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不倒不屈の不良勇者━ヤンキーヒーロー━  作者: トロ
第三章【やんきー・みーつ・ぷりん】
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第二十七話【戦意交戦】

 一人、心の痛みに苦しむサンタ。だが感傷を振り払うように、ボス部屋の威容はいなほ達を包み込む。


「おいおい……」


 バンはその光景を見て、剣を構えることを止めた。

 そこにいたのは、全長五メートルほどの巨体を誇る醜悪な顔の魔獣、E+ランク、オークキング。その周りを固めるのは、オークキングより一回りほど小さい二体の魔獣、Fランク、オーククイーンだ。

 だが、本命はオークキングでも、オーククイーンでもない。そのさらに後ろ、オーククイーンほどの体躯でありながら、キングを凌ぐほどの力を立ち上らせる化け物が立っている。

 灰色の長い毛髪の下、金色の眼とむき出しにされた長い二つの犬歯。見た目だけならばいなほを上回る筋肉は真っ赤な皮膚で覆われている。肉体こそ最高の堅牢とでもいうのか、腰布以外は二本の巨大な剣を持っている以外にまとっていない。

 それは、最強の魔族の一角、鬼人が眷属。D-ランク、オーガナイト。準魔族級の化け物がそこには立っていた。

 数は前二つに比べて圧倒的に少ない。しかしその質は前の二つをはるかに超えていた。立ち込める殺気の膨大さを感じて、バンは即座に後方へと下がる。この先の勝負には、自分は壁の役割すら果たせないことを悟ったのだ。


「おもしれぇ」


 いなほは、無言で自分のみを見るオーガナイトの視線を感じて拳を鳴らして応じた。バンの体躯ほどはある二刀を軽々と扱うオーガナイトの瞳には、理知的な輝きが宿っている。


「……」


 オーガナイトは、無言で体に爪を立てて魔方陣を刻むと、そこに魔力を通した。強化魔法の術式。その能力は、カッツァとサンタが怯むほどだ。

 だがいなほは一歩踏み込む。むしろそれを待っていたとばかりに目を輝かせ、サンダルを脱ぎ去った。


「サンタ、カッツァ。雑魚は任せたぜ」


 体が白熱する。燃え上がる気力は、噴出した汗を蒸発させた。

 一歩、加速と同時に戦いが始まる。盲目的に突撃を敢行したいなほを補佐すべく、サンタとカッツァがそれぞれの武器に魔力を通した。


「『落雷』!」


「『火炎』!」


 上空から閃光が。行く道を塞ぐように炎が、それぞれいなほを迎撃しようとしたオークたちを足止めする。

 炎で彩られたオーガナイトまでの直通回線。待ち構えるオーガナイト目掛けて、狂騒のいなほが挨拶代わりの一撃を叩きつけた。

 交差した二刀の中心に炸裂する筋肉弾頭。ぶつかった鉄と鉄が音叉となって闘技場内を奮わせた。発生した衝撃の予兆を察したオーガナイトは、咄嗟に後方へ退くことで拳の威力を軽減させる。


「■■■■ッッ!」


 そして次は自分の番だと雄たけびをあげたオーガナイトは、その見た目からは考えられないほど美麗な太刀筋でいなほを強襲する。まさしく豪剣、皮一枚で虚空から抜かれた閃きを回避したいなほの真横で暴風が発生し、炎の残滓を吹き飛ばす。

 揺らぐ頭髪と肌に感じる剣圧。こめかみを焦がす殺気の流れに身をゆだね、返しの刀を屈んで掻い潜る。

 強い、だが遅い。いなほの脳裏に思い浮かぶのは、斬撃を先に予測せねば回避が不可能だったミフネの太刀筋だ。それに比べれば、オーガナイトの剣は、無駄がありすぎる。


「もっとっ! 来いやぁ!」


 いなほは尚も畳み掛けてくるオーガナイトの一撃一撃を見極めつつ、静かに機をうかがった。一撃ごとに乱気流が発生し、回避しても荒波に晒されているような力強さ。それすらもいなほには小波のごとく生ぬるい。

 もっと早く、もっと先へ。あの時感じた奇跡の瞬間は、この程度ではなかった!


