表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人形シリーズ  作者: 古月 うい
第四章 人形の守るもの

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/92

追憶

「おばあちゃん、久しぶり!」


久々に孫たちがやってきた。


穏やかに遊ぶこの子達を眺めていると、あの日々が幻だったのではないかという気がしてくる。


あれから何年経っただろう。


荘園の皆は殆どあの日々を忘れてしまって、思い出す人はほとんどいない。

思い出せる人は、ほとんどいない。


私はその間に結婚して、もう孫がいる。


「今日は朝日おばあちゃん来る?」


「おやつの時間にくることになっている。」


やったぁと朝日の方にもう感心が移っている孫を、娘が嗜める。


まあそれも仕方ないかもしれない。


朝日は有名な作家なのだ。


荘園での出来事を三人の視点から綴った『大遠野国物語』が大ヒットして、メディア化や舞台化などしてとても有名人になった。


現代のファンタジー作家の巨匠とまで呼ばれている。


あれがヒットしてくれたおかげで私も仕事がやりやすい面がある。


荘園に帰りたいという思いは、荘園の関係者なら誰にでも芽生えうるものだ。


それが芽生えた時、あのヒット作からここまで辿り着けるように、朝日は仕掛けを施した。


「早良。こんにちは。」


あ、もうそんな時間なのか。


孫たちに朝日の対応は任せて、おやつの用意をする。


「朝日おばあちゃん、いらっしゃい!」


「久しぶり。元気にしていた?」


「もちろん!」


孫たちの声が聞こえる。


穏やかな日々。


ここに、汐凪がいないのがひどく残念だ。


「朝日、どうぞ」


「ありがとう。」


昔は、私たちはそんなに話すほど仲が良い存在ではなかった。


けれど、沃様も露華も冬火も汐凪もいなくなり、荘園のことを覚えている人が少なくなった。


だから、私たちは今でも交流がある。


「朝日おばあちゃん、あのね、」


孫たちは私より朝日に懐いているようだ。


なんだか複雑な気分。


「お母さん、ごめんね。」


「いいのよ汐凪。あの子も楽しそう。」


私はそれだけで充分。


どうか、荘園への郷愁にとらわれませんように。


普通の人として、生を送りますように。


「早良、汐凪って、誰?」


朝日が聞いてくる。


「何を言っているの。この子が汐凪」


私は娘に汐凪という名前をつけた。


決して身代わりではない。後悔はしていない。


誰しもいつか忘れられる。汐凪は、誰の記憶にも残らずに消えてしまった。


その名前は大遠野国物語にも出てこない。


ならば、私だけでも覚えて、ほんの少しでも汐凪を後世に残したい。


私は汐凪が大好きだった。


それなのに、みんなにひとつも覚えられていないのは、あまりにも悲しいから。


朝日は、荘園のことを覚えているだけで詳細は忘れてしまった。


それでいい。


辛い思いをするのは、私だけでいい。


思い出さなくて構わない。


思い出さない方が、朝日にとっては幸せだろう。


汐凪と話したくて、でも何を話せばいいのかわからなくて二の足を踏んでいるうちに、汐凪はいなくなってしまった。


私はこちらの世界で荘園への導き手として生きている。


結は佑を御神体として神社の神主になった。

今では威厳のある立派な神職だ。


でも、佑がなんだったのかは覚えていない。


だから私は佑に決して動くなと言い含めた。


泊は消えてしまった。清も、汐凪も。


それでも私はこちらとあちらの橋渡しをしている。


あちらでどんな生活が送られているのか、今の私には知りようがない。


壺中の天と称された夢見幾世は、今どうなっているのだろう。


風が吹いて花が散る。

日の光をうけて、柔らかく輝きながら。


「美しい世界、か…」


かつて、荘園のことをそう称した人がいた。


間違ってはいないだろう。

確かに、美しい世界だった。


でも、私たちでは決してそこに辿り着くことはできない。


それでも、希望だ。


美しい世界なんて本当はどこにもなかったとしても、それでも。


ふと庭を見ると、柔らかに笑った、夕陽の色の着物を着ている女の人を見た気がした。


けれどそれは一瞬のことで、すぐに跡形もなくかき消えて、そこには何も残らなかった。

最終話です。

今までありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