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人形シリーズ  作者: 古月 うい
一部 人形の一族

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9/88

人形たち、みんなの役割 上

「これで全員おわったよ。こんなに多いの初めてよ。」


(ごう)、そもそも1人しかやったことないのに何を言うの」


「そんなことないよ。(きよ)のも手伝ったもん」


二人のやり取りを眺めているとほっこりするなー。


「私たちは何をすれば?」


「ああ、そういえばほかの子たちの役職聞いてないのか。ちょっと待ってて」


江はぱたぱたと奥へ駆けて行った。


部屋には清と二人になる。成人の儀式のとき以来だ。……何を話せばいいのだろう。


「長を見て、どう思われましたか?」


「どうって?」


清は私の目のあたりに手を触れた。きれいで細い手だ。


「なら、よいのですけれど。」


ほんの少しだけ笑って。外の川へ降りて行ってしまった。なんだったのだろう。


「あったあった。あれ、清は?」


「あっち」


庭を指さすと江はやれやれと首を振った。


「説明するよ。早良(さわら)から。

早良は、執政官第七位に就任して、黄金色(こがねいろ)を与えられたよ。実質瞳一族の仲間入りを果たした。

祐と結は、あなたの補佐としての役割を担うことになるよ。さすがに仲間になるよう宣託はくだらなかったのよ。」


なぜ早良だけ別枠なのだろうか……まあ、うれしいことではある。私に何かあった時でも早良は安全だという保障になる。


「これからはとりあえず各地を巡って執政官の役割をこなしてもらうよ。それが30年は続くかな。そのあとはわからない。」


なんか時間の桁が違う。この人たちはお母さまと同世代らしいけれど……


「みんなに会える?」


「んー、(よく)様次第だね。今は実質的にここの最高官は沃様だから。不在の時は清か長だけれど。許可とってくれば?あ、早良も連れて行くのよ」


改めて屋敷の上に飛んでみると、前とは大きく造りが違った。今は島のように殿が点在している。数えてみるとちょうど七つだ。


「桜殿、魚殿、川殿……」


どう頑張っても残り4つまでしか絞れない。千殿がわかればなんとかなるのだけれど。一度江に聞きに行くか。


汐凪(しおなぎ)!」


下から声がして振り向くと、早良が大手を振っていた。


……今気が付いたけれど、殿にはそれぞれの色の紐がつるしてある。気が付くのがあとちょっと早ければなー。


慌てて降りて早良に抱き着く。久々の早良の体温に安心するな。早良の黄色の衣は私よりゆったりした形だ。


「久しぶり。元気?」


「早良こそ。成人しているなんて驚きだよ」


元気でよかった。いつの間にか、ほほを暖かい涙が流れていった。


「なんで泣く?」


「安心して……」


早良が暖かくて、優しくて。


早良は笑った。


「泣き虫。」


そう言って、早良は私の頭を優しく撫でた。


「早良も、執政官になったんだね。おめでとう」


「ありがとう。汐凪は第一位代理だね」


早良は少し照れたように笑った。


「それより、佑と結はどこにいるの?」


私が尋ねると、早良は少し困ったような顔をした。


「まだ会えてない。私も成人してからすぐに江様から役職を言い渡されて、それからずっとここにいるから。でも、江様が汐凪と一緒なら会わせてくれると」


「そうなんだ。じゃあ、早く沃様のところに行こう」


私は早良の手を引いて、再び屋敷を見上げた。今度は、それぞれの殿に吊るされた色の紐を注意深く見る。


「早良の黄金色の紐もあるね。私の橙色の紐は……あそこか」


殿の配置と色の紐を照らし合わせながら、私たちは沃のいる殿を探し始めた。


「きっと、佑も結も元気だよ。汐凪が来るのを待ってたんだから」


早良の言葉に、私の胸は期待でいっぱいになった。早く、二人に会いたい。



ようやく紫の殿を見つけた。これだけで結構かかったな。


「汐凪様と早良様でございますね?」


出迎えてくれたのは雪女もかくやと思うほど白い子だった。


執政官第五位、(はく)だ。近くで見るのは初めてだ。どこか冷たい気がする。清もそうだったけれど、清は冬のひだまりでこちらは風のよう。


あれ、そういえばおばさまから名前を聞いたことがない。


「泊殿、さまをつけなくてもよろしいのですよ?泊殿の方が格上でありましょう」


泊は無表情に中へと促した。


「お待ちしておりました、汐凪、早良」


中にいたのは落ち着いた紫色の衣をまとった女性だった。清と形は似ているがよりたくさん衣を重ねて、帯もない。紫の瞳は、彼女の妖艶さを表していた。執政官第二位、(よく)だ。


