消失、そして始まりへ
ずいぶん久しぶりの更新になってしまいました。すみません。
今後も更新が遅れていくかもしれないです。
「これで何匹目だろう?」
「僕もそれ思ってた」
僕らはフィールドを歩きながらそんな会話をしていた。
どうやらこの世界は元来のヴァーチャルと変わりない世界だが、僕ら以外にプレイヤーはいなかった。地形や気候、街や洞窟までもが同じだ。このことからわかるのはおそらくヴァーチャル内のパラレルワールド的な世界になるのだと思う。同じ世界観を設定しているが、ダイブする先は隣の部屋、みたいな。
「まさかプレイヤーがいないと野生のモンスターたちが対戦相手になるとはね」
「しかも調教されているのかレベルも知能もヴァーチャルより格段に高いしねー」
他にもわかったことがある。
基本対戦エリアが決まっていて、中心にコロシアムがある。勝つと次のエリアに進むことができる。
対戦に勝つとダメージと消費したMPは全回復する。
経験値は入らない。
お金ももらえない。
純粋に対戦ゲームみたいだ。
「だからか、出てくるモンスターたちも、どちらかと言うとCPUだよね」
「またはAI機能」
それもかなりの高性能。僕らじゃなくて、さっちゃんがいたら確実に落とされてたと思う。
僕らも特別強い訳じゃない。ただ、『双子』の特性、いわゆるスキルが強すぎるだけ。その強すぎる特性、『共感』ははっきり言って卑怯なレベルだ。
各属性には必ず何らかのスキルが付いている。これを「潜在的特性」と言う。この言葉からわかるかもしれないが、後天的にスキルを足すことも出来る。ただそれには莫大な資金が必要になる。
この「潜在的特性」は僕ら『双子』だと『共感』。例えば『魔法使い』だと『魔力増大』。『シーフ』だと『速力増大』。こんな感じ。
で、僕ら『双子』の『共感』は以下のような付属効果がある。
二人が同じエリアにいると、パラメーターが二倍になる。
意思の疎通ができる。
一人の攻撃があたると、もう一人の攻撃も自動的にあたる。防御も一緒である。
もはやチートみたいな特性だ。
「今じゃー負け知らずな二人なのでした」
「ぶっちゃけ負けるわけ無い能力だからねー」
「ああ、でも規格外な相手だったら普通にまけるけど」
「例えば、犀愛ちゃんとか」
「例えば、ヴァーチャル大会世界大会優勝者とかー?」
「学校の人たちなら誰にも負けないけど」
「一対一だったら無理かなー」 歩きながら二人ではしゃぐ。ぶっちゃけ、テンションがあがっている僕たちでした。
「…ん?」
「…お次の相手かなー?」
少し先に何かがいる。おそらく次の対戦相手だろう。
「じゃあ次も軽く」
「勝ち抜きますかー」
僕らは順調だった。
◆ ◆
ダイブしてから三時間が過ぎた。実はヴァーチャルとリアルには時間の齟齬がある。ヴァーチャルの一時間は、リアルでは十分だ。六時間で一時間。つまり、六分の一の感覚で経過する。だから心置きなく遊ぶことが出来る。
「さっきので九人目だね」
「次が十人目ー」
さすがに九人目(正確には九匹目かな)となると、相当強かった。というかレベルが高い。例えるなら、スライムがボスを倒すレベルだ。だから見知った奴でも、行動パターンが読みづらくなっている。今は戦い終わって全快だが、さっきまでは口も聞けないくらいダメージを負っていた。
「おそらくトーナメント方式で進んでいるから、次あたりでキリがいいよね」
「てゆーか、ここまで強くなるとは思ってもなかったよー」
次のエリアに入る。するとコロシアムにでかい影が見える。
「げ……、ドラゴン系かぁ」
「しかも大型タイプ。無理だよー」
遠目からでもわかる。あのシルエットはドラゴン系だ。しかもあれはおそらくダイアモンド・ペンドラゴンだろう。
ペンドラゴンというネーミングからわかるとおり、かのアーサー王をモチーフにしたドラゴンだ。ドラゴンの時はまだ可愛い。ある程度ダメージを与えるとその姿をドラゴンから騎士に変える。防御力と攻撃力は下がるものの、そのほかのパラメーターが格段に上がる。
