10章:地球の声
僕――タクト。リオ、カルク、ナヴィ、そして博士の4人と並んで、街はずれに立っていた。
その目の前には、町長を中心に自警団の重鎮たち。
そして、その背後に町の人たち全員――約500人が静かに並んでいた。
後方には、救助艇とアストロフォージ号が並んで着陸している。
博士とは30分ほど前に初めて顔を合》わせたばかり。
言葉はほとんど交わしていない。時間が、もうない。
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町長が歩み寄る。
「タクト、ご苦労様。通信文で状況は把握している」
「町民全体で、君の判断を支持するよ」
「カーンからは、脅しと懐柔の連絡が届き続けている。
適当にあしらってはいるが――今、我々は、君と君の仲間たちにすべてを託す」
「必要な書類があれば言ってくれ。すべて、君の指示に従う」
僕は一歩下がって、博士たち4人を紹介した。
「お願いします。私たちを――地球に、いさせてください」
500人が、一斉に頭を下げた。
空気が、震えるほどの圧力だった。
博士たちも、思わず固まっていた。
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「町長、時間がありません。すぐに実験準備に入ります」
町長はゆっくり頷いた。
「そうか……少し君と話したかったんだが、それはすべてが終わってからにしよう」
僕らは、そのまま救助艇に乗り込み、地熱発電所へ向かった。
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発電所の前。
缶ジュースが、ずらりと並んでいた。
「ナヴィ……俺たち、連邦のお尋ね者じゃなかったっけ?」
ナヴィが笑う。
「僕はこの“コーラ”ってやつが一押しだね」
「いやいや、“お茶”が最強だろ」
「何言ってんだ。“ネクター”ってやつが最高だってば」
博士は、山積みの雑誌を抱えてページをむさぼるようにめくっていた。
たぶん、綺麗なお姉さんだらけの雑誌だ。
この光景は、まるで“地球との再会”だった。
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発電所の設備は問題なく再稼働。
電源は救助艇から、施設の変電所へ直結。
いくつかの部品と工具が必要で、町の倉庫へ戻った際――
博士は雑誌の束と、動かなくなった自動販売機に妙に興味を示した。
そして町長にお願いした結果、
今、実験前の補給ラインには缶ジュースと雑誌がどっさり積まれている。
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博士の説明によれば、実験準備に必要な三日間はこういうことだった。
- 起爆装置を地下700kmのマントル下部まで降下させる
- 重力を操作しながら時速15kmで自動降下
- 到達時間:約47時間 → 実質3日間
ナヴィが頷く。
「つまり、地球実験は“本番の中でも簡単な部類”ってことか」
博士が言う。
「もし、発電施設が使えなければ中止だ」
僕はその言葉に、救われた気がした。
地球が、もう一度チャンスをくれている。
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そして三日後――
起爆装置は無事に地下700kmへ設置完了。
各種セルフチェックが始まり、残り2時間ほどで最終準備も完了する。
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リオが顔を上げる。
「そろそろ、連邦のパトロール艇が地球軌道に乗るぞ」
カルクが画面を確認する。
「ちょっと早すぎるな。さすが最新型」
ナヴィがつぶやく。
「いや、操縦士の腕がいい。こいつは――本物だ」
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「撤退準備をしてくれ。失敗して、君たちを巻き込むわけにはいかない」
僕が口を開く。
「起爆スイッチを押すくらいなら、僕ひとりで充分です」
カルクが遮る。
「いや、もう間に合わない。離脱前に拿捕される可能性もある」
ナヴィが続ける。
「しかも、地球軌道では爆発に巻き込まれる可能性も高い」
博士が静かに言った。
「大丈夫。私の実験に、失敗はない」
リオが眉をひそめる。
「でも、前回――惑星が真っ二つに割れたじゃないか」
博士は笑う。
「前回は、惑星が小さすぎた。
それに、今回は起爆装置の反応拡散スピードを調整済み。
問題はない」
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ついに、全ての準備が整った。
起爆装置のスイッチ。
このボタンを押せば、地球が――証明される。
「パトロール艇、地球軌道に進入」
カルクが振り向く。
「スイッチは、タクトに押させてやれ」
僕が静かに手を伸ばすその瞬間――声が、頭の中に浮かんだ。
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「間に合いましたね。タクト」
僕は思わず辺りを見回した。
リオも、カルクも、ナヴィも、博士も、僕を見ていた。
再び、声が響く。
「何とか間に合いましたね、タクト。ありがとう。
あなたを選んで、よかったです」
「そう――あなたをここに呼んだのは、私」
「私、地球です」
---
完
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