不死と愛
主人公が目立たない!
なのでこれからは主人公という概念が無くなるかも……(汗
瑞華の前に突然現れた少女、クローバー・ソウ・ブラックリリィは、『あなたを許しません』という言葉を残し、その姿を消した。
普段の瑞華ならなにかしらの反応を見せたかもしれないが、今の彼女にそんな感情はなかった。
現に、私が現れるまでその態勢は全く変わっていなかった。
「………今度は誰?」
今度は、という言葉に疑問を抱きつつも私は瑞華のそばに歩みよった。
私のことを見る瑞華の目は、病室で見た時よりも濁っていた。私の方を見ているが、私をみていない。そんな事を思ってしまう。
「なんだ、ミストリアス《犀愛ちゃん》か。…何? 僕に何か用?」
私のこちらでの名前をいいつつも、やはりその目は私を捉えてはいなかった。
「なにって、お前こそ何やってるんだ?」
「ひきこもり。現実逃避。自殺願望。…そんなところなんじゃない?」
自分のことなのに、まるで他人事のように語る。その投げやりな態度に私は少しイラついた。
「両親が心配してたぞ。お前が何時間も帰ってこないって」
「……あの二人はもう僕の親じゃないよ」
「なに?」
「瑞樹のことを忘れてるなら、僕の事も半分は認識していないのも当然。心配? そんなものは期待してない。僕は、瑞樹のことを思い出してほしいだけだよ」 そう吐き捨てると、再びうつむいてしまう。もう私の言葉なんて届かないかもしれない。
「わかったら帰って。今は一人になりたい」
「………わかったら? わからねぇよ! そんなんであたしを納得させようなんて百年早えよ!」
私は、叫んだ。
「言いてぇことがあるなら言えよ! 不満があるならぶつけろよ! 泣きたいなら泣けばいいじゃねぇか! 泣いて泣いて、涙が枯れるまで泣いて、そしたら、あたしがなぐさめてやるよ」一呼吸おいてから、瑞華の頭をなでながら、「だから、な? 帰ろうぜ? 瑞樹は、お前だけじゃなくあたしの中にもちゃんと残ってるからさ」そう言った。
瑞樹の消失は私も調べられるし、もしかしたら何かがわかるかもしれない。希望は無いわけではない。ゲームで人が死ぬなんてバカげたこと、本来なら有り得ない。何かがあるはずだ。
そんな事を考えていると、瑞華がすくっと立ち上がった。
「瑞華。帰るか?」
しかし、瑞華の口から出たのは信じらんない言葉だった。
「「今から瑞樹をあんな目にした奴を探しに行く。そして瑞樹と同じ目にあってもらう」」
その声は、瑞華のものとそうではない、つまり瑞華から二人の声が聞こえてきた。
私はなにかの聞き間違いかと思ったが、違かった。
「「僕の声に驚いているんだね? わかるよ。だって僕から二人の声が聞こえるんだモンね」
瑞華の顔をみると、その目は瑞華のものではなかった。
漆黒の双眸。人間の目では有り得ない輝きをもった純粋な黒。
「…誰だ? お前は」
「「ひどいよ、犀愛ちゃん。僕のこと忘れちゃったの?」」
あくまで瑞華の口調でしゃべる瑞華ではない瑞華。
しかし口や目は瑞華のものではなくとも、表情だけは瑞華だ。自分でも何が起きているのかわからないといったような表情をしている。
「ふふ、バレてしまいましたか。まあ、隠すつもりもありませんが」
どこからか響く可愛い澄んだ声。その声の主は、いつの間に現れたのか、瑞華と私の間に立っていた。
人形、と形容していいような少女だった。しかし、そこから発せられる何かは、私の背筋に寒いものが走った。
少女はスカートの端をつまむと、上品にお辞儀をした。
「初めまして。クローバー・ソウ・ブラックリリィと申します。以後お見知りおきを、ミス犀愛」
「君は、さっきの…」
瑞華がその少女をみてそういう。この一言で『今度は、誰?』と言った意味がここでわかる。おそらく私が来る前に瑞華に会いに来たんだろう。
「お気軽にリリィと呼んで構わないですよ。ああ、瑞華さんも私の事は好きなように呼んでいいですから」
振り返り瑞華にもそういう。仕草や言動は、やはり少女のそれだが、しかしその影にどこか威厳が感じられる。この子を目の前にすると、こうして立っていることすら失礼な気がしてきてしまう。
「おまえ、何者だ? ただのアバターでもNPCでもないな」
「名前の通りですよ。クローバー・ソウ《復讐と》・ブラックリリィ《呪いの使者》。またはこう呼ぶ者もいますよ。不死鳥と」
不死鳥!
