表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タクトの物語  作者: rhmgr
3/10

3章:決断の予兆

あれから三日。

救助隊の面々は、何もなかったような顔で僕を扱ってくれる。

いつも通りの資材確認、いつも通りの見積もり作業。

けれど、蛇口から水が出た瞬間――あれは格別だった。

鼻歌(はなうた)が、自然に漏れた。


「現金なやつだな」

ナヴィが僕の背中をつついた。

僕は笑って返す。「だって水だよ?」


---


その日の報告も、いつも通りだった。

町長の部屋。僕ひとり。


「……ということで、僕らは自立(じりつ)できる資金を持っているってことです」

「でも機密情報なので、元ネタの漏洩(ろうえい)は絶対に避けてください」


町長は静かに(うなず)いた。

「カーンが血液の提供(ていきょう)を求めた理由が、そういうことか。ありがとう、タクト。

これは絶対の機密事項(きみつじこう)として扱う。君も気をつけてくれ」


それ以降、町長からの音沙汰(おとさた)はない。

正直、ホッとしている。あんな厄介(やっかい)な話、もう関わりたくない。


---


(まち)はずれ――ちぎれた排水管(はいすいかん)の確認中、パトカーが止まった。

警察署長が窓を開ける。


「タクト君、町長が呼んでいる。すぐに来てくれ。君の車は使っていい。こちらで送る」


悪い予感しか、しない。

背中が、冷えた。


---


役場の会議室。町長と僕。二人きり。


「カーンと取引(とりひき)をした。この町のすべての遺伝子(いでんし)に関する権利を、連邦へ一括委託(いっかついたく)する」

「その対価(たいか)として、地球での定住権(ていじゅうけん)施設建設(しせつけんせつ)維持管理(いじかんり)に必要な物資が継続提供(けいぞくていきょう)される」


僕は、何も言えなかった。


「カーンは了承済(りょうしょうず)みだ。だが、正式な決定には議会の審議が必要になる。

そのため、公聴会(こうちょうかい)が開かれる。場所は――惑星ノヴァ」

急遽(きゅうきょ)決まったことだ。救助隊のパトロール艇で君に同行(どうこう)してもらいたい」


町長の目はまっすぐだった。だけど、僕の中では何かが崩れていた。


「移動は片道15日の宇宙旅行になる。往復(おうふく)で一ヶ月だ」

本来(ほんらい)なら、別の船を用意するはずだった。だが、審議会が予想以上に早く招集(しょうしゅう)された」

「パトロール艇の乗船枠(じょうせんわく)は限られている。救助隊員3名が地球に緊急展開(きんきゅうてんかい)していることもあり――」

「君、タクト。君ひとりが、町の代表として惑星ノヴァに行ってくれ」


その瞬間、すべてが静止したような感覚があった。


---


乗船前日。救助隊とすれ違う。


ナヴィが敬礼(けいれい)して言った。「コマンダー!」

僕は()(かく)しで彼の足を軽く蹴った。


乗船から三日。

みんな(いそが)しそうで、会話もろくにできていない。

僕は艦内(かんない)コンピュータに“生徒”として(きた)えられていた。


標準言語の習得。連邦の歴史と構造(こうぞう)

常識の詰め込み。


「町長はうまく()げたよな。」

そうぼやいたら、コンピュータが即座(そくざ)に標準言語でリピート。

僕はそれを真似(まね)する。合格(ごうかく)するまで、繰り返される。

何十回目(なんじゅっかいめ)かのトレーニングの()て――(たし)かに、僕の標準言語はうまくなっていた。


---


そして今。リオに呼ばれてキャビンに入った。


(めずら)しく、三人が(そろ)っていた。


「突然だけど――タクト。俺たちのこと、どのくらい信頼(しんらい)してくれてる?」

リオが言った。


僕は肩をすくめて答えた。「君たち以外に信頼できる人なんて、いないよ。ブラザーズ」


重大(じゅうだい)な話になるかもしれない。町長たちよりも、俺たちを信頼できるか?」


三人の視線が、僕を(つらぬ)いた。


---


リオが続ける。


「俺たちなりに情報を集めた。実は、この船にタクトしか乗せないよう仕掛(しか)けたのは、俺たちだ」


ナヴィが補足(ほそく)する。


「今回の公聴会、君たちの定住――否定される可能性が高い」


町長は大丈夫だって言っていた。

カーンが紹介(しょうかい)したのは、連邦最高(れんぽうさいこう)弁護士事務所(べんごしじむしょ)だとも。


町の主張(しゅちょう)法律的(ほうりつてき)に正しい。

僕はただの“同行者(どうこうしゃ)”だったはず。


でも彼らの声は()るがない。


「確かに、連邦は君たちの遺伝子を一括(いっかつ)で委託されたい」

「カーンはそれを連邦に差し出すことで、政治的ステップアップを(はか)っている」

「利害は一致している。連邦も、カーンも、町も」

「弁護士は、町に残る登記資料(とうきしりょう)をもとに所有権を主張する方向(ほうこう)

だが、俺たちが集めた情報では――それ、(あや)うい」


---


カルクが言った。


「憲章第4条3項b。“地熱生命活動ちねつせいめいかつどうが停止した惑星に定住権(ていじゅうけん)(あた)えてはならない”

これは、規約に明記(めいき)されてる」


ナヴィが続ける。


法体系(ほうたいけい)連続性(れんぞくせい)。過去の地球の法制度が連邦に接続可能(せつぞくかのう)かが問われる。

もし否定されれば――町の所有権は、(とお)らない」


そして、リオが()めくくる。


「審議がこんなにも急に開かれた。これは議会側からの圧力。

巨大企業(きょだいきぎょう)が遺伝子を欲しがって、政権に圧力をかけた」

「つまり――議会は、連邦への一括委託(いっかついたく)を阻止する手を、もう持ってるかもしれない」


---


「えっ、えっ、えっ……」

画面に映る文字はすべて、僕を飲み込もうとしていた。


言葉の意味はわかる。でも、理解は追いついていない。


何が起こってるんだ。

この旅路の意味は、いったい何だ――



読んでいただきありがとうございます。


下の☆☆☆☆☆に評価をつけて頂けると嬉しいです。


面白ければ☆5個、つまらなかったら☆1つでよろしく!。


感じたまま評価して下さい。


ブックマークの登録もできればおねがいします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