いつもと違う放課後
放課後。
もうすぐ夏だからか、まだまだ日が高い。
「今日どうする?」
「ダイブしとこうかー」
僕と瑞樹は家に向かい歩きながら相談事。別に口にしないでも相談は出来るけど、普段はこうして会話するようにしている。だってそうしなきゃつまらないからね。
「どこでやる?」
「ドトールでもいいけど、今日は家でやろうかー」
「今日は私も一緒にやろうかなっ?」
ちなみにさっちゃんも一緒に下校中。会話をしているのはそういうわけでもある。
「そうだね。さっちゃんもいたほうが楽しめるかな」
「僕ら二人だと淡々としすぎちゃうしねー。さっちゃんがいれば会話も弾むし」
「二人だけでも十分賑やかだよっ?」
女三人寄れば姦しい。昔の人はうまいこと言ったもんだ。
「そこのお嬢さん方」
しばらく三人でくっちゃべって歩いていると、そう声をかけられた。
声がする方に向くとサングラスにスーツで身をくるんだ男が立っていた。みた感じいかにもあやしい。
「なんですかー?」
僕たちは歩くのを止め、その男と向かい合う。僕らが訝しむ目で見ていると、男はあわてたようにサングラスを外し、人なつっこそうに笑う。
「怪しいものじゃあないよ。お嬢さん方の通う学園の理事長の古い友人だ」
胸元から名詞を取り出し僕たちに渡す。
『古槍朔士』その男を指す、名詞に書いてあった名前だ。それ以外にも名刺にあることが書いてある。
「アリオス株式会社。それで犀愛ちゃんの知り合い」
「お兄さんもしかして」
「…?」
僕と瑞樹は顔を見合わしてから古槍さんをみる。さっちゃんは何にも感ずかないらしい。
「「ヴァーチャル開発部?」」
二人で食いつくように古槍さんを見る。
そんな僕らの反応に、苦笑いしながら頬をポリポリとかく。
「まぁ、一応ね」でも、と苦笑いが自嘲気味に変わる。「僕らがやることはほとんどないんだ。彼女がベースを作ってくれたおかげでそれに追加パッチをあてるだけみたいな部署になってしまってるんだ」
アリオスと言うのは、ヴァーチャルの開発を行っている会社だ。
「彼女っていうのは犀愛ちゃんのこと?」
「やっぱり犀愛ちゃんはヴァーチャルの開発に携わっていたのかー!」
「しかもほとんどひとりで開発しちゃったとか!」
「もぅ、なんでこんなすごいことを僕らに隠してたんだよー! でもやっぱり」
「「犀愛ちゃんサイコー!!」」
僕ら二人はテンションが最高潮になっていく。
さっちゃんと古槍さんはそんな僕らを見て苦笑いをするだけしかできなかった。そんな二人にかまわず僕らはヒートアップしていくのだった。
「えっと、それでね」やっと僕らが落ち着いたので、古槍さんは話を始める。「君たちに、彼女に届けてもらいたい物が有るんだ」
そう言うとビジネスバッグから封筒を取り出す。見るとおそらくCDーROMがはいっているようだった。
「これなんだ」
その封筒を僕は受け取った。しかし疑問をそのままに出来るほど僕らはまだ大人ではない。
「なんで自分で届けないんですかー?」
瑞樹が僕から封筒をとりながら言う。
「それに、このCDーROMはなにが入ってるんですかー?」
僕もさっちゃんも瑞樹と同意見だったため、うんうん、と二人して頷く。
それに対し、古槍さんは先ほどから変わらず苦笑いだ。もしかしたらこの人は常時苦笑いなのかもしれない。
「昔、ちょっとしたいざこざがあってね。彼女には少し会いにくいんだ」
僕が悪いんだけどね、と付け加えて言う。
「そしてそれの中身は、秘密だ。いわゆる企業秘密というやつだ」
企業秘密。
そう言った時点でヴァーチャル関係と言っているのも当然だった。
