん、絶対に。

 もう二度と、君と会うことは出来ないけど。

 残念だな。

 嫌だな。

 ずっと一緒にいたいな。

 大好き。


 ホントはぎゅってしてほしいです」





「……」


 いなほは、広げた手紙をそっと折りたたむと、優しく封筒の中にしまった。


「へへ」


 そして、何もかも悟ったような笑顔を浮かべて空を見上げる。快晴の空にまぶしい太陽。目を細めながら、いなほはサンタの気持ちのこもった手紙を大切に胸に抱いて。


「……読めねぇよ」


 とりあえず、次に会ったら何て書いてあったのか読んでもらうことにしよう。

 そう心に誓ったいなほは、手紙を鞄にしまって歩き出す。

 読めないために流し読んでしまったいなほは知らない。

 その手紙の後ろ。隅っこに書かれた小さな言葉。


「君が魔王で私は姫」


 そんな遠まわしな言葉を、知らないままに覚悟して。

 歩く先は決意の元。何があろうと突き穿ち、進む果てこそ約束の言葉。

 足取りは軽い。迷いなんて何処にもなくて、新たに紡いだ絆を背中に、託された想いの数々を、指針となして突き進む。

 もっと早く。

 もっと先へ。

 見渡す世界はいつだって。

 果ての見えない自由な空。


「さぁて、取り返しにいくとすっか」


 姫を攫う悪役の如く。

 魔王ヤンキー、今日も愉快に前進中。





第三章【やんきー・みーつ・ぷりん(せす)】完

























次章予告





手にした少女を取り戻すため、今日も朝からゴキゲンヤンキー。道行け道行け、遮る阿呆は吹き飛ばせ。そうして愉快な一人旅をしていたヤンキーが、偶然立ち寄った村で起きてる小さな異変。村人の元気が日ごとに失われ、作物が育たなくなる怪奇現象。無敵の肉体揺ぎ無く、しかし知恵なしヤンキーに手立て無し。

はてさて困ったその矢先。颯爽と現れるは、面倒な口調の幼女と、拘束趣味の優男。とんちき極まる二人組み、果たして告げるはことの真相。驚きの真実を前に、ヤンキー一匹、拳を作って押し進む。


今度の舞台は部隊や部隊! 総勢百名! 裏切りのジューダス! ついに訪れる神話の世界!

さぁさぁ、盛り上がりはいよいよここから! 史上最強絶対無敵! A+ギルド『傾いた天の城─バベル・ザ・バイブル─』が、無敵のヤンキーに牙を剥く!

本当の強さとは?

本物の頂点とは?

無敵と無敵が交差する中、怪しくヒャハッと笑い出せ!








Next chapter【えんたー・ざ・やんきー!】



「最強、だって?」


 出来の悪い冗談を笑うように、それは鼻を鳴らした。


「ッ……!?」


 最早、そいつは人間でも、ましてや魔族ですらなかった。

 立ち込める異常。震え上がる世界。怯えたように天が地が震えだし、終わりの鐘は鳴り響く。


「自惚れないほうがいい」


 それは、その異常の全てを二つの眼にかき集めた。限界を超えた狂気は鮮血となってその瞳から零れだす。零れた鮮血は、水滴のように地面に落ちた。

 瞬間、血の落ちた大地が砕け散る。

 今こそ終われ。このときに至る破滅、究極の混沌の一柱を持って。


「君が思う最強なんてものはね」


「な……」


「この世界じゃ、ゴミクズ以下だ」


 世界よ狂え。















「『災厄招来』」














 お前の敵が、ここに来る。














Peace out!







恒例の長いあとがきなので、そういうのが面倒な方は読み飛ばしてください。





と、いうわけで、第三章【やんきー・みーつ・ぷりん】は終了です。最後は駆け足気味ではありましたけど、あんましぐだぐだいなほとサンタのことで長引かせるのも良くないと感じたので、これくらいがちょうどよかったんじゃないかって私自身は思っています。

ここまで読んでいただけた皆様はもうお気づきかもしれませんが、今回の章は、簡単にまとめると、お姫様の呪いを解くための物語っていう、王道ど真ん中を全速力で突き抜けたような話になっています。まぁ勇者ではなく魔王が姫を救って、姫の呪いを解いたのが毒林檎ではなくて万能薬な林檎っていう、ちょっと捻った箇所はありますが。

そういうのも含め、今回はタイトルで釣るのが狙いでした。予告でプリン出しておけば、まさか本当はプリンセスだとは思うまいて、というくだらない思考から、あのタイトルは生まれています。

実際、今回はサンタの正体という点で、ある程度伏線を散りばめておきました。ってのも、今後の伏線の宝庫である、二章ラスト近くでアイリスが読んでいた新聞は、あれ、結構重要なんで、改めて読み直しておくことを推奨しておきます。

