魔境へと踏み出す
更新が大変遅くなってしまったことをまず謝りたいと思います。
ゴメンナサイ
しばらく私事でバタバタしていたので書くに書けない状況でした。
はい。いいわけです。
今後も更新が月一ペースになってしまうかもなので温かい目で見守ってもらえると助かります。
「危険な真似はさせないなんてよくそんなことが言えたねー」
瑞華はリリィに向かってそう言う。瑞華の方に振り向いたリリィは楽しそうに微笑むと自分の席へと戻る。
今彼女たちがいるのは現実世界ではない。かといって仮想世界でもない。彼女たちがいるのは、黒百合の部屋。いわゆるリリィの個人的な、私的に作られた空間内にある世界だ。ヴァーチャルと言えばヴァーチャルではあるが、決して他の人間には入ってこれない空間なのだ。その部屋はごく普通の部屋だった。ベッドがあり本棚やクローゼット、床には絨毯が敷いてありパステルを基調とした色合いでまとめられた十畳程度の部屋。元々は黒一色の部屋だったが「何これ! 真っ黒じゃん! こんな部屋女の子の部屋じゃないよー!」と叫んだ瑞華の手によって、瑞華の趣味に塗り替えられてしまったのだ。なのでリリィとしては少々落ち着かない雰囲気の部屋になってしまった。
「それでは早速始めます。瑞華さんもそろそろ自分のポイントに移動してください」
リリィが腕を振ると机の上ににパソコンが現れた。それのスイッチを入れると部屋のどこにもなかった扉が突如として現れた。
「それをくぐれば瑞華さんの指定の部屋に繋がっているので。くれぐれも私との関係を悟られないようにしてくださいね」
「だーいじょうぶだって。そんなに心配しなくてもクロとの関係なんて話をしている現場さえ見られなきゃバレないってー」
あははー、と笑いながら扉をくぐっていく。その後ろ姿を見送ったリリィはパソコンのスイッチを切り替える。扉が消え、変わりに部屋の壁一面にモニターが現れた。
「さて、今回はどのような結末になるのでしょうか。イレギュラーがあるとその楽しみもなかなか増えるわ」
モニターに映る老若男女それぞれの人間を見る。リリィにはその中に普通の人間ではない者も何人か混じっているのがわかる。
「では、楽しいゲームの始まりね」
そう言うリリィの口はいびつに歪んでいた。
◆ ◆
壁をさわってみると水面に触れたような波紋がたつ。扉は見当たらない。あるのはベッドと机の上に置かれたプロジェクターのような機材。これらのことから察するに、
「どうやらヴァーチャルというのは確かだな」
師子堂明楽という名の男がそう呟く。彼もまた、リリィによって昏睡させられた者の一人だった。
彼はこのような状態になったことに対して特に動揺はなかった。逆に、面白くなってきたと思っているくらいだ。
「しかし、この部屋はなんだ? なぜ俺はここにいるんだ? 他に人はいるのか?」
ここにいることに対し疑問ばかりがつのる。なぜここに連れてこられたのか。自分だけじゃなく他にも人がいるのか。そもそもこの部屋は自分一人にあてがわれたものなのか。
わかっていることは一つ。フェニックスと名乗った少女がここに誘ったということ。そして彼女が主犯であること。
わかっていることが少なすぎる。
「あとは、この機械が起動すると何かしら起きるんだろうな。そうでなきゃこの機械の意味がねぇし」
明楽は特にやることもないのでプロジェクターのようなものをいじる。見たところスイッチはなく、現実世界にあるような型ではない。しかし形だけはどう見てもプロジェクターである。それでも普通のプロジェクターと違うのはまず投射先であるスクリーンがないこと。これでは映像が写し出すことができない。さらにスクリーンへ映像を投射するためのレンズが上を向いているということ。レンズが上を向いているのなら天井にスクリーンがあるのかと思ったがそんなことはなかった。
「ってことは、スクリーンに投射するんじゃなく、そのまま空気中に投射するのか?」
明楽は独り言を呟いたつもりだった。しかし、
「ええ、そんな感じよ」
と、返事が返ってきた。
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
思いもしなかった出来事に明楽はそうとう驚いたらしくプロジェクターから勢いよく離れ壁まで後ずさる。まさか、プロジェクターから返事が返ってくるなんて夢にも思っていなかっただろう。
「………せっかく疑問に答えてあげたのに、そんなに驚くことないじゃない」
何かの冗談かと思った。ゴツい機械から可愛らしい女の子の声が聞こえてくる。しかし、落ち着いてその声を聞いてみると最近聞いた声だった。
「…もしかして、フェニックスか?」
