第二十二話【君と私と、繋いだ手のひら】
その日の内に、四肢を砕かれた状態でダンジョンに放置されたダルタネスを除いた戦意の行軍の四人は、悲惨な末路を迎えることになる。
いなほによって丁寧に間接を外され、サンタの魔法で完全に身動きができなくなった彼らは、まず全裸にひん剥かれ首に縄をくくった状態で市内を連れ回された挙句、サンタ手ずから練られた拘束魔法によって、全裸のまま斡旋所の前にケツを晒された状態で暫く見世物として吊るされることになる。さらにその後、火蜥蜴の爪先の手によって、彼らは粛清されることになった。
その後の戦意の行軍がどうなったのかはわからない。ただ、随分な数のギルドを怒らせた彼らは、貴族であるクレインですら粛清され、その姿を闇に葬ったという。
公式の見解では身の丈に合わぬ高ランクダンジョンに挑み、パーティー全滅とされているが、実際は、暗黙の了解で、誰もが口を閉じて語らないといったところだ。
いなほとサンタとバンも、その結末を知ってはいるが、いなほとバンはともかく、良識人であるサンタは少しばかり冷や汗をかいたものだ。だがその末路も、何の意味もなく人を殺した者の迎えるものとしては当然だった。
変な話だが、人を殺すことは許されないことではあるけれど、この世界では、地球のそれよりかは比較的殺人に寛容だ。そのため、戦意の行軍を結果として死へと追いやることになった火蜥蜴の爪先は、正当な復讐行為として罰を受けることはなかった。まぁ、戦意の行軍は公式ではダンジョンで死んだのだから、罰だどうだというのはお門違いではあるが。
「と、いうわけで、これからお世話になるぜいなほちゃん!」
そんなこんなで、自体はある程度の落ち着くまで二週間。そんな感じでバンはいなほ達のチームに入ると告げたのである。
バンの明るい声に、食事中のいなほとサンタは唖然とバンを見つめた。
「って、おい、ギルドはどうすんだよ」
「一人になっちまったからな。フリーの冒険者として改めて登録し直した。これで俺もいなほちゃんの役に立てるってわけよ!」
胸を張って得意げに語るバンだが、それでも懸念はまるで拭えない。
「わかってるのか? 俺達が挑むのは、墓穴の向こう側なんだぜ?」
「あぁ、だから、優秀な罠探知役は必要だろ? これでも戦力はないけど、上位ギルドの冒険者にだって罠への対策は負けない自信はあるんだぜ!」
そうは言っても、といなほとサンタは目を合わせて当惑するが、そんな二人の不安をかき消すようにカッツァが割って入ってきた。
「バンの罠に対する見識は俺が保証するよ。これでもバンには、上位ギルドから罠への対策を聞きに来るときもあるからね」
「へへん」
「まっ、救いようのないアホにも特技の一つはあるってことね」
コリンが伸び切ったバンの鼻を挫く一言を漏らす。それだけでしょんぼりと落ち込んだバンは一同に笑われつつも、カウンターに置かれた二つのグラスに酒を注いだ。
店に集まった全員がそっと目を閉じる。この稼業だ、仲間の死は珍しくないとはいえ、今回に関してはあまりにも悲惨すぎる。黙祷を捧げたいなほとサンタは、どちらと言わずに視線を合わせた。
「私のせい、って言うのは違うのかな?」
「あぁ、悪いのはあのクソったれどもだ。だが、もしそれでも責任を求めるなら」
「きっと、全部だね」
どれをまとめて全部なのか。までは言わない。普段より僅かに暗いながらも賑やかな店内を、いつものように見渡しながら、そんな会話を交わす。
死者が寂しく逝かないように、彼らは仲間が死んだ後は賑やかに彼らの思い出を語る。忘れないように、語り継ぐように、先に逝った者を誇るため。
「死者を弔う時は、静かにするっていうのが当たり前、なんて思ってた」
「不謹慎か?」
ううん、とサンタは首を振った。
「死者の弔い方は、多分人それぞれなんだ。大切なのは、逝った人を思う心で、だったら、この場こそ死んだ人の思いを継ぐのに、相応しい」
「あぁ、俺らは死んだ奴らのことはしらねぇけど。だけど、死んだ奴らを思う奴らがこんなにもいるっていうことを、留めることぁ出来る」
「それは、きっと素晴らしいことなんだ」
サンタは焼き付けるようにその光景を眺めた。きっと明日からは変わらない日常が始まる。だけど、そんな日常の中に、死んだ人の願いや思いは託されていて、それが続いて、日常となる。
「戦う人たちなんだね。皆」
その生き様を、不謹慎ながら羨ましく思った。荒くれ者の彼らにこそ、生と死の価値観が明確に存在している。その在り方をサンタは少しでも学ぼうとした。
きっと、この経験こそが必要なことなのだ。ただ戦いを学ぶのではなく、重要なのは、戦いの中で培われる精神性。それを今回の一連の騒動でサンタは培うことが出来たと思う。
「……」
サンタは視線を外して、騒ぐ彼らを楽しそうに見守るいなほを見上げた。
不器用な人だ。口下手で、自分本位で、何でも強引で、だけど彼は、気にいった人のことを真剣に考えている。
「やっぱし、真っ直ぐで、おバカさん」
「あ? 何か言ったか?」
「別に! ほら、私達も、ぼーっとしてないで、行こう!」
サンタはいなほの大きな手を取ると、共に立ちあがって騒ぐ人の輪の中に入り込んで行く。
明日を綴るための今日を、今この瞬間を共に分かつために楽しむこと。どんちゃん騒ぎで得た感動に笑うサンタを、いなほもまた自分のことのように喜んだ。
次回、墓穴の向こう側へ。下準備。
例のアレ
戦意の行軍「アヘェ」
末路。