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不倒不屈の不良勇者━ヤンキーヒーロー━  作者: トロ
第三章【やんきー・みーつ・ぷりん】
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第十五話【ヤンキー休憩中】

 そうして再び探索を開始してから少しすると、上へ続く階段のある小部屋へと辿りついた。罠の有無をカッツァが確認してからいなほとサンタも入室する。こうした小部屋はダンジョン内には幾つもあり、何か貴重な素材がある場合や、罠にまみれたモンスターハウスまで、その部屋の内容は多岐に及ぶ。

 一応調べたりはしたが、基本、上に上がる階段と、離脱用の魔法陣がある部屋は安全が保障されている。


「休憩にしようか」


 カッツァは二人にそう提案した。いなほとカッツァはそうではないが、戦いに今だ慣れないサンタの疲労は二人よりも多い。「ごめんね」と、サンタはカッツァの気遣いに感謝して、部屋の一角に魔法陣を展開すると、その中央に座った。


「二人も座りなよ。特性の柔らか魔法陣です」


 サンタは二人を手招きした。誘われるがままに魔法陣に入り込んだ二人は、まるで上質なマットの上にいるような感触に僅かに驚く。

 これまでサンタは様々な魔法を使って来たが、その魔法の多さに、特にカッツァは驚くばかりだった。普通は、得意とする一系統と、補佐用の魔法各種、というのが基本だが、サンタは複数の属性の魔法を難なく使い、さらには今のような使えなくてもいいような魔法すらも使える。


「不思議ちゃんはさ、魔法何処で習ったんだい?」


 その質問は当然だった。基礎の基礎的な魔法は親から教わり、冒険者などはギルド、あるいは学院などで魔法を教わる。なので魔法を使えるのは当たり前なのだが、それにしてもサンタの魔法の種類の豊富さは、それこそ王宮直属の魔法使いクラスと比べても尚上を行くほどだ。


「えっと……家に魔道書が沢山あって、後は家庭教師の人に教わったんだ」


「へぇ、それであそこまでの魔法を使えるとは……実力的にも、天才ってのは違うんだねぇ」


 僅かな悪戯心を発揮して言ったカッツァの一言に、サンタは普段の温和な表情を僅かに

凍りつかせた。


「不思議ちゃん?」


「……ありがとね。でも、天才とか、本人に言うのは皮肉に聞こえるから駄目」


 だがすぐに普段の雰囲気を取り戻したサンタは、カッツァを叱責する。その変化は僅かなもので、普通なら気付かないほどだっただろう。


「……」


 その違和感に気付くが、いなほはあえて口を出すことはしなかった。きっとそれもサンタが隠していることの一つなのだろう。なら、本人が言えるまで待てばいい。そう気楽に構えたいなほの前に、何処かから美味しそうな匂いが漂って来た。

 匂いの元は、羽織っているマントからサンタが取りだした三つの弁当箱からだった。


「はい、お腹が空いたら大変なので、作ってきちゃった」


 サンタは小さな弁当箱をいなほとカッツァに手渡した。本来、ダンジョンでは携帯性を考えて干し肉などが基本だが、サンタの四次元マントにかかれば、そういった常識は関係ないらしい。

 手渡された弁当箱は、出来たてが入っているかのように、僅かな温かみがあった。箱を開くと、入っていたのは、食べやすいサンドイッチだった。種類は豊富で、野菜を挟んだものからスクランブルエッグ、綺麗に切られた肉などなど、食欲をそそるものばかりである。


「はい、まずは手を拭いてね」


 続いてサンタはおしぼりを三つ取りだした。しっとり濡れたおしぼりは、ダンジョンに入っていた腕や顔を拭くには丁度いい。心地よい爽快感に包まれた三人は、早速サンドイッチに手をつけた。


「お?」


「これは」


「ど、どうかな?」


 瞑目する二人の反応を不安がるサンタ。だがその不安を振り払うように、二人は勢いよくサンドイッチにがっつき始めた。


「うめぇうめぇ」


「これはいけるよ不思議ちゃん! ていうかこれ食材からして違うよね!? うっほー、女子の手作りとか久しぶりすぎて俺号泣!」


「良かった……お腹、一杯になると大変だからそれだけだけど、今度また作ってくるね」


 サンタの言葉も聞かずに、いなほとカッツァは食事に夢中になっている。その反応に気をよくしたサンタも、遅れてサンドイッチに口をつけた。

 獣のようにサンドイッチを貪る二人とは対照的に、サンタは口を大開きにはせずに、啄ばむように噛みしめる。


「おいおいサンタ。そんな食べ方じゃ日が暮れるぜ?」


 いなほがそんなサンタをからかうが、サンタは顔を真っ赤にして「だって、恥ずかしいよ」と言って、やはりちびちびとサンドイッチを齧った。


「だけどね不思議ちゃん。ダンジョンでは早めの補給ってのは案外大事だったりするんだ。はしたないのもわかるが、少しは早く食べる努力をしたほうがいい」


 サンドイッチだけでは足りなかったのだろう。袋から干し肉を取り出したカッツァは、それを食いちぎりながら言った。


「……うん」


 だがどうしても豪快な食べ方は下品で真似できそうにない。口の中の動きを速めることで、何とか食べ進めて行こうとするサンタだが、結局一口が小さいので、食べ切るのに随分と時間がかかるのであった。


「そういやよカッツァ、このダンジョンのボスってどんなんなんだ?」


 食後の休憩中、暇つぶしにいなほはそんな疑問をカッツァにぶつけた。


「Eランクダンジョンだから、おそらくクイーンバウト数体と何十体っていうウルフの群れか、あるいはキングバウト一体と少数のウルフの群れか。基本としてはそこらへんだけど、大穴で知恵魔獣が出てくる可能性もあるかな」