「■■■■ッッ!」


「ツラァ!」


 我慢できず大振りとなったその刀身に右手の甲を添えた。赤子に触れるように優しく添えた手が、突如力を肥大させる。真横へ押し出された刀身がオーガの体ごと流す。力の流れを乱されたオーガナイトの体が崩れた。

 その予兆を見切り、踏む。

 いなし、弾き、流れから懐へ。針の穴を通すような繊細な動きで己の間合いに入り込んだいなほは、オーガナイトの腹部に手のひらを添えた。直後、地に根を張った巨木のような雰囲気を持つ軸足が螺旋を巻き起こす。

 独自の踏み込みによって円回転した反発力は、回転につぐ回転を発生。渦を巻いて伸びていく力の軌道が見えるほどのそれは、オーガナイトの腹部に添えられた手のひらへと、瞬きの間すら与えずに収束。

 とどめにねじ切るように手のひらごと腕を捻る。肥大する摩擦係数。腹部が熱を帯びて煙をあげるよりも早く、吐き出されるのは爆発的破壊力。


「オラァ!」


 体ごと手を押し込む。密着状態からの一撃は、普段のように相手を吹き飛ばす業ではない。

 わずかに揺れたオーガナイトの顔が引きつると同時、その口から大量の血液が吐き出された。螺旋を用いた絶技は、敵を吹き飛ばす衝撃力ではなく、内側をずたずたに引き裂く浸透力。

 名もなき技は、達人すらも扱えぬ奥義。トロールキングを打ち破るために編み出された技によって、オーガナイトの内部は確実なダメージを刻み込まれていた。

 決着。瞳から色が失われたオーガは、そのまま力なく体をいなほに預けて。

 ──しかし、止まらない。意識を失って弛緩したはずのオーガの体が、突如力を取り戻す。

 隙を作られた!? 驚愕する間も、ましてや回避行動をとる暇も与えず、密着状態からオーガナイトは左の剣をいなほの右肩に叩き込んだ。


「ぎぃ!?」


 激痛が右肩で弾ける。脳内で駆け回る電撃音。オーガナイトの渾身は、いなほの右肩の筋肉を僅かに切り裂き、その内側の骨に罅を走らせた。

 いなほの体が剣の振りぬかれるまま真横に吹き飛ぶ。一秒ほどの浮遊感のあと、激突、回転、即座に体勢を整えたいなほは、右肩の傷に手を這わせ、溢れた血を拭って舐めとる。

 笑え。


「こうでなきゃなぁ!」


「■■■■ッッ!」


 ある程度の張り合いがなければ話にならない。致命傷を受けながらなお戦意を衰えさせぬオーガナイトの気迫に応じて、いなほは静かに構えなおした。


「やぁぁぁぁ!」


 詠唱の暇がない。巨体が発する物理的な圧力に飲まれぬように、雄たけびをあげながらサンタは魔法を放ち続ける。だが、氷の飛礫、炎の鳥、雷の一撃を経て、なおオークキングの猛追は止まらない。

 せめて戦闘開始のとき、距離が後百メートルあれば苦戦もせずに倒せただろう。しかし密閉空間という場がサンタに不利を強いる。言語魔法を重ねた一撃をぶつけられたのは初手のみ、それもオーククイーンが身を挺してキングを守ったことにより、キングは無傷でサンタとの距離を詰めていた。

 その手に持った鉄の塊としか言いようのない何かが、飛礫を砕いてサンタを襲う。強化魔法を四肢に刻んだことによる飛躍的な能力向上で、どうにか回避はできているが、それでも一撃もらえば敗北は必死。

 恐怖を乗り越えてなお、サンタにはやはり地の経験が少ない。戦闘力を全て使えるのと、戦闘力を全て使いこなすのでは、その差は歴然だ。さらに言えば、膨大すぎる魔法の数々がここでは足かせになる。