「手には聖剣、体は聖剣の鞘による自動回復。極めつけに最終奥義はあのエクスカリバーでの斬撃の一掃だし」
「回避不可でやたらダメージたかいから止めて欲しいよねー」
しかしこのゲームは後戻りがきかない。普通のヴァーチャルなら倒せるが、レベルが高くなっているここのダイアモンド・ペンドラゴンが倒せるだろうか。
それでも僕らは歩みを止めなかった。お互いの考えはわかってる。
僕と瑞樹は二人で一人。一人にして二人。意見が違うことはない。
「覚悟はいい?」
「当たり前ぇ!」
◆ ◆
瑞華と瑞樹の家の前に真っ赤なコブラが止まる。
ドアの鍵は開いている。
犀愛は、焦燥感に駆られながら家の中に入る。
「いや――――!!!」
二階から叫び声が響く。瑞華と瑞樹の声ではない。この声は笹ノ木の声だ。そう思いながら階段を駆け上がる。
「………嘘、でしょ?」
ヴァーチャル部屋の扉を乱暴に開け、中に入りその景色に犀愛は自分の目を疑った。
部屋は、血に染まっていた。佐々実はあまりのショックに気を失い、瑞華は茫然自失。そして瑞樹は……、もう瑞樹ではなかった。
「………おい。どうなってるんだ?」 瑞樹の変わり果てた姿を見て犀愛はそうつぶやく。それから「どうなってるんだよ!!?」と叫んだ。
その叫び声に瑞華の体がビクンと震える。そして犀愛の方へ振り向く。その目は、焦点が定まっておらず、光を失っていた。
「さい…あい、ちゃん?」
最早普段の明るさもなく、声に生気が宿っていない。
犀愛はその虚ろな目をした瑞華を見て、何も言えなくなってしまった。
「…犀愛ちゃん。瑞樹、が…。僕の、ぼくの、せいで………!」
そこまで言うと、ふっと瑞華の意識が途切れ、床に倒れる。
「瑞華!」
犀愛は瑞華に近づきその体を起こすが、瑞華は目を開いたまま意識が断絶していた。強いショック状態にあるようだ。その体は、ビクンっと痙攣する。
「瑞華、瑞樹。何でこんな事に………!」
犀愛は瑞樹だったものの姿を見る。その体はひどい有り様だった。犀愛はたまらず目をそらす。
「…救急車。ひとまず呼ばなきゃ」
なんとか平静をたもち、思考を巡らせる。
しかし携帯電話を手に取ったところで、犀愛は信じられないものを見る。
瑞樹の体を包むようにぼうっと淡い光がたちおこる。
「…え?」
何が起こっているのかわからなかった。
ただ一つ言えるのは、瑞樹の体が、徐々に消えていると言うことだった。
足が消え、腕が消え、最後には瑞樹そのものがなくなった。床に流れていた血液すらも綺麗になくなっていた。まるで瑞樹の存在を消滅させるかのように、そこには何もなくなっていた。
「一体、なにが?」 そこではたと気づく。パソコンが光を放ち稼働していることに。
犀愛は立ち上がりパソコンの画面を見るとそこにはこんな文字が浮かんでいた。
『YOU LOSE
これによりあなたの体を回収します』
「体を回収?」
そこで思い至った。瑞樹の体は、ヴァーチャル内に送られたのだと。到底信じられないことだがそうとしか考えられなかった。そしてそんな事をする理由はいたってシンプル。
「存在を忘却させ、すべては無かったことにする…!」
ダンっ!
机を思いっきり叩く。なんてばかげたシステムだ!
犀愛はそう思うしかなかった。
「…ぁ…あぁ……ああ!」
そこで犀愛の耳に何かが入ってくる。振り向くと、瑞華から発せられた声だと気づく。
「…あぁっ!…あっ…ぁ…あっあっ!」
「瑞華?!」
何が起きたのか、瑞華の体がビクンっビクンっ、と跳ねている。痙攣の域を超え、体全体でバウンドしてるかのように飛び跳ねる。
「あっ! あぅ! あっ…!………っ!……っ!…!」
「瑞華! しっかりしろ! くそっ! 今すぐ病院に!」
この日、忘れられない出来事が起きた。
しかしそれは、ただの始まりでしかなかった。
瑞華の数奇な運命は今、回り始めたばかりだった。




