さよなら
「…汐凪、江は…」
たった一人で生きて戻ってきた私に、清は聞いた。
さっきの子供は外に出した。
「…住人を守って、人形化して、そのまま…」
清は目を伏せる。
言われなくてもわかる。清は私を責めてはいない。
それが一番苦しい。
「ごめん、なさい、清。私が、もっとしっかりしていれば、子供に慣れていれば、こんなことには…」
清は私の口を塞いだ。
「何も言わないで。あなたを許せなくなってしまうから。」
清…
「これでもう最後よ。流石にもう無理」
端がどんどん崩れている。
「汐凪!わたくしも無事じゃ!」
「…おばあさま!?」
こんな普通にこっちにいて大丈夫なの?
「おばあさまではなく汐と呼ぶと良いぞ」
ほら、沃様とか清とかがぽかんとしているよ…
「お姉様、なぜここに…」
「荘園を閉じるためだよ」
ひょこっと出てきたのは霧氷だ。髪が前よりだいぶ伸びているし、大人の姿をしている。
「さあ、結、汐、閉じて。」
「私もですか?」
結も閉じるのに必要なの?おばあさまはわかるけど…
ん?
汐一族に、他に誰かいたような…
「閉じる前に、汐里おばさまはどこ?」
一応執政官一族だよね…?
「汐里はだいぶ前に外に出ているよ。ほら、あの人。えーっと、巫女の側使えの」
「玉英?」
あの人?
でも全然違うし…
「違う違う。会ったことないの?槐って人。あの人、汐里の作った人形だよ」
会ったことないな…
しかもおばさまの作った人形って、遠い。
気がつくわけがないでしょう…
「だから汐里はもんだいないの。さ、とりあえず出て。」
ぽんと押し込まれて裂け目から外に出る。
「汐、よろしくね」
おばあさまを内側に残して。
「おばあさま!」
「姉様!」
霧氷、なんということを…!
「これが汐の望みよ。
汐は、荘園の最後を見届けたいと願って、橋姫になった。
最後を見届けて、内側からこの荘園を閉じるの。
外は、結。あなたが結ぶの」
結はわけがわからないまま霧氷に言われるがまま閉じた。
「結、こんなことできたんだ。」
「私も初めてです」
結は普通の人間だし…
「江の命引きの結界を解除してたでしょう?あれと根本は同じ。」
なるほど…?
霧氷はやることがあると消えていった。
「…執政官以上での犠牲者は、江と汐お姉様のみ。」
清のことばに私の意識もそっちに引っ張られる。
私がもっとしっかりしていれば…
「よく、少ない犠牲者で対処しました」
…清?
清は悲しくもなんともない、司令官の顔をしていた。
そっか。清はそれを選ぶのね。
悲しみを演技や責任感で一時的に誤魔化すことを。
その心が悲しみと向き合ってしまったら壊れるから。
周りを見ると、神社だった。
ようやく、私たちの争いが始まるの。
「ここは…」
「神の気に入った土地。毎年神が集まる、八谷神宮。」
向こうには魅夜が走っているのが見える。
みんな、ただいま。
そして…
荘園のみんな、さようなら。




