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人形シリーズ  作者: 古月 うい
第四章 人形の守るもの

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江の心配ごと

「君,大丈夫?」


民家に子供がいた。


比較的広いし孤児院でもなさそうなのに、その子しかいない。


「お母さん、が、」


座り込んだその子の足元には真っ赤な死体が転がっていた。


「…お母さんはね、もう、起きないんだよ」


子供は、まだ動かない。


「そんなことない!お母さんは今起きて、おはようって言うの!いう、の!」


ポロポロ涙をこぼして泣いている。どうしようか。


私はその子のそばにしゃがんで頭を撫でた。


当然頭を振って拒否される。


「江、子供ってどう扱うの?」


入り口に立っている江に聞いたが首を振られた。


「…わからないよ。」


執政官って子供らしくない知能で派生するし、そもそも10歳前後の姿だし。見た目が子供の神は私たちより長生きだし。


「大丈夫だよ。私と一緒に行こう。先に行って、お母さんを待ってるの。ここにいても死んじゃうから。ね?」


後退はしてるけど立ち上がろうとはしない。んー、どうしよう。


その時、その子の顔が一気に輝いた。


「起きないなんてうそ!お母さん動いてる!ほら!」


「…えっ」


死体が動いた、ということは…


固まっていると、その子は私をすり抜けて母親の方に向かった。


「だめ!」


ああ、小さい子って足が速い。


間に合わない。


死体は動いている。


「おかあさん、おはよう!ねえ、この人たちがね」


気づいて。動きが違うことに。


おかあさんは、あなたを殺そうと腕を振り上げたりはしないの。


「離れて!」


服の裾をこういう時に限って踏んでしまう。


ああ!


目を開けると、子供は何事もなく座っていた。


そして、母親とその子の間には…


「江!」


江の体に深々と母親の腕が刺さっている。


江はこちらを向いていて、ニコリと笑って呟いた。


「…人形化能力。対象、操り人形」


「やめて!」


ああ、ここに早良が居ればよかったのに。私が早良からまだ譲渡されていればよかったのに。


最後の時に、清がそばにいればよかったのに。


何もできない、私なんかじゃなくて。


肝心な時に、私は何もできないの。


江の体は灰のように崩れ去って、跡形も残らなかった。


そして、母親は元の死体に戻った。


「…どうする?ここにいる?」


その子は顔を埋めてきた。


ーーーーー神界ーーーーーー


「霧氷様。」


荘園を眺めていると声をかけられた。


「何か用?霊姫」


霊姫は無言で隣に立った。


「初代烏姫は、どうしてここまで荘園住人を蔑ろになさることを選ばれたのでしょう。なにもここまでしなくても」


霊姫は死体人形のことを言っているのだろう。


確かに残酷だ。

死した後も利用し続けるなど、本来は禁忌。


「守るためでもあるのでしょう。これからの崩壊から、人々を。準備はできている?」


「万事つつがなく。

…それにしても、死体人形なのに人形化能力で無効化するのは驚きました。普通に考えると何も変わらないのではありませんか?」


霊姫。全く。いつもわたくしのことは霧氷として扱うように言っているのに。

最長命の上級神が敬語を使っていたら意味ないのに。


「江の持つ人形化は、支配者を江に強制的に書き換え、全ての命令より上位の命令を江が出せるようになる能力。だから不自然ではないのよ」


霊姫は去っていった。わたくしは再び荘園を見る。


在りとあらゆるものが崩壊していく。荘園は、その序章に過ぎない。


みんな目の前のことで手一杯。

だからこそわたくしたちは常に先を見通し、考え、被害を最小限に抑えなくては。


「どれほどの犠牲を払おうとも」


荘園を閉じるために、二人に会いに行きましょう。

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