「知恵魔獣?」


 聞いたことのない単語にいなほは首を傾げた。そんないなほに説明を続けようとしたカッツァに代わって、サンタが答える。


「端的に言うと、知恵のある魔獣、かな。言語を理解して、魔法を駆使する魔獣のこと。基本的に、魔法が使えるのが魔族だけど、知恵魔獣は、魔族程の身体能力のない魔族のことを指すの。言ってしまえば、魔族の最下層かな?」


 例えるなら、ただのトロールが魔法を使うのと同じなのだろう。本来、魔獣というものは、身体能力に比例して知恵が向上するものである。トロールキングはその最たる例だろう。

 だが異例として、身体能力が基本的な魔獣のそれと同じなまま知能の高い魔獣が生まれることがある。これが知恵魔獣だ。知恵魔獣は、野生で生まれた場合、当然として群れのトップになり、いずれは成長して魔族となるのが通例である。

 しかしこのダンジョンという特殊状況下で生まれる知恵魔獣は、魔獣や冒険者の屍を吸い取るダンジョンから生まれたものであるため、それ以上に成長もしなければ、ダンジョンより出ることが出来ないという特殊性がある。


「それでも、知恵魔獣が生まれる可能性って、あまりないの」


 魔獣は、正確にはそれ一つで一括りに説明できるものではない。基本となる種族をベースに、ソルジャー級、ナイト級、クイーン級、キング級とある程度のランク分けがされている。その中で知恵魔獣はその括りには当てはまらず、ランクに換算するとF-からE+程度である。Dランク以降からは魔族と呼ばれる上位種となり、いなほが倒したトロールキングとヴァドは、魔族の中でもさらに上のランクに位置する幹部級魔族だ。

 そしてその上にいるのが、魔王級魔族、Bランク以降は基本的にそう呼ばれ、出会ったら敗北必死とされる領域だ。尚、数年前に起きた魔王戦争における三体の魔王は、実力的には一体一体が神と呼ばれる者と殆ど差異がない能力を持っていた。


「そう考えると、魔王級すら倒せるチームにいるってのは落ちつくねぇ」


 既にいなほとサンタのランクを教えてもらっているカッツァは、Bランククラス二人が並ぶという物語のような光景に、思わず感嘆の声を漏らしていた。

 カッツァが感嘆するのも無理はない。Bランクと呼ばれる領域は、各国の王族クラスでしか普通は見ることが出来ないほどだ。貴族ですら、優秀な者でCランクに届けばいいとされている。

 そして、その上のAランクに関しては、最早伝説級だ。天を割り、地を砕く。国家が全霊をかけて挑んでも打倒が難しい領域。かつてそんな化け物が三体も国境をまたいだ先に居たというのだから、人生わからないものだ、といらんところまでカッツァは考えを巡らせていた。


「カッツァ?」


「ん、あぁ。すまないね、少し呆けていたよ」


「もう、折角デザートも用意したんだから、しっかりしてよね」


「何!?」


 デザートという言葉へのカッツァの食いつきは半端ではなかった。いなほも思春期の子どもの如き、興味のない素振りを見せながらちらちらとサンタのほうを見ている。

 そんな二人の期待を一身に受けたサンタは、見せつけるようにマントの中に手を突っ込むと、中から冷気を放つ容器を取り出した。

 二人が身を乗り出して容器を見る。サンタはもったいぶるようにゆっくりと容器を外すと、嬉しそうに中身を見せつけた。


「じゃーん! プリンだよ!」


 そこにあったのは、間違いなくプリンだった。三つの黄色い山が、振動でゆらゆらと揺れ動いている。

 カッツァは初めて見るデザートから漂う甘い匂いに喉を鳴らして、いなほは懐かしいものに目を輝かせた。


「おぉ! プリンなんてこっちに来てから初めて見たぜ!」


「へぇ、いなほ、プリンのこと知ってるの? 王都だとマルクから来たっていう職人さんが作ってから、今凄い人気があるんだ。『絵描きさん』ってお店なんだけど、いなほも知ってるの?」


「知らねぇな。俺ぁここらのことはさっぱりなんだ」


 いなほは手渡されたプリンを、同じく渡されたスプーンで掬って口に運んだ。

 口の中ですぐに溶ける柔らかさもさることながら、しつこすぎない甘さが素晴らしい。喉をするりと抜けていくプリンの食触感に、いなほは満足そうに頷いた。


「こいつぁ美味いぜサンタ」


 隣でカッツァもコクコクと同意を示している。サンタは安堵のため息を漏らすと、自分の分も口に入れた。ふにゃりとほほを緩めて、恍惚としたため息を漏らす。


「うんうん。私ながら素晴らしい。私好みで作ったけど、気に入ってもらえて、嬉しかったな」


「そんなこと言うなって不思議ちゃん! この美味さなら一儲けできるくらいさ!」


「そいつには俺も同意だな。いけるぜサンタ、売り出しちまえって」


 量自体は少なかったためか、二人は二口程度でプリンを完食してしまった。それでも未だに口の中を楽しませる甘さに舌鼓を打って褒め称える言葉に、サンタは恐縮するように両手を顔の前でパタパタと振った。


「もう、褒めてもこれ以上でないんだから、そういう恥ずかしい言葉、禁止だ」


「っても実際美味かったしよ」


「そうだねぇ」


「……ありがと」


 赤い顔を隠すようにサンタは身を縮ませて、パクリとプリンを口に入れた。


次回、恐怖。


例のアレ

プリン専門店【絵描きさん】

店主、アート・アート「プリン男爵と呼びなさい」

こんな店主だが、プリンは超美味い。

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