双子の不思議
「そういえば今日はヴァーチャルの授業がないのか」
僕はそんな事をつぶやいた。
学校に来る楽しみの一つとして、ヴァーチャルの授業は欠かせないものである。僕と瑞樹は他の人より多少出来る方なので、普通の人より楽しめたりする。
得意なことは、何でも楽しいもんだ。
この学校ではコンピュータの授業の一環でヴァーチャルを扱う。
先ほど言ったとおり、くだけた言い方をするならオンラインゲーム。
基本はパソコンを媒体としてあちら側の世界に移動する。このことを僕らは『ダイブする』と言っている。
これは、その表現通りに自らの意識を向こうの世界に潜り込ませる事からきている。
パソコンに繋いだ各々の専用ケーブルをヘッドホン型のヴァーチャリング・コアにつなぐ。これを耳に装着し、アプリケーションを起動させることで、ダイブできる。
これはどのような構造で出来てるかというと、詳しいことはわからない。簡単な説明としては、ダイブした全員が一つの夢を見ているようなものらしい。
ダイブした先には僕らの住む現実とは違う世界が広がっている。パソコン室で例えると、ダイブした先はサーカス小屋のようなテントの中だ。この仕様は学校側が安全のために設置した特別な措置であり、他の場所でダイブしたときは、ランダムに跳ばされる。これは個人でも設定でき、自分のパソコンを持っている人は設定次第では決まった場所に転送出来るようになる。
ヴァーチャルは別の世界と言うだけで、言葉、感情、五感は付属されている。姿は自分でデザインしたアバターを使うことが出来る。勿論初心者のために会社側がつくった仮アバターもある。
そして、そのアバターがなかなか重要なものになってくる。この世界のキモともいえる。
アバターはそのデザインによって属性が決められる。
最初に話した通り大元はオンラインゲームである。なので色々な要素があり、その中にはRPGめいた場所もある。だから敵が存在し、それと戦闘することができたりする。
なのでそっちに行く人は必然的に属性が大事になる。さすがに無数にデザインされるアバターから属性を決められるのかって話だけど、そこはゲーム。だいたいに分配される。
基準は全然わからない。でも一応見た目が重視だと思われる。剣士アバターだと属性は《剣士》だし、魔法使いアバターだと属性は《魔法使い》。
ただ、みんながみんなそんなわかりやすいアバターなわけがない。そのための自主創作アバター。普通のアバターなんていない。
僕たちのアバターの属性は《双子》。全く同じ規格で創ったからそうなったのだと思う。
この属性は少し特殊らしい。スキルは《共感》。双子ならではのスキル。この属性は実は僕たちの他に確認されておらず、ヴァーチャル初のアバターとなった。
「双子アバターなんて本当に出てくるとは思わなかったよ。こりゃ正直驚いた」
最初に会った犀愛ちゃんの言葉。この言葉から彼女がヴァーチャルの開発に関係してるんじゃないかと思っている。
他にも珍しい属性もいっぱいある。その中でも特に珍しいのが《不死鳥》属性。まだ誰も見ていないけど、不死鳥属性があるというのは確認されている。しかし、確認されているからかその属性になりたくて鳥の姿をしたアバターがいっぱい居る。それでも、みんな不死鳥ではなかった。
基本的に人の姿から逸脱したアバターは創れないので、みんな鳥人って感じなのだ。二足歩行の鳥、みたいな感じ。正直言って怖い。
不死鳥は噂ではスキルが《不死》で絶対死なないんじゃないかと言われている。そんな事はあり得ないが、不死鳥なのだからそれもありかもしれない。
「でもやっぱり、あり得ないよなぁ」
「…なにが?」
僕の独り言に隣にいたさっちゃんが反応した。
「ううん。なんでもない」
手を振ってその意を表す。さっちゃんはそう、と言って黒板の方に向き直る。
ちなみに今は授業中だ。
ヴァーチャルの授業が無いのなら学校に来る楽しみは他に変わる。それは昼食だ。
先に断っておくが僕は別に食い意地を張っているわけではない。断じて。
