表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

今日も世界はぬるいまま

作者: TOMMY
掲載日:2025/11/19

何の変哲もない某日。空は快晴と言うにはまだらに雲がある。けれど今日が曇りと言うには量が足りない。日差しは温かいが、風は肌寒い。暑いか寒いかと問われれば、ぬるい。


世界はいつも、薄めすぎたスープみたいに味がしない。だから私は、せめて数だけは濃くしたかった。

カチリ。

人を“測る”音が胸の中のざわつきを押し戻してくれる。


駅前の人通りは、時間帯によって大きな波がある。

鬼の形相で駆ける人を──カチリ。

肩を落として歩く人を──カチリ。

笑いながら横切る集団を──カチカチ、カチリ。

数字が積み重なっていくと、胸の奥の冷たいところが少しだけ静まる。

退屈は変わらないが、測っているうちは私はまだ無害でいられる。


そこへ、ボストンバッグを抱えた黒ずくめの男が現れた。

爆弾か、大金か──そんな妄想が一瞬、脳裏で弾ける。

私はその人物をカチり、視界の端で追った。

人混みの中で、彼だけが妙にゆっくり歩いている。


そして男は、ボストンバッグを車両の網棚に置くだけ置いて、

ふっと息を抜くみたいに駅から立ち去った。

その瞬間、こちらを見たような気がした。

私の指が、一瞬だけ押し損ねた。

胸の中に沈殿していた期待の粒が、ふわりと浮いては消えた。


知らせるべきかどうか、一拍だけ考える。

私は息を戻し、駅員にだけ淡々と連絡した。

その後どうなったかは分からない。ホームは静かだ。誰も騒がない。

古びた時計は、世界に興味がない顔で針を進める。


──いつまで経ってもダイヤは乱れない。

そうだった。鉄道会社は秩序を守る宗教みたいなものだ。

誰もいないのにカチ、カチ、カチ。

つまらないにもほどがある。

世界は今日も、ぬるいまま。


今のタイミングなら、絶対、上手くいくのに。

みんな、どうしてそんなにおとなしいのだろう。私のロジックならカチリと必ず決まるはずだ。

さて。次は、誰に、何を置いていってもらおうか。


私は知っている。

日常の隙間には、いつだって不穏が潜んでいることを。


──そして、待合室のバッグが、ほんのわずかに揺れた。

カチリ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