8章:時空の歪みと、報いのない友情
キャビンに集まった僕らは、
カーンから許可をもらい、「救助艇で観光旅行に出ている」という設定の――6日目だった。
リオが立ち上がる。
「さて、通信を切って遭難するぞ」
「重力異常を測定したことにする。報告書には“時空のゆがみ”って書いておけ」
カルクが笑う。
「軍のパトロール艇のログ、拝借した設定ってだけで、すでに豪華すぎる」
「地球に向かって6日目なのに、記録上はベガのアドベンチャーワールドから帰る途中だってさ」
ナヴィが肩をすくめる。
「航路の記録改ざんなんて、みんなやってるだろ。
“休憩してました”が通る業界だよ。とはいえ、6日分はさすがに長い」
僕らは笑っていた。
でも、実際には疲れ切っていた。
---
カイトは航路記録の改ざんをリアルタイムで処理し続けていて、睡眠ゼロに近い。
リオは最短距離で地球軌道を目指し、アストロベルトを強引に突っ切っている。
来るときには15日かかった距離を、今回は12日で突破する計算らしい。
僕とナヴィは――博士から送られてきた「地球地熱発電施設の設計図》」を解析していた。
設計図は古すぎて、現代の技術仕様と一致しない。
だが、なぜか僕の知識の方が解読には向いていた。
---
「博士、本当に3日で準備できるって言ってるのか?」
「多分だけど……地下700kmの穴が“ある”ってだけで判断してる」
「博士のことだ。穴だけ確保できたら、建物は爆破するつもりかもな」
「メンテナンス用の清掃システムがあるらしい。
建屋から直接、再構築ユニットを挿入できる設計になってる」
カルクがポツリと笑う。
「タクト、本当にスタッフ入りしそうだな。
もう半分、実験の一部になってる」
---
「よし、通信切るぞ。今から俺たちは“時空の歪みに落ちた遭難者》”だ」
「このあと24時間の休憩に入る。各自、休んでくれ」
「その間に、連邦側も何らかの動きを見せてくるはずだ」
---
僕は、静かにリオに声をかけた。
「……リオ、ありがとう。覚悟は決めたつもりだけど、
僕には君たちに報いる術がない。本当に、これでいいの?」
リオは、少しだけ驚いた顔をしてから――笑った。
「今さらだよ、タクト。
なにより、俺たちは“楽しんでる”。限界を試すのが好きなんだ」
「カイトも、ナヴィも、俺も――みんな同じさ」
「皮膚の裏がビリついてる。生きてる実感がバリバリだ。
ちょっと間違えたら、惑星まるごとバーンってね」
---
そして、声のトーンが落ちた。
「それにな、俺には計算もある」
「地熱再構築がうまくいけば――俺たちの行動は、“なかったこと”になる」
「審議会がカーンの提案どおりに定住を認めれば、それが一番簡単な着地」
「企業も議会も、お前たちの“資源のおこぼれ”を欲しがるさ。
そうなれば、俺たちの違反行動は政治的に抹消される」
「つまり、“成功”さえすれば、俺たちは存在しなかったことにできる」
「だから、なんの心配もないんだよ。タクト」
---
その言葉が終わった瞬間、
救助艇の通信は静かに切断された。
銀河に漂う“沈黙のシグナル”。
僕らはもう――いない者として進む。
読んでいただきありがとうございます。
下の☆☆☆☆☆に評価をつけて頂けると嬉しいです。
面白ければ☆5個、つまらなかったら☆1つでよろしく!。
感じたまま評価して下さい。
ブックマークの登録もできればおねがいします。




