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人形シリーズ  作者: 古月 うい
第四章 人形の守るもの

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綺麗な人形と、壊れた人形

「泊の式神…」


慌てておおまかな場所を書き付けて執政界に送る。


さて、一人でどう対処しようか。


まともにやり合うには数が多すぎてとてもではないけれど私が持たない。


『一旦戻ってきて、汐凪』


泊の紙人形に諭されてとりあえず結界で閉じ込めて執政界に向かう。


「荘園の中心に江を連れて行ってもらえる?彼女の力が必要なの。

これは、いわゆる死体人形。江は人形化能力を扱えるわ」


清の指示で江を抱えて中心まで向かう。


「ごめんよ、こんなことをさせて」


「気にしないで。それより江の方が心配。持つの?」


彼女は結界が扱えないのに。


「何のために私が存在すると思っているのよ。罪人は罪人らしくいなくなるべきよ」


荘園で生きた人たちの亡骸を壊すという、悪事を働いて。



中心にたどり着くと、江は手を出した。


「人形化…」


「その必要はない」


上からキラキラと降りてきたのは…


「おばあさま!?」「お姉様?!」


どうして。まだ夢浮橋にいるはずじゃあ…


「江、そんなことを考えるでない。わたくしは江が好きだ。だから、こんなことに命をかけないでくれ」


おばあさまは境界を操作して、骸の大群を大きく後退させた。


圧倒的。一つも動かず言葉も発さずに蠢く大群を大幅に後退させた。神の力は美しい。


「おばあさま…」


「汐凪、わたくしの可愛い孫。どうか、彼女を支えなさい」


おばあさま…

には全然見えない若々しい見た目で美しく微笑んだ。


「お姉様は、私のことなど大切ではないくせに」


江…?


「江、あなたは自分を最も愛してくれる者を手にしているのにそれ以上に何を望むのだ?」


おばあさまはさっさと帰って行った。


「江、帰ろう」


連れて行くこともできたが、そう言って手を引いた。


「…行かない」


「江。」


江の顔は髪に隠れてよく見えない。


私は手を離さない。なんだか離すと江が壊れてしまう気がして。


「行かないよ!みんなみんな私のこと腫れ物扱いして、いなくなればいいと思っているのよ!

行きたくないよ。もう、帰りたくないよ…」


江は泣き出してしまった。ああ、江はなんて


「綺麗…。」


江は顔を上げた。よかった、まだこちらの話を聞く余裕がある。


「ねえ江、こうは考えないの?

…本当にいなくなればいいと思われているのなら、あの時能力ではなく命を奪えばよかったのにって」


でも奪われたのは能力だった。


しかも、無くなった状態で力を使えば命に関わるようになる、裏を返せば江を荘園崩壊の危険に利用して命を奪う可能性を低くすることを選ばれた。


「あれはね、清が言ったらしいの。命だけはって。わたくしが全てを負うから、って。すごいよね。神界の、それも黒髪相手に、下手をすれば反逆になるようなことを。」


清が何を考えているのか、そもそもどういう立場なのかもわからない。


それでも江を守った。


「江、帰ろう。」


「でも清に拒絶されたら…」


江の瞳は血よりも鮮やかな赤色。情熱ではなく、勇気を与える色。


「気にしていたらキリがないよ。清が江を拒絶するわけないじゃん。

仮に拒絶されたとして、江の中の清との思い出はそんなことで塗り替えられるようなものなの?」


百年、一緒に過ごしてきたあなたたちなら、きっと。



「お帰りなさ…っ、江!?」


清は江が生きて帰ってきたことと、いきなり抱きついてきたのとで目を丸くしている。


「清。」


「何?」


こつんと肩を叩かれた。早良だ。


「何があった?」


あー。うん、そうだよね。


目の前でヒシと見つめ合う二人。いいなぁ。


「一番好きな人を見つけたの。」


早良は首を傾げた。


「清、生きてよ。そして、そのあとで清のことをたくさん聞かせて。」


それがたとえ束の間であったとしても、今が幸せなら…


束の間?私、何考えているのだろう。

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