 何を使えばいいか迷ってしまうのだ。これがいなほなら拳、カッツァなら炎と、選択は容易にすまされるが、サンタはその気質ゆえか、どうしてもベストを求めてしまう。


「くっ……!?」


 マントを引き裂く鉄の発生する風圧に顔をしかめつつ、サンタは顔に浮かんだ汗を拭い取る。立ち向かう勇気はあるのに、どう立ち向かえばいいかわからない。我武者羅になるには、この場は命を賭ける場ではないことも災いしていた。

 それでも、いなほがオーガナイトと相対し、カッツァが残りのオーククイーンと戦っている今、目の前の敵は自分でどうにかするしかない。

 それに、これが私の始まりなら、手を借りてはいけないんだ。

 決意を胸に、普通の少女は、巨大な王の打倒へ向けて魔方陣を展開した。


「『火炎』!」


 カッツァの戦い方は冒険者の見本となるくらい堅実だ。危険を冒すことなく、オークナイトの攻撃を回避しながら、機を見て炎を着実に叩き込む。相手へのダメージは少ないが、重点的に顔を焼いている以上、いずれは視界が悪くなり、攻撃は鈍るだろう。

 しかし余裕があるわけでもない。E-ランクのカッツァにとって、Fランクのオーククイーンは、本来一対一で相手をする敵ではないのだ。ランクで勝っているからといって、決してそれは確定的な勝利につながることにはならない。むしろ低位のころとは違い、ある程度のランクになると、格下が格上に勝つということが珍しくないからだ。

 オーククイーンは炎を無視して、その巨体を揺らしながら突き進んでくる。クイーンの名のとおり、それは身体的な特徴は人間の女性と変わりなく、身につけているのは腰布だけだ。

 だからといって、すっごいでかい太った豚面の皮の色すら違う生物的に別次元のそれを、俺は女と呼びたくない。内心の嘆きはおくびにも出さず、カッツァは火炎を放った。


「■■■■ッッ!」


 オーククイーンは、迫る火炎を鉄の塊で迎撃する。だが容易く掻き消えるはずの炎は、なんとオーククイーンの一撃と真っ向から拮抗した。

 自然にはありえぬ現象にオーククイーンが凶荒する。だが炎の繰り手であるカッツァからすれば、それこそ待ち望んだことだった。


「悪手だよ」


 ガントレット、魔拳『サラマンダー』に魔力をこめる。主の魔力をむさぼったガントレットは、吐き出すようにして炎を吹き上がらせた。

 炎に足止めされたオーククイーンは、間合いを詰めてくるカッツァがわかっていても止められない。その間に懐にもぐったカッツァは、その足を蹴って跳躍すると、笑みを浮かべながら手を開いてクイーンの顔に向けた。


「弾けろ! 『紅蓮』!」


 二本の炎の竜巻がクイーンの顔を飲み込む。それでは飽き足らずに、壁の向こうまで飛んだ炎に巻き込まれて、オーククイーンも壁に激突した。


「っと」


 着地と同時に構えなおす。手ごたえはあったが、相手はタフで有名なオークの、クイーン級だ。

 ともすれば、予想通りにオーククイーンは火傷によるダメージが見られながらも、ゆっくりと立ち上がった。

 その目に宿るのは憤怒だ。全身を火傷による負傷にさらされながら、激痛を憤怒によって塗りつぶしている。


「ったく、こういのは趣味じゃないんだけどね」


 バトルマニアなどではないのだからもっと楽がしたいものだ。だがそんなカッツァの願いもむなしく、怒りで我を忘れたオーククイーンは、先ほどまでの動きを凌駕する勢いで襲い掛かってきた。


次回、炎上、閃光、激烈。


例のアレ

オーガナイト

超武人。やば強い。

オークキング

超野蛮。強い。

オーククイーン

うわー、おっぱい丸出しだー

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