この学校に通うものなら、昼食は楽しみじゃないはずがない。この学校は学食が三つある。見事に和洋中のみっつ。その品ぞろえはまさにレストラン! しかも学食だから安い! さらに味が絶品! だからこの学校の九割の生徒は学食でご飯を食べる。そのせいで、学食はいつも満席だ。急いでいかないと席に座る余裕がなくなってしまう。
まぁ学校に来る楽しみはそれだけでもないけど。
◆ ◆
「瑞華」
昼休み。校舎の廊下を歩いていたら声をかけられた。声の方を見ると犀愛ちゃんがこっちに向かって歩いてくるとこだった。
「珍しいな、お前が一人でいるなんて。ん? なんだ、瑞樹とケンカでもしたのか?」
「僕らだって四六時中一緒ってわけじゃないからね。犀愛ちゃんこそどうしたの?」
「ん? あたしか? まあ仕事に一区切り付いたから昼飯でも食いに行こうと思ってたところだ」
「本音は?」
犀愛ちゃんともなかなか長いつきあいなので、それが建前なのがわかる。
「お前らと飯食おうと思ったんだ。一人の飯は味気ないからな」それより、と付け加えて言う。「生徒の前で犀愛ちゃんはよせ。示しがつかん」
タバコを取り出しながら言う。
…いや、校舎内でタバコをすうなよ。
「了解です、理事長。それで? どこに食べに行きます?」
「どうせ瑞樹が席取ってんだろ? そこでいいよ」
犀愛ちゃんも僕らの事をよくわかってらっしゃる。
「長いつき合いだからな。今年で六年目だろ。毎日のように顔をつきあわせてればこんなもんだろ。んで、どこだ?」
「ちょっとまって。今聞くから」
そう言って僕は瑞樹に場所を聞く。まぁ僕らは意識の共有が出来るから、聞くと言うより思えば良いだけなのだが。
―今どこ?―
―中華だよ―
―今から行く。一人追加で―
―犀愛ちゃんねー。わかった―
「中華だって。じゃ、行こうか」
「おう」
「しかしいつ見てもあれだよな。お前等のそれは不思議だよな。どうなってんだ?」
ラーメンをすすりながら犀愛ちゃんはそんな事を聞いてくる。
彼女が食べてるメニューはラーメン半チャーハンセット。中華一番の人気食。安くてたくさん食べたければこれが一番だろう。
犀愛ちゃんはそれにプラス餃子を頼んでいる。この人、スラっとした体躯のくせに大食いなんだよな。
「どうなってる? って聞かれても」
「僕らは物心ついたときからこうだったからなー」
僕と瑞華は顔を合わせて首を傾げる。
ちなみに僕らが食べているのは麻婆豆腐丼。本格派なものでけっこう辛い。ご飯いっぱいで麻婆少なめがフツー。
「あたしにわかるように説明して見ろよ」
「じゃあたとえば、犀愛ちゃんが『今日は雨か』と思ったとする」
「そうすると、『めんどくさいな』と言う返事が返ってくる。もちろん心の中で』
「でもそれは自問自答ではなく確かに違う人からの言葉なんだよ」
「簡単に言えば、一つの体に二人いる感覚。二重人格といったら分かりやすいかな」
「二重人格に体が二つあるみたいなものだね。いや、ニュアンスが違うかな。二重人格なのにどちらも所有する肉体を持っているって事かな」
「いってしまえば僕らは表裏なんだよ」
「僕は瑞華の裏の人格で」
「僕は瑞樹の裏の人格なんだ」
僕らは交互にそんな説明をした。分かりやすい説明をしたつもりだけど、実際これは僕ら当事者にしかわからない感覚だろう。
「なるほどね。確かにわかりやすい説明だ。だけどそれって不便じゃあないか? 互いの考えてることがまるわかりなんだろ」
「そうでもないよ。さっき言った通り物心つく頃にはこうだったからね」
「それに、僕らの考えはほぼ一緒だから。互いの考えが透き通っていても大して意味もない」
「ふーん。そんなものか」
頷きながらラーメンのスープを飲み干し、犀愛ちゃんはこう言った。
「もしどちらかが欠けたらお前らはどうなるんだろうな」
その言葉の意図がわかりかね、僕らは首を傾げる。
犀愛ちゃんはかまわず続ける。
「お前らは互いに依存していると言って良いレベルだ。だからどちらかが死ぬ、もしくはそれに準ずる事が起きたとき、おそらくもう一人もただじゃすまないだろう」
そう言ってチャーハンの残りを平らげる。
僕らは犀愛ちゃんの言葉を深い意味ではつかめなかった。だから二人一緒に、同じ事を言った。
「「そうなったら、そのとき考えるよ」」




