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人形シリーズ  作者: 古月 うい
一部 人形の一族

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8/88

人形たち、成人

「さーて、瞳に関してどれだけ知ってる?」


そう聞かれたものの、手にされた大量の本の方が気になる。明らかに(ごう)の持てる量ではない。


早水(はやみず)に聞いたぐらいで、ほとんど知らない。世界の執政としか。」


「そう。なら、式神たちにする教育から始めるよ。それでいい?」


そうして、本当に基礎の基礎から教えてもらうことになった。


「さ、この教材からね。一応どこまで知っているか聞くから。きよ、じっとしていないの。長はいいの?」


江に言われて清はさらさらと音を立てつつ、去っていった。


「さ、続きをするよ。座って。」


その日は、知っていたことの復習で終わった。


ただ、認識が違ったり逆に内内にいるからこそこちらのほうが詳しくないこともあり、新たな発見が多かった。



「今日はここまでね。これ、読んでおいいて」


ポンと渡されたのは大遠野国(おおとおのくに)の古典だった。


試されていると感じて、2回読んだが眠ってしまった。


夕日が頬にあたる。暖かさに包まれて気持ちいい。



「さあ、昨日渡した本はどこまで読んだかしら?ごめんなさいね。時間があまりないからところどころ本で補ってもらうことになるよ。」


5か月でも短いのか……どんな教育が敷かれているのだろうか。まあ、どんなものでも吸収して見せる。


「今日は成人についてよ。成人によって瞳一族は力を確立し、存在を認めらる。その際、羽織を長から与えられるよ。それがこれ……まあ、これは清のものなのだけれど。」


触らせてくれた羽織は薄くて軽かった。なんとなく、いい力を持つものだろう。


「これは通称、”羽衣”。力を安定させるものよ。」


羽衣は、確か移儚夜(うつりはかなよ)に出てくる天女の衣だ。……よく考えたら、瞳一族は天女と呼ばれても仕方ないかもしれない。


「成人すると部屋ができたり階位が与えられたりするから、結構重要だよ。私が成人したのはもう80年近くまえだから、そんなに覚えていないのだけれど」


そんなに……ということは私が派生したころか。


「成人は、どうなると成人なの?」


「んーふつうは清の宣託できまるよ。汐凪(しおなぎ)は、長が宣託を受け取ったらしいけれど。」


なぜ私だけ違うのか。まあ、今は関係ないことだ。


「成人までにこれを習得するのと、所作についての指導を3日以上受けること。これが必須になってくるから、頑張って。」


そう、持ってきた大量の書物を指さした。


5か月か……頑張ろう。そうしたら、また結たちにあえるんだ。これぐらい、こなさないと。




「うん。4か月。ぎりぎりだったけれど、成人教育は終了だよ。」


「やったー!」


終わる気がしなかったが、もう鬼のような教育を経て終了できた。


「間に合わないと思っていたよ。」


「高を括らないで。」


後ろには扉に手をかけて立った清がいた。後ろには早良(さわら