「その呼び方はあまり好きではないの。名前で呼んでくれないかしら?」
「いや、名前聞いてないし」
たしかあの城であったとき、自分を指してフェニックスとしか言っていなかった。
「あら。そうでしたか。…まぁいいでしょう。今から名乗るのでその名前を覚えておきなさい。ああ、言っておきますがこれから話す内容はあなただけに向けていっているのではないので返事は結構です」
声はそういうとなにかをならす音が聞こえてくる。パチン、と。
するとそれを合図にか機械が動き出す。モーターが回り出したのか低い音を立てながら徐々に回転が速くなっていくのがわかる。
その機械はやはり投射機であった。明楽の予想通りに空中に光が投射され、そこになにかが映り始める。そこに映ったのは、豪奢な椅子に腰を掛けてこちらを見据える女の子であった。スクリーンに映し出されるよりも遥かにしっかりとした輪郭で映し出されたそれは、まるで目の前にその子がいるのかと錯覚するほどだった。
それほどこの機械の射影精度は高かった。現実世界より遥かに高い技術のものであることが容易にうかがえる。
何かの準備が終わったのか、少女の口が開く。
「おはようございます。初めまして、ではありませんがそういっておきましょう。初めまして。今回この空間へとあなた方を招待したクローバー・ソウ・ブラックリリィというものです。お気軽にリリィと呼んでもらって結構です。さて、早速ですがこの空間へと招待した理由と、やってもらいたいこと。現実世界へと帰る方法やミッションなどの説明をしましょうか」
明楽は理解する。ここにいる人間は自分一人ではないと。その人数はわからないがあなた方、と言っていたからまず間違いないだろう。
「なお、質問は受け付けておりませんので。あなた方は今の状況を受け入れ、やりたいことをやるだけです。ではまずこの空間へと招待した理由ですね。まあ、至極簡単な理由です。私の暇潰しです」
「な、なんだと!?」
その言葉に反応したのは明楽だけではないだろう。傍若無人にもほどがある。そんな理由のためにこんなわけのわからない場所までつれてこられたというのだろうか。
「ふふっ、反応した方々は結構多いですね。なに、ただの冗談です。そんな理由で何十万人という人数を拉致るほど私は暇ではありません」
情報がまた開示された。ここに来ている人数はそれほどの人数なのか。いったい何をたくらんでいるのか心中穏やかではない。
「んん、このままでもよかったですが少々面倒ですね。とりあえず現状の把握をしてもらいここにとどまるかリアルへ帰るか選択してしまいましょうか。それで、残った人たちは私のもとに来てもらいましょう。これだけ人数がいるのでは私も全員の反応を見てられません」
そういうと投射されている映像が消える。するとプロジェクターからなにか文字が浮かんでくる。
それは今現在明楽たちの置かれている状況だった。
その内容はこんなものだった。
今ここにいるのはヴァーチャルプレイヤーの人間のみ。
その人数は20万人ちょっと。
リアルの自分達は昏睡状態にあるということ。
ここに来て、やるべきことはリリィの指示する内容。
リアルへと戻りたいものは戻るためのミッションが用意してある。
逆にリリィの出す指示にしたがっていけば、自分のほしいものが手にはいる。
ミッションの失敗によるペナルティはその時々により変更。
成功するとポイントが加算され次のミッションへといくことができる。
大体そのような内容だった。
「なお、今回の催しには人数制限をつけます。私が勝手に呼んだわけですが、さすがに人数が多すぎるので。まずはこの『ゲーム』をやりたい方、そうでない方の希望をとりましょうか」
機材から可愛い声だけが流れてくる。
あの可愛らしい、いや、絶世の美少女と言っても良い女の子の虜になった人間はどの位いるだろう?
「なお、私の独断で参加が決定している者もいるので、その方たちにはこちらから連絡しますので。では、参加するのかしないのか希望を募ります。規定の人数以上の参加希望があった場合、ふるいをかけるのであしからず。逆に人数が少ない場合、私の身勝手で退去者から引き抜きます。まぁ、そのような事はないと思いますが」
念のためですが、と含み笑いとともに付け足す。
「それでは、今から各部屋に扉を作ります。私の元へと続く扉です。参加する者はそれを通り、不参加の者はその場に留まって下さい」
リリィがそう言うと部屋に扉が出来る。
これをくぐらなきゃまだ引き返せる。くぐればもう元の世界には帰れない。
本能に近い何かがそう警告する。それでも。
「俺の答えはもう決まっている」
明楽は迷うことなく扉をくぐり抜けた。その先にあるのは絶望だけとは知らずに。