ヴァーチャル内最高の属性にして最希少種。誰もその姿も、能力も見たことがなく伝説的な存在だった不死鳥だというのだろうか?
「有り得ない!」
私は、そう叫んだ。あり得ないと断言できる理由が私にはある。
「あたしが作ったプログラムの中に不死鳥という存在はいなかった! 根も葉もない噂だったはずだ!」
そう。不死鳥という属性はプログラムに組み込んでいないのだ。だから目の前の少女が言っていることは偽りでしかない。
「例えばの話をしましょうか。幽霊で良いかしら」
人差し指をピッと立てにっこりと微笑む。
「妖怪でもいいわ。彼らはもともとは存在していないはずの生き物よ。だけど人々の思い込みが、その存在を創り出したのよ。今日、いまだに新しい妖怪が増えているのもそういうわけ」
部屋の中を円を描くように歩き回るリリィ。その口調はどこか楽しそうだった。
「だからこの世界、あなたたちが『仮想世界』と呼ぶここでもそんな現象が起きるのは当たり前だわ。だってここは『電子仮想世界』ですもの。存在しえないものがいても不思議じゃないわ。それに」スキップするようにリリィは私のもとに近づいてくる。そして下から私の顔を覗き込むようにすると不敵に微笑む。「あなた、まだこの世界が自分の管轄下にあると思っているの? ふふっ、だとしたらお笑いだわ。もう何年もこの世界から姿をくらませていたクセにまだ自分の庭だと思っているなら、悲しいくらい滑稽だわ」
ふふっ、ともう一度笑う。さもオカシそうに。
その嘲笑ともとれる笑い方に普段の私なら腹をたてていたかもしれない。しかしこの少女、ブラックリリィが話した内容は、私を動揺させるのに充分だった。
「なんのことを、言ってるんだ?」
平静を装ったつもりだったが、声が震えているのが自分でもわかった。そんな私を見て、リリィは笑うだけだった。
「言っても良いのかしら? 大好きな瑞華さんの前ですよ? まあ、私はいっこうに構わないけれど」
「………っ」
私は今どんな表情をしているのだろうか。
焦燥。
困惑。
不信。
そしてなによりも、恐怖が私の頭を、体を縛り付ける。
「今回はこの程度ね。ふふっ、安心するといいわ。瑞華さんにはなにも言わないから。この子は今、精神状態が非常に不安定なの。あなたの事を話しショックを受けさせるのは私としても良しとしない展開ですから」
リリィは、瑞華の頭を抱くと軽くなでる。
「なので、貴女も今は帰って下さる? 私に瑞華さんを任せるのは不安とは思うけれど、あなた方がそばにいると、この子は回復しないので」
「それとこれとは話が―――」
「違わないわ。…悪いとは思いますが、仕方ないですね。強制的に退室願いましょうか」
私の言葉を途中で止めると、リリィは困った顔をしながら私の体に触れた。
次の瞬間、私の体が足元から消えていくのを自分の目で見てしまった。
「これは! なぜお前がこれを?!」
「私はこの子とは違いこの世界の住人よ? そう、かつての貴女のように。もっと言ってしまうと実体を持たないから、他者のプログラムに介入出来るの。だから、貴女が昔つくったこの操作も、今では私のスキルだわ」
そう言うと、笑顔で私に向かい手をふる。
「それではミス犀愛。ごきげんよう」
その言葉を最後に私はヴァーチャルからリアルに強制送還されてしまった。
次回はブラックリリィの正体の片鱗を書きたいと思います。
―――さて、彼女は一体何者なのだろうか?




