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タクトの物語  作者: rhmgr
5/10

5章:博士と反逆

8日目。静かなブリーフィング室。

ナヴィが結論を告げる。


「憲章第4条3項b――これを無効化(むこうか)するしかない」


リオが眉をひそめる。「つまり?」


ナヴィが(こた)える。


地熱生命活動ちねつせいめいかつどうが停止した惑星に定住権は与えられない。

なら、停止してないことにするしかない」


「地球を、“活動中(かつどうちゅう)”の惑星に戻すってことか」


カルクが一言(ひとこと)つぶやいた。


「……Dr. メルクリオ・レエス」


ナヴィが目を丸くする。「あの、狂人?」


「彼の“地熱再活性化技術ちねつさいかっせいかぎじゅつ”が唯一(ゆいいつ)の可能性だ」


「でも、5年前の実験で惑星を真っ二つに割ったろ。

以降、実験は禁止されたはずだ」


「そもそも、連絡がつかないと聞いたけど」


カルクが笑う。「俺、連絡とれるよ」


---


コンピュータ上に表示された人物情報:


| 名前 | Dr. メルクリオ・レエス《Mercurio Reyes》 |

| 経歴 | 元・連邦惑星開発庁れんぽうわくせいかいはつちょう主席技官(しゅせきぎかん)独立研究者どくりつけんきゅうしゃ兼資産家(けんしさんか) |

| 特記 | 退官後すべての資産を「人工地熱再構築じんこうちねつさいこうちく」に投入。失敗以降、(おおやけ)の場には未登場(みとうじょう) |

| 所有物 | 私有宇宙船「アストロフォージ号」

試験設備(しけんせつび)掘削モジュール(くっさくもじゅーる)深層圧縮炉(しんそうあっしゅくろ) → 実地試験が“自力で完結可能(かんけつかのう)


純度(じゅんど)100%の天才。地熱再構築(ちねつさいこうちく)が、彼の全て」


「学会にも顔を出さず、人間嫌い。

でも技術開発で莫大な資産を(きず)いている」


「カルク、お前……」


「彼のお気に入りだよ。ハッキングできる人間は数人しかいない。

今は正式にログインコードもらってる。

でも、ここからじゃ連絡はできない。ノヴァの基地に戻れば可能だと思う」


---


10日目。


「博士と地球で合流するしかない」

「だけど、接触(せっしょく)は完全に秘密にしないと計画が()れる」

「俺たちが思いつくことは、敵も当然考えてるさ」


ナヴィが肩を落とす。「そうすると、やっぱり――このパトロール艇を乗っ取るしかないか」


カルクが冗談めかす。「その時点で、僕らは反逆者(はんぎゃくしゃ)確定だな」


リオが半笑いで言う。「さすがに即撃墜(そくげきつい)はない……よね?」


ナヴィが(つぶや)く。「俺、(きら)われてるからな。油断すると落とされるかも」


僕は、口を(はさ)んだ。


「……僕らのために、なんでそこまでしてくれるんだ」


「タクト、お前に覚悟を訊いたとき――

こっちも、覚悟決(かくごき)めてるに決まってるだろ」


「大丈夫。お前ら、金持ちだ。

地球住人のタクトに、俺らを“用心棒として(やと)ってもらう”だけさ」


僕は町の人々の運命を背負うことは覚悟していた。

だけど――彼らまで(あず)かる気持ちは、持っていなかった。


「……僕たちに、そんな価値があるの?」


リオが笑う。


「いやいや。俺らは、遊んでるだけだよ。

だけど、この舞台(ぶたい)――いのちをかけて遊ぶだけの価値が、間違(まちが)いなくある」


ナヴィがボソッと。「……俺、聞いてないけど」


僕にできることは、頭を()げることだけだった。


---


12日目。


「結局、博士への交渉(こうしょう)が最大のネックだな」

「それ以外の可能性は、もうすべて検討済(けんとうず)み」


「博士が“うん”と言ってくれるか」

「そして、実験の準備に何日かかるか」

「その分だけ、連邦を(だま)す時間が必要になる」


僕はカルクに目を向けた。「大丈夫か?」


カルクが答える。


「博士には、“タクトを売る”ってことで話す。

モルモットとして、実験に差し出す」


「……狂人に、僕を売るのか?」


「そう。俺たちの切り札として、君の血を出す。

それしか、あいつを動かす方法はない」


---


14日目。


計画は(しぼ)()まれた。


コンピュータが示す限り、これが唯一の突破口(とっぱこう)


チームの指示は、二つ。


1. 「安全を理由に、宿泊はパトロール艇の中で()ごすこと」

→ 公聴会の間、彼らが博士と連絡を取る


2. 「血液提出(けつえきていしゅつ)には、絶対に応じないこと」

→ やっぱり、僕らは“モルモット”なんだ


---


覚悟は、もう冗談ではすまされない段階に入った。

この艇に(ひび)いている空気の温度が、はっきり違う。


誰かの命が武器(ぶき)になりかけてる。

でもそれを“笑って話す奴ら”が、今の僕には、世界でいちばん信じられる。



読んでいただきありがとうございます。


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