惨劇のカウントダウン
|3月11日今日はみんなと最後で最高の思い出になる卒業式になるはずだった.....
冷たく湿ったコンクリートの匂いと、大勢の荒い息遣い。そして頭を割るような酷い
痛みに、樋口錬児の意識は浮上した。
薄暗く無機質な空間。天井には巨大な換気扇が鈍い音を立てて回っている。周囲を見渡せば、同じ学校の制服を着た見覚えのある顔――全六十名の同級生たちが、困惑と恐怖に顔を歪ませて床に倒れ伏していた。
「な、何だよここ……っ」
「私、なんでこんな場所に……!?」
パニックが爆発しかけたその瞬間、カツン、カツンと硬い靴底が床を叩く音が響いた。
正面のステージ中央に眩しいスポットライトが当たり、一人の男がマイクを手に姿を現す。陸軍特殊部隊の迷彩服を纏ったその男は、口元に不吉な笑みを浮かべていた。
『――静かにしろ、金の卵ども』
大出力のスピーカーから放たれた冷徹な声が、広い部屋を一瞬で静まり返らせた。
『あー、あー。聞こえているな。……はじめまして、諸君。この黄金の試劇(ゴールデン・サバイバル / ジー・サバイバル)の最高責任者――GMの宮世琉弥だ』
青空の彼方、監視カメラのレンズがギラリと不気味に光る。男の威圧感に、誰もが息をのんだ。
『君たちが今どこにいるか、なぜここにいるか……説明してやろう。今年君たちの高校そう青葉高等学校が選ばれたんだよ。みんな拍手を。ここは本土から完全に隔絶された絶海の孤島だ。そして君たちの首に巻き付いているのは、極小の爆薬と心拍センサーが仕込まれた特殊な首輪。外そうとすれば即座に作動して、その哀れな首が吹き飛ぶ仕組みになっている』
ざわめきすら起こらない。圧倒的な現実味を帯びた言葉に、誰もが息を凍らせていた。
『ルールは極めてシンプルだ。制限時間は七日間。この島には、君たち同級生六十名と、私たちが用意した「初期支給品」がある。……1週間生き抜いたらゲームクリアだ。』
さらに宮世は、楽しそうに言葉を重ねた。
『それから、君たちには毎日必ず指定された場所に行ってもらう。一日目は島内にある七つのチェックポイントのうち、どこか一箇所に十秒間留まればクリアだ。二日目は六つのチェックポイントのどこかに十秒……フフ、あとは言わなくても分かるよな?』
宮世は液晶画面を指差しながら、冷酷な笑みを深める。
『サービスだ、七日目の最後のチェックポイントだけ教えてあげよう。スマホの地図を開いてみろ。「11のe」が最後のチェックポイントだ最後だからここには最低2時間滞在してもらう。ここには豪邸がたっているんだぞ。このゲームのために、住人の皆様には二週間前に出て行ってもらった。……安心しろ、君たちは島内のいろんな家に入り放題だ。自由に使ってくれ、あと言い忘れていたが必ず1日2人は死ぬことあとはチェックポイントのルールを守ること守れないと首輪が爆発するよ』
狂っている。冗談にしては悪質すぎる。だが、首筋の重みと冷たさが、これが悪夢ではないことを残酷に突きつけていた。
『さあ、高校最後の思い出だ。泣き叫ぶもよし、騙し合うもよし、愛のために死ぬもよし。君たちの命を賭けた、最高にエキサイティングな卒業試験を始めよう』
宮世が手元のスイッチを押すと、ガコン!と重痛い音を立てて壁際の巨大な鉄扉が解錠された。そこからは、見たこともない密林のジャングルと、ギラギラと照りつける南国の強い日差しが差し込んでいた。
『全員、とっとと外へ出ろ。……あ、言い忘れていたが』
追い出されるようにして部屋の外へと吐き出された生徒たち。直後、全員のポケットやバッグの中で、スマートフォンが一斉に電子音を鳴らした。画面に表示されたのは、宮世からの冷酷な追加メッセージだった。
『ゲーム開始は一時間後だ。それまでの一時間は、お互いに殺人は我慢してね』
画面の文字を目にした瞬間、堰を切ったように島内の至る所で**狂乱と叫び**が爆発した。
「嘘だろ……嘘だと言ってくれよ!!」
長谷川 翔太が頭を抱えて地べたに崩れ落ち、爪が引きちぎれるほどの力で首輪を掴んで引っ張った。
「外れろ! 外れろよこれぇぇぇっ!!」
ピッ、ピッ、と首輪から不気味な警告音が鳴り響き、周囲の生徒たちが悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように距離を取る。「やめろバカ! 爆発するぞ!」と怒号が飛び交い、男は血走った目で泣き叫びながら地面を転がり回った。
「嫌……嫌ぁぁぁっ! お母さん! お父さん! 助けて!!」
女子生徒のグループでは、過呼吸を起こした生徒が膝から崩れ落ち、過剰な恐怖で嘔吐を始めている。寄り添おうとする友人も、自分の手元に支給された「不穏な武器」を前に、どう接していいか分からず震える手で距離を置いた。
「おい、冗談だろ……? なんで俺たちが殺し合わなきゃいけないんだよ! 電波は!? 警察に電話は繋がらねぇのかよ!?」
スマートフォンを必死に掲げて電波を探す男子に対し、背後から冷ややかな視線を送る者たちがいた。
坂井莉乃をはじめとする5人組は、混乱する同級生たちを品定めするように見回しながら、すでに不敵な笑みを浮かべて小声で計算を始めている。スプーンを握りしめた九条頼斗もまた、動揺する生徒たちの心理を観察し、誰を配下に収めるべきか静かに思考を巡らせていた。
