学校へ行こう
「「行ってきまーす」」
2人でハモリながら挨拶をして家から出て行く。
僕らが住む三橋町は人口一万くらいのごく普通の街だ。
名前の通り街には三つのシンボルともいえる橋があり、その下には河がある。頼琉河という、なかなかでかいものだ。おそらく東京にある荒川とためをはるくらいにはでかいだろう。
そんな河が街のど真ん中を通っているのがここ三橋町だ。
僕らが通う高校はうちから河を渡ってすぐのところにある。
三橋学院。
小中高一貫校である私立校だ。この街には高校は三つあり、その中でも群を抜いてレベルの高い高校だ。「でも僕たちは小学校からの持ち上がり組だから、残念な知能だよねー」
瑞樹が前を歩きながら言う。彼女が言うように僕らは小学校からエスカレーターで、少し勉強するだけでよかったからぶっちゃけ頭の出来は編入組に較べるとどうしても劣る。
「でも、だからこそ得意なこともあるなー」
「え? 瑞華ってなんか得意なことあるー?」
何か言ってるが、ここは無視。
今世間では仮想世界と呼ばれる物がはやっている。俗称はヴァーチャルかな。これが何か簡単に言ってしまうとオンラインネットゲームのことだ。普通のそれと違うのは、自分の意識ごとそっちの世界にいけることかな。細かい説明はまた後でにしよう。
三橋学院はそれを授業の一環に組み込んでいる数少ない学校で、小等部からそれをやっている僕らは、自然と他の人たちより断然使いこなせるようになった。
「でも瑞華、僕より使いこなしてないじゃーん」
「さっきっから人のモノローグに突っ込んでこないでよー! それに瑞樹だって僕より多少使えるくらいなんだからー」
「というかそれが瑞華の得意な事ー?」前を歩いている瑞樹が振り返る。その顔はちょっと小悪魔的に笑っている。「違うでしょー? それは瑞華一人じゃなく、僕と二人だからこその特技なんでしょー?」
「うっ…」
図星だった。
双子というのは不思議なもので、どことなく感覚が共有されたりする。
瑞樹がケガをすれば、僕もその箇所がなぜか痛んだり。
好きになる人がいっしょだったり。
返答をするとき声がハモったり。
このくらいならどこの双子でも経験があるはずだ。科学的に解明されているわけではないと思うけど、一般的な認識でもこんなモンだと思う。
でも僕ら双子は、ちょっと普通じゃない。僕が思ったことが瑞樹に、瑞樹が思ったことは僕に伝わる。意志の疎通みたいな曖昧なものではなく、思考を共有しているのだ。
だからさっきから口に出してしゃべっている訳ではないのに瑞樹が突っ込んでくるという事が起きる。
少し不便だったりする。
でも、この特性(僕らはこう思ってる)はヴァーチャルではかなり有効に使える。
まぁそれはやってみればわかることだ。このこともおいおい説明しよう。
「しかしこの話の主人公兼語り部が瑞華っていうのは、なんか納得できないなー」
「…? なんの話をしてるのさ?」
「なんでもないよー。ただの独り言ー」
……?
瑞樹の言葉が理解できず、首をひねる。と、そのとき
「おーい! 二人とも、まってー」
そんな声が後ろから聞こえてきた。振り返らなくてもこの声は誰だかわかる。
「「おそよー、サッチャン」」 二人一緒に振り返り声の主に挨拶をする。
サッチャンと呼ばれた女の子は駆けてきたのか、肩で息をしている。
「お、遅くなんかないもん。二人が早すぎるんだよっ」
笹ノ木佐々実。僕らのうちのお隣さんの一人娘。僕らと同い年でいわゆる幼なじみ。誕生日が僕ら双子と一緒。僕らが生まれる前からお父さんたちはお隣さんと仲が良かったらしく、そのせいか僕らは三つ子みたいに育ったらしい。
髪はショートカットで可愛い髪留めを二つつけている。目はタレてて、口と鼻は小さく、少女マンガに出てきそう。
そして笹ノ木佐々実を語る上で欠かせないのが、その身長である。小さい。とにかく小さい。143cmという恐るべき小ささだ。しかも顔がかなりの童顔なので、制服を着ていなければ小学生と間違われるほどだ。
そのくせ、胸がでかい。バストサイズ86の強者。好きな人にはたまらないロリ巨乳というやつだ。
「しかもまだ成長過程だということが恐ろしい」
「まったくだよー」
僕ら二人の言葉にさっちゃんは「…?」という顔をする。この子は自分の胸がいかに凶悪なものかわかってないよなぁ。
「それにしても、今日はさっちゃんにしては早いじゃん。どうしたの?」
「まさか、天変地異の前触れ…?」
「いやいや。ノストラダムスの大予言的中の日かもよ?」
「さすがさっちゃん。とうの昔に終わってしまった大予言を再び呼び起こすとは…」
二人して勝手なことを言う。そんな事をいわれるくらい彼女は朝弱いのだ。
「わ、私だってたまには早起きするもんっ! それに今日は日直だしっ」
少し膨れた感じでいう。この子はひとつひとつの動作が幼い感じで何とも愛らしい。
「でも、日直が僕らより遅い登校ってどうなのさー?」
瑞樹がニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべながらさっちゃんの顔を見る。
こいつは僕より少し意地悪な性格をしている。というかSっ気が強い。逆に僕は少しMっ気が強かったりする。
余談ではあるけど。
「うぅ(泣)ミキちゃんの意地悪。これでも頑張ったんだよっ?」
彼女は僕らのことをミカちゃん、ミキちゃんと呼ぶ。どうしてそんな呼び方になったかは判らない。
「ちなみに、今日は目覚まし何個かけたの?」
僕は歩きはじめながらさっちゃんにそう聞く。
彼女の朝の弱さは折り紙付きだ。だから何個目覚ましをセットしたかで彼女の頑張りが見えるのだ。
「えっと、今日は七個かなっ」
………起きる気有るのかな? と思った。
普通の人なら多すぎるくらいだが彼女の場合、それでも足らない。なんせ十個かけても起きれないからなぁ。
「でもでもっ、今日はそれで起きられたんだよっ?」
「どうせ起こしてもらった、の間違いじゃないの?」
彼女の母親も大変だろう。目覚まし時計がやかましく響く部屋の中に入っていって、その中でも安らかな寝顔を浮かべて寝ている娘を起こさなきゃいけないんだから。
「違うもんっ。今日は自分で起きたんだよっ」
なんと! 珍しいこともあるんだな。
「というか、急がなくていいの? さっちゃん日直でしょー」
瑞樹がそんな事を言い出す。時間を確認すると、7時45分だった。
「まだ大丈夫じゃない?」
「うんっ。大丈夫だと思うよっ?」
「そうー? じゃあ久々に三人で登校しよっか」
久々に、というのは言うまでもなくさっちゃんが朝起きられないので、いつもは置いて行っちゃうのだ。
何はともあれ学校に行こう。




