鉄火面
最初に案内(誘拐?)された部屋に戻るとやはりと言うかなんというかアバターの姿からリアルの姿へと戻った。部屋を見渡すと先程と何ら変わってないように見えたが、よくよく見ると一部変化しているところがあった。プロジェクターだった機械がなにか別のものへとなっていた。
なんだこれ?
何となくさわったり叩いたりしてみても特になにも起きない。
んー、直接クロに聞いた方が早いのかなー。でも、もしこれから必要なことなら説明があるはずだし。
「ま、とりあえずほっときますかー」
なんて呟いてとりあえず布団にねっころがる。
みんな今ごろなにやってるのかなー。
「じゃ、帰るとしますかー」
クロの説明が終わってすぐに僕は立ち上がって伸びをした。
帰ろうと思い、あらかじめ説明されていた部屋へと続く見えない扉の方へ歩きだそうとしたら広間にいるアバターたちに囲まれた。
………え? 僕、何かしたっけ?
とか思ってみて、考えてみれば当然っちゃあ当然だと気づいた。
そりゃあそうだよね。だってリリィの威圧に抗った五人のうちの一人だし。
僕自身の力じゃないと言ってもそんなことはここにいる人たちにはわからないわけだし。
「あんた、いったい何者だ?」
アバターの一人がそう言ったが無視してクルリと周りを見渡してみると僕以外の四人も同様にアバターによって囲まれていた。
つまりはそういうことな訳ね。
「あんたらはちっとばっかし拘束させてもらおう。って言っても別に縛ったりしやしねえから安心しな」
筋肉質な体格の男がそう言う。
こういう人に限ってリアルではほっそい人だったりするんだよねー。とかそんなどうでもいいことを考える。そんな僕の態度が気にくわなかったのか、モヒカンのお兄さんが怒鳴り声をあげる。
「てめえ! なめてるのか!」
「え? 別にそんなつもりじゃないけど?」
なめるもなにも、興味ないし。僕一人を捕まえるためにこんな大人数で囲んだ時点で怖くなくなったし。
「あのさー、僕もう帰りたいんだよねー。道開けてくれないかな?」
「こっちの質問に答えたらいいですよ」
スーツに身をくるんだ紳士然とした人。むしろ執事かな? ゲームのやりすぎだよー。
質問って言っても何が聞きたいのさ。
「一番最初の質問を答えてもらおう。あなたは何者ですか?」
「………それ言ったらさぁ、このゲームの意味ないじゃん」
「では、質問を変えましょう。なぜあなたは彼女の前に立っていられたのでしょうか?」
クロを指差す。今は子供の姿に戻ってさらしだす威圧も押さえているため誰も跪いてはいない。
「それは内緒」
「ふむ。あくまで話す気はないと」
そりゃそうでしょう。元々このゲームの肝は情報を集めること。どれだけ強い人でも相手のことを何一つ知らない状態では、戦いにくい。だから自らその情報を開示するバカはいない。と、いうか僕自信もそんなにこの姿の力を知らないし。
「たぶん他の人も話さないと思うけどね。あ、協力的な人も中にはいるかもしれないか。でも残念。僕は誰とも組む気はないよ。だって、このゲームは僕が勝つんだから」
耳をピコピコしながらにっこりと笑う。
言い忘れてたけど僕の姿はその名前の通りブラックサレナ《黒百合》を模して作られたアバターみたいだ。そのせいか彼女、クローバー・ソウ・ブラックリリィの格好と似ている。細部は違うけど雰囲気はばっちりだ。勘が鋭い人は気づくかもしれない。まあでも、似ているのは雰囲気と服だけで背格好も顔も違うからすぐには気づかないと思うけど。
「と、言うわけで帰りたいから通してもらえるかなー?」
しかしアバターたちは動く気配はない。あくまでも僕を逃がすつもりはないらしい。
はあ。もうため息しかでないよ。面倒さいなー。クロが何とかしてくれればいいけど、それをしたらそれこそ僕とクロの関係に気づかれちゃうし。