さておき、今回ははっきり言ってそこまで語ることはありません。あえて何かしら書くとしたら、今回はいなほの新たな旅立ちということで、全体的に一章の流れを汲み取っている部分が多いという感じでしょうか。そこらへんの類似点を探して、また読み直してみるのも面白いかもしれません。他には、というかこれが一番なんですが、サンタとの出会いを通じて、早森いなほにとっての仲間ってなんだろ。とか、そういう部分を描くことで、人間、早森いなほの心の成長物語にしたつもりではあります。ちょっとだけ見方を変えたいなほが、今後の出会いをどう吸収していくか、その下準備でもありますね。


長い話は置いておいて、キャラのお話に移りましょう。やはり今回で語っておきたいのはサンタ・ラーコン。本名、アリスアリア・アードナイについてでしょうか。全体的に不思議系な雰囲気がある彼女は、本来は王族としてのカリスマある少女でありましたが、あえて三章では、アリスではなくサンタ、何処にでもいる少女としての側面を強く描きました。王族だからこうだ。とか、王族だったらそんな考えはしない。っていう固定概念からは外れ、王族の前に一人の少女なんだよ。っていうのを意識して書いていきました。結果、ちょっと逃げの入った残念系になっちゃいましたが、まぁ点数の挽回は今後何処かしらでやってくれるはずです。一応、彼女が何で王の審判なんていうものを受けたのか、理由も本編でちょろっと書いたりしましたが、実はこういう理由があるんだよ、っていうのはあえて語りません。各々、自由にサンタが王の審判なんていう危険な試練に挑んだ理由を考えてください。

文字の読めないいなほに手紙を渡すというやらかし方をした彼女、次に会ったとき「これなんて書いてあんのか読めよ」といなほにせがまれ、顔を真っ赤にしてうーうー唸る日は、多分そう遠くない未来のことです。


続いて、カッツァ・グレイドラ。尻が爆発と言えば彼ですが、このキャラは、ヤンキーの前身に当たる物語で、元はアイリスの立場にいるキャラでありました。といっても、アイリスに求めたのが、いなほの同僚としてのものだったら、カッツァはいなほを叱るお父さんの役割として書きました。ただ叱るのではなく、人生の先輩として、こういう考えのほうがいい、とかではなく、こういう考えのほうが気が楽だろ、という、大人のふにゃけた考えを伝えるキャラです。

爽快感という点では、かつてまでのいなほのように、問答無用で全部叩き潰すっていうほうが気持ちいいかもしれません。ですが、一章を書き終え、二章も進めていたとき、いなほってあんまりにも子ども過ぎて、いつか折れそうだな、って思いました。そういった部分を教え、硬すぎる一本芯を少し柔らかくしてあげたという点では、この話の主軸にいたキャラであったと思います。

「まだまだ自分は子どもだよ」そう冗談混じりながらも言えるような大人。そんなカッツァの出番はもう少し、遅れてやってくる少女勇者との会合にご期待を。


そしてラストはバン・バットとコリン・テイル彼らはシェリダンという街を表現する、それだけのキャラだったはずですが、思いのほか愛着がわいて、バンは共に迷宮へ赴き、コリンはサンタの相談に乗ったりと、気づけば一つの個性として完成していました。

特にコリンについては、清純派ビッチともいえるキャラなんで、私の中でお気に入りのキャラクターだったりします。コリンくらいわかりやすいほうが、友人にする女性としては一番楽なんですよね。いい意味で裏表ないとか、まぁ現実の(以下略)。

バンについても、本当は途中で居なくなる予定でしたが、プロット上問題ないということで、急遽途中まで食い込ませるという感じにしました。バンみたいにふざけたようなキャラもいいですよね。

こういう、いい意味で気楽なバンとコリンこそが、シェリダンという場の空気を感じ取れるいい指針になってくれたんじゃないかなと、皆様にもそう感じてもらえていたら嬉しく思います。

さてさて、竜の息吹のキャラは、これは出たのがホンのちょっとということや、そもメインの出番は外伝ということもあるので、長く語るというのは止めておきましょう。バールについても、敵キャラですから控えとくということで。


うん、これで全員語ったな。もういない。他に主要のキャラなんていませんでした。


そういうわけで、シンプルにまとまった第三章、一章よりは長くて、二章よりは少し短い。でもボリュームは満足のいくものに仕上がったと思っています。


なわけで次章、予告の通り、ついに現れる『傾いた天の城』との戦いがメインとなる第四章【えんたー・ざ・やんきー!】またの名を、燃えよヤンキー!でまた会いましょう。




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