美しい世界
「汐凪、」
「泊?どうかしたの?」
まさか、役割に気がついたんじゃあ…
「私、なにかしなくちゃいけない気がする。でも、何かわからない。どうしよう、やらなきゃいけないのに」
「泊、」
「私がしっかりしなきゃ、私がやらなきゃ、」
「泊、落ち着いて」
このまま気が付かなきゃいいのに。
役割に気が付かず、過ごしていられたらいいのに。
「汐凪さま、私たち、前のところに帰りたいです」
とうとう、そう言ってくる人が出てきた。
「…帰ることはできます。元の場所に戻ることはできませんが、それでも良いですか?」
何人かは引き下がったが何人かはまだ残っている。
「どうしても、帰りたいと願うのですか?」
その人たちはしっかりと頷いた。
私は目を伏せる。
「一つ、お伝えします。一度あちらに戻れば、もう二度とこちらに戻ってくることはできません」
全員の顔がこわばった。
「息子には、」
「残るのであれば、もう二度と会えません。友人にも、家族にも。
そのことをよく考えておいてください。次にやってきたときは、帰る意思が固まったと判断いたします」
めいめい一度帰って行った。
私は1人残って残りの作業をする。
「…さっきの話は本当?」
「朝日。さっきの話って?」
朝日は全く表情を変えない。いつもそんな子だった。
「あっちに戻れば、もう二度と帰って来れないって」
「…ええ。」
朝日はきっと冬火と露華のことを心配しているだろう。
朝日は誰よりもあの二人を大切にしているから。
「朝日には言っておくね。
荘園に戻らずにここに留まった場合、荘園での記憶は時期薄れる。
戻って行った人のことなんか覚えていないようになる」
これは最近知ったことだ。
もし泊がその役割に気がついたらだけどね、とのことだ。
「じゃあ、姉さんたちに残すように伝えたのは、」
「いつかしゃなく、確実に近いうちに忘れられるから」
泊は気がつき始めている。
きっと、能力を行使せざる終えないように仕向けられる。
「朝日は覚えている人だよ。私がそうしたから。でも、朝日以外は全然そうじゃない。」
「…姉さんたちが戻りたいと言ったら、汐凪は受け入れる?」
「…きっとね」
きっと、私は彼女たちへの罪悪感から受け入れる。
私はそれを、確信している。
「…失礼します」
朝日はするりと帰って行った。
扉からくつくつと笑う声がしたので顔を上げると、小さな短い髪の女の子が立っていた。
「霧氷」
「決まった?」
もう三ヶ月経っていたのか。
「早いね」
「約束通りだよ。それに、ほら」
上を向いて、一点を指差す。
そこだけ蛍のように輝いている。蛍の季節ではないのに。
「泊が役割をまっとうしてるよ。ねえ、汐凪は?」
「…私は、」
早良、会いたい。
ねえ、あなたにあいたい。
早良じゃなくても誰でもいい。お願いだから、会いにきて。
「冬火と露華と沃は戻ったよ。
わたしが戻しといたから、安心して。」
何を、安心すればいいの。
「みんな役割をまっとうしてるよ?あなたは何もしていないのに」
霧氷は笑う。
「汐凪。さあ、どうする?」