ちょっと無理矢理にでも退いてもらおうかなー。
「おい、あんたら! そろそろいいだろ!」
周りに気づかれないようにこっそり魔力を手に溜めていたら、後ろから声が聞こえる。
うん。この声はあの鉄火面だ。
「恥ずかしくねえのか。こんな子猫ちゃんによってたかって」
アバターの間をぬって、というか鎧で弾きながら無理矢理僕のところまで来る。すると僕をいきなり抱き上げその肩に乗せる。
びっくりしたー。何するのかと思ったよ。
「おい、なにするんだよ」
「おいおい。それはこっちのセリフだぜ。帰りたがってるやつを無理矢理引き留めとく必要はねえだろ。それともなんだ? あんたらはこんなちっちゃなアバターの力を借りなきゃ勝てないと思ってるのか? はっはっは。笑えるぜ。可笑しすぎて腹が痛くなる」
鉄火面で顔が見えないけど、さぞみんなを見下した顔をしてるんだろうな。
「自分に自信があるやつはとっとと散れ。仲間を誘うやつはこいつ以外にすりゃあいい。別に誰と組もうが、最終的には情報戦だぜ。一人に固執する前に、この戦いを生き抜くことを考えた方がいいんじゃねえか?」
うーん。言ってることはわかるけど戦い抜きたいから僕の力を借りたいんじゃないかな。まあ、僕自信が強いかどうかはおいといて。
でも、みんな思うところがあるのか次第に僕と鉄火面から離れていった。
「………えーと、ありがとうゴザイマシタ?」
「ふん。別に礼を言われることはしてねえよ。ただ、あいつらが見苦しかっただけだ」
ツンデレ! ここにツンデレがいますよー!
「それに、あの嬢ちゃんの前で立っていられたからって強いとは限らねえしな。覚えのないいわれはめんどくさいだけだろう」
「そーなんだよねー。僕も自分がそこまで強いとは思わないんだよー」
「まあ、自分じゃ気づいてない何かがあんたにはあるのかもしれないけどな」
「うーん。自覚のない何かかー。それがこの戦い(殺し合いかな?)を勝ち抜く鍵になるのかなー」
「かもしれねえな」
歩きながら(僕は鉄火面の肩の上にいるんだけど)そんな会話をする。やっぱり結構なお人好しさんでした。余計なことだと、後々戦う相手だとわかっているのにここまでする必要なんてないのに。
「ほら、着いたぜ」
「あ、ありがと」
気づくと扉の前にいた。僕は鉄火面の肩から下ろしてもらい、鉄火面の方を向いて礼を言う。
「次会うときは敵だな」
「そうだねー。でも、会えない可能性のが高いよ?」
「まあそうだな。それでもこう言っとくぜ。またな」
「うん。また」
次に会うときは敵として。
結局あのあとチームができたりしたのか僕にはわからない。でも、わかったことは口をきいたアバターの情報なら記録されるみたいだ。今日は鉄火面と執事とモヒカンと筋肉の情報がインプットされている。とはいっても姿だけで名前もパラメーターもわからないんだけど。
それにしてもあの鉄火面。あのあとうまくやれたのかなー。ま、僕には関係のないことだけど。僕は布団にくるまって目を閉じる。
「ねえ瑞樹。僕はこのまま進んでも良いのかな?」
今はいない僕の大切な片割れを思いながらそう言った。もう一人の僕とも言える大切な存在を取り戻すために悪魔と契約をしてしまった。もしかしたらもう、引き返せないところまで来てしまっているかもしれない。けれど後悔はしない。例え何を失ってでも取り返してみせる。そう心に誓ったんだ。存在ごと消された愛しい僕の妹を取り返すためなら、僕は鬼にでも悪魔にでもなる。
布団のなかでそんなことを思っていたらいつのまにか寝入ってしまっていた。
さてさて、今回は話が進みませんでしたね。
鉄火面。おとこですねぇ。あんな男になってみたいとか思ったりしました。
彼(今のとこ性別はわかってないが)は今後の展開になにか関わってくるのでしょうかー?
次回は久々登場、犀愛ちゃんの登場予定ですよー。