「お初にお目にかかります、沃様。執政官第六位、汐凪と申します」


「執政官第七位、早良と申します」


私たちは一礼した。沃は私たちをじっと見つめた。そして、にこりと妖艶な笑みを浮かべた。


「成人、おめでとう。よくここまでこられました。あなたがくるのを長も楽しみにしておられましたのよ。」


「あの、沃様。祐と結に会わせていただくことはできますでしょうか?」


私は意を決して尋ねた。


「ええ、構わないわ。二人は今、私の管理下にある。貴女たちが執政界での務めを果たす上で、二人の存在が支えとなることは理解しているわ」


沃は静かに頷いた。よかった。このまま引きはがされるのではないかと危惧していたのだ。


「ただし、二人には執政官としての位は与えられていない。彼らの自由は、貴女たちの行動に左右されることを忘れないで。特に、結はまだ人間としての感情が強い。もしなにかあればその時は……わかるわよね?」


しくじれば、その先に待つのは二人の処分。大丈夫、わかっている。


「肝に銘じます」


「泊、彼女たちを祐と結の元へ案内してあげなさい」


満足げに微笑んだ沃が命じると、泊は無言で私たちに背を向け再び歩き出した。


「こちらです」


そこは、離れの小屋だった。とは言いつつ造りの丁寧さは殿と同じぐらいだ。まあ、そもそもあのとき増えたと考えたらそうなるのも当たり前か。


「ありがとう。」


泊は黙って去っていった。……五人衆もいろいろだな。


なかはあかるくて、全体的にどんよりとした屋敷の雰囲気とは違った優しい部屋だった。


「汐凪!」


立ち上がった結は夢見幾世(ゆめみいくよ)の中流の人たちの服によく似たものを着ていた。


「久しぶり、結。元気にしていた?」


「はい。汐凪も元気そうですね。」


奥から祐も歩いてくる。3人を眺めて、感無量になってしまった。


「成人したから、30年ぐらいは各地を巡るらしいよ。詳しい日程はあとから。結たちって、立場について聞いた?」


「はい。時事は、この紙が教えてくれました。」


見せてくれたのは、白い人型の紙人形だった。


「式神だね。誰かが飛ばしてくれていたのかな。」


聞いてない能力だ……となるとさっきの二人か長かな。やるとは思えないけれど。



「お帰り。早良もいらっしゃい。座って。」


江に出迎えられて川殿の縁側に3人で座る。清はまたどこかへ消えてしまっている。


「一応、二人の能力を教えておくね。

結は変幻(へんげん)。幻覚を作る力よ。

祐は読心(どくしん)。人の考えていることを読む力。

二人には”結界”と”命令”の力がないよ。」


二人には?ということは、ほかの人たちにはあるということなのだろうか。


「結界と命令は誰が持っているの?」


「へ?全員。ああそうか。ごめんなさい、これは私の過失だよ。能力は基本秘密だから、全部省いていたよ。」


やっちゃったと言って部屋の奥に入って束をもってやってくる。


「使い方によってはとんでもないことになるから、一応4人の能力の詳細について説明しておくよ。」


ありがたい。今まで独学だった分、能力の使い方をほぼ知らないから一度きちんと学ぶ必要があるとは思っていたのだ。


「能力って際限なく使えるわけじゃないの。誰にでも能力を扱える素質はある。使えないとされる大遠野国(おおとおのくに)移儚夜(うつりはかなよ)の人たちにも、素質はある。けれど、出口のないじょうろから水は出ない。出口の大きさが、能力の強さ。」


うわあ、概念系の話って苦手なのよね……ここは早良に任せてしまおう。


「結界の力の大きな使い方は防御、能力の範囲指定、転移の三つよ。

防御と転移は使っていたらしいから、範囲指定について。実践はやれるときにやっておいて。知っているのと知らないのは大違いよ。」


それからいくつかのことを聞いて、解散となった。




「行ってらっしゃい」


「今までありがとう、(ごう)


執政界から離れるのは寂しいと思うけれど、それより4人で行動できるようになることがうれしかった。


汐凪(しおなぎ)、行李これでいいのですか?」


「うん。持ち運びを考えてね」


楽しみだな…………


「すっかり一族ね」


「おかげさまで」


頭の上を4つの紙人形が飛んでいる。


「あ、これ…………」


「ああ、(はく)の式神よ。」


あの紙人形は、(ゆい)のところに飛んできていたものだ。


「ねえ、泊はどんな人なの?」


いつもとはいっても数回しか見たことはないが、いつも(よく)の後ろに従者のように控えていた。正直あまり印象には残っていない。


「どうと言われてもね……私たち、そんなに交流がないのよ。泊は派生してすぐに沃様の元についたから、汐姉様にそだられた私たちとはどうしても……」


認識はそう変わらないでいいのだろうか。


「江、聞きたかったのだけれど、江のここでの役割は何?」


「初めに言ったよ。自由でいることで欠員の所に行くって。」


確かに言われた……でも聞きたいことはそうではない。


「どうして、そこにいるの?」


各地を巡ることだってできるはずなのに。そちらの方が常に欠員なのに。あなたはなぜここにいるの?


江は目を伏せた。紅い目。鮮血の、赤。


「それを知ったところで、あなたには意味がないことよ」


江はそう言って下がって行った。


清もそれに続いて屋敷に入って行く。


「おせわになりました。」

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