「古槍さんって、嘘がつけないタイプですね」
「…? なぜだい?」
「いえ、こちらの話です。それより古槍さん」僕は瑞樹から封筒を受け取り、本題に入る。「僕らがこれを渡すのにただってわけじゃないですよね? 企業秘密ってことは犀愛ちゃんの手に渡らなきゃいけないわけです。だから僕らは確実にこれを犀愛ちゃんに渡さなきゃいけないわけだ。なら、僕らにもそれ相応の見返りはあるはずですよね?」
その言葉に、古槍さんの顔が変わる。さっきまでの苦笑いは消え、真剣な表情になる。
しばらく僕らの間に沈黙が訪れた。
しかしすぐに古槍さんは表情を変え、豪快に笑い出す。
「はっはっはっ! いや、子供だと思って見くびっていたよ。まさかこんなにしたたかなお嬢さんだとは思わなかった」
さっきまでの気弱なイメージが消え、表情も芯の強い物になっていた。
僕らがその変わりようにキョトンとしていると、古槍さんはニヤっと笑う。
「少し試したかっただけだ。最近の若い者を。気弱なおじさんでいけば引き受けてくれそうだと思ったんでな」
「なんでそんな試すような真似を? 事と場合によっちゃ怒りますよ?」
「許してくれ。降空のお気に入りと聞いていたが、たしかにあいつが気に入りそうな性格だ」
「僕らのことを知っているんですか?」
僕はさッちゃんと瑞樹の顔を見ながらそう言う。
「君たちは有名だからね。気をつけたほうがいい。なんせ『不死鳥』の次にレアな『双子』属性だからね。リアル割れしたらファンが殺到するかもしれないぞ」
リアル割れ。あっちの世界のアバターの中の人、ようはこっちの世界の人間が一致してしまうこと。リアル割れしてしまうといくつか危険なことになってしまう。向こうで恨まれるようなことをした場合はこっちで報復行為されてしまう可能性が出てしまうのだ。でも、めったなことでリアル割れは起きない。学校ではみんな誰がどのアバターかわかっているが、普段使うアバターとは違うアバターを使うため、安心して使用できる。でも、ごくたまにリアル割れが起きるケースもある。例えば犀愛ちゃん。僕らはあの人に初対面のときにすでにリアル割れしていた。そして、古槍さん。この人も僕らのアバターを知っている。おそらくヴァーチャルの管理システムにアクセスできる人なら、もっと言えばヴァーチャルの開発に携わっている人ならその情報を閲覧することが出来るのではないかと僕は思っている。だから、未発見の不死鳥がいると断言できるんだと思う。
「ま、タダで渡してもらおうとは考えてないよ。少し行ったとこに喫茶店がある。そこで、デザートでも奢ってあげるさ」
一番はじめに見せた人懐っこい笑顔をする。
「まぁ、僕はそれで良いよー?」
「僕もかまわない」
僕らは頷きながら了承した。 そこでみんなの視線がさっちゃんに向けられる。僕らのやりとりを黙ってみていたから存在を忘れられそうだよ。
「え? わ、私ですか?」
三人の視線を受け、戸惑う。おそらく自分も入っていいのかわからないのだろう。
「デザートでは満足出来ないかい?」
古槍さんはれいによって苦笑いをする。雰囲気が変わっても苦笑いは変わらないらしい。
そんな彼の言葉と表情をみてさっちゃんは慌てて両手を振って否定する。
「満足できないなんてっ、そんな事無いですよっ。むしろ、私まで奢られちゃっていいのかなって思ったりしてます」
「子供が遠慮なんかするもんじゃない。食べたい物を食べれば良いさ」
そう言うと、彼は歩き出した。僕らもそれについて行く。
今思うと、全ての始まりは古槍さんと、そしてこのCDーROMからだった。