「――一時間の猶予か」
群衆のパニックと絶望の叫びをBGMにしながら、錬児は即座にスマートフォンの画面を閉じ、自分の足元に置かれていた革製のサバイバルバッグを拾い上げた。
中身を手早く確認する。入っていたのは、わずかなサバイバル用具と、薬品調合の基礎素材。
一時間後にはこの「殺人の我慢」という生ぬるいルールは消え去り、今ここで泣き叫んでいる連中も、生き残るために互いの喉元を噛みちぎり合う猛獣へと変わる。
(……考えろ。ここでパニックに呑み込まれた奴から死んでいく)
錬児は深く息を吐き出し、研ぎ澄まされた脳髄で現状を冷却分析し始めた。
一日目のチェックポイントの割り出し、支給された化学素材の調合ルート、そして何よりも優先すべき「守るべき存在」の確保。
一時間という猶予の中で、一刻も早く有利なポイントへ移動し、あの子を見つけ出さなければならない。
錬児の瞳の奥に、冷徹で静かな決意の光が宿った。
愛する者をこの悪夢から絶対に生きて連れ帰る。そのためなら、たとえどれほど血に塗れた非道な手段であろうと、容赦なく使い倒してやる――。
潮風がジャングルの木々を揺らし、殺戮のカウントダウンを告げるようにザーッと深い音を立てた。
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「ハァ……ッ、ハァ……ッ!」
鬱蒼と茂る熱帯の樹木を押し分け、樋口錬児は湿ったぬかるみを疾走していた。
頭上でカチ、カチと刻まれる透明なカウントダウン。スマートフォンに送られてきた「1時間は殺人がまんしてね」という無機質な通知から、すでに二十分近くが経過している。
この一時間の猶予は、救済ではない。宮世琉弥という男が仕掛けた、最悪の意地悪だ。
生徒たちに「逃げる時間」と「考える時間」を与えることで、互いの猜疑心を極限まで肥大化させ、ゲーム開始の瞬間により凄惨な血の雨を降らせるための罠に過ぎない。
(……一分一秒が無駄にできない。一刻も早く、詩織を見つけ出す)
錬児は走りながら、首から下げたサバイバルバッグの中身を頭の中で反芻していた。
支給されたのは、基礎的なサバイバルキットと、いくつかの化学薬品の原液。普通の人間からすればただの不便な荷物だが、錬児の頭脳にかかれば、これらは凶悪な毒物や爆発物へと姿を変える「兵器の種」だった。
だが、どれほど強大な火力を手に入れたところで、背中を預けられるパートナーがいなければ、多勢に無勢で容易に詰む。
この島で錬児が唯一、命を懸けてでも守ると誓った存在――小渕詩織。
その時だった。
――ザッ。
前方の茂みが激しく揺れ、乾いた金属音がジャングルに響き渡った。
「誰っ……!?」
鋭い不審の叫びとともに、密林の陰から一人の少女が飛び出してきた。
乱れた制服、肩を大きく上下させる息遣い。そしてその両手には、シルバーの光沢を放つ**金属製のヌンチャク**が固く握りしめられていた。
「――詩織!」
錬児は足を止め、即座に両手を挙げて敵意がないことを示した。
「錬児……!?」
小渕詩織の瞳に、激しい動揺と安堵の色が同時に走る。しかし、彼女の手からヌンチャクの緊張が消えることはなかった。ジャングルを吹き抜ける生ぬるい風が、二人の間に漂う殺伐とした空気を揺らす。
「よかった、無事だったか」
「錬児……本当に、錬児なの……? 首のそれ……」
「ああ。宮世の言った通り、本物の爆薬首輪だ。無理に外そうとすれば弾け飛ぶ」
錬児は冷徹な声で告げ、ゆっくりと歩み寄った。詩織の構えがすっと解け、握りしめられた金属製ヌンチャクがチャリ……と静かな音を立てて彼女の腰元へと収まる。
「私……何がなんだか分からなくて。みんなパニックになってて……桃香ちゃんたちとも離れ離れになっちゃって……!」
「落ち着け、詩織。恐怖に呑まれたら、それだけで宮世の思うツボだ」
錬児は詩織の肩を強く掴み、その真っ直ぐな瞳を覗き込んだ。
「聞いてくれ。あと三十分もすれば『1時間の殺害禁止』の猶予が終わる。そうすれば、あの廃倉庫の前にいた連中は一斉に狂気へと変貌する。スプーンを持った九条のグループも、あくどい噂のあった女子たちのグループも、生き残るために容赦なく他人の命を奪いにくるはずだ」
詩織は息をのんだ。その華奢な体が、微かに震えている。
「でも……私たち、同じ学校の同級生なんだよ!? なんで殺し合わなきゃいけないの……!?」
「理由は関係ない。重要なのは、俺たちが『生き残る』ということだ」
錬児はポケットからスマートフォンを取り出し、画面に表示された島全体の地図を詩織に見せた。
「一日目の条件は、七つあるチェックポイントのうちどこか一箇所に十秒間留まること。まずは一番近いポイントをクリアし、安全な潜伏場所を確保しよう」
詩織は、小さくうなずいた。遠くの家に峰岸 みなみの姿がみえた
二人は視線を交わし、深い密林の奥へと足を踏み入れた。
残酷な殺戮のカウントダウンは、残り三十分を切っていた――。
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