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人形シリーズ  作者: 古月 うい
第四章 人形の守るもの

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荘園へ

空が壊れたと知らされたのは、水月の中頃だった。


早良から式神を送られたので夜中に綾波を叩き起こして通信を繋いだ。


「二週間。猶予はそれだけ。」


霧氷はそれだけ伝えてさっさと居なくなった。


「わかった。」


二週間か。


それまでに最優秀の責務を全て他の人に任せないと。

休学届も出して、それから…


「汐凪、手伝うよ。書類とかは任せて。」


「いいの?」


「こういう時ぐらい頼って。」


綾波が引き受けてくれたので休学の手続きは任せることにした。



翌日、生徒会のみんなに休学の旨を伝えた。


「休学?なんでまた」


「荘園のために。」


生徒会の人には一応ざっとは事情を説明しているので、理解はしてくれた。


「最優秀はどうするの?」


「別の人に任せる。臨時最優秀ってところかな。」


異例中の異例だろう。でも目的がこれだし、休学は止められないから仕方がない。


「帰ってくる気はある?」


「はい。」


不可能かもしれないけれど、今はここに帰りたいと思っている。


氷舞宮はにこりと不敵にわらった。


「十分よ。気を付けなさい」



「なんであたしたちが呼ばれたのかしら。自慢?」


私は最優秀候補だった美珠、さや、まなを呼んだ。


「にしては時期がおかしくない?汐凪、何かあった?」


美珠は相変わらずぼんやりしているが問題はないだろう。


「私、休学するの」


三者三様に驚いた。


まなは目を見開き、さやはまなと私の顔を見比べて、美珠は顔をこちらに向けた。


「いつまで?」


「さあ。期間は決まっていない。その間、最優秀の責務を代行して欲しいの。

美珠は生徒会、まなは外交、さやは上との調整。

一人分の仕事を三人でわけるから、一人当たりの負担は今とそんなに変わらないと思う。

どうかな」


さやは穏やかで大人ウケがいいし今までも私が行けないときは代わりに会議に出てくれていた。


他二人も似たようなものだ。

既にやっていることが少し増えるだけ。


「はじめからそのつもりであたしたちに手伝わせていたの?」


「んー、そういう側面はあったかな。でも私は三人だから任せられると思った。」


はじめからいなくなることは決まっていたから、そうなった時に困って欲しくなかった。


「ごめんね、いきなり頼んで。来週までに考えておいて。」


「やる」


一番意外な人物…美珠が手を挙げた。


「あたしもやるわよ。こんな機会、逃すはずがないじゃない」


さらに意外なことに、さやが渋っている。


そういえば前に私如きがいいのかみたいなことを言っていたっけ。


「考えておいてね。」



「休学、再来週のはじめからで通ったよ。」


「ありがとう、任せてしまって。」


綾波はさくっと適当な理由をでっち上げて期限指定なしの休学をもぎ取ってきた。


「これぐらいはね。用意手伝うよ」


「なら、寮長になって」


「……えっと?」


綾波を寮長にするのは密かに考えていたことだ。当主だし、適任だろう。


「綾波を寮長にするって言ってるの」


「なんで私?!」


「嫌なら部長ね。選んで」


綾波はゴロゴロ転がってから上半身だけを上げた。


「両方やる。」


綾波は引き受けてくれると思っていた。


「ありがとう!じゃあ早速手続きしてしまうね」



それから二週間もせず、私は学園を去ることになった。


「気を付けて。」


「ありがとう。綾波もがんばってね」


綾波はにこりと笑った。


「いつか、戻ってきて。そしたらみんなで遊ぼう」


いつか、すべての役目が終わったら。


「うん。」



「早良、霧氷!」


八谷神宮にたどり着いた時には二人ともすでにいた。


「汐凪。」


早良はすでに執政官の服に着替えていて、用意は整っていた。


「もうやりましょう。死者が多すぎます」


霧氷の手を取り、私たちは荘園へと向かった。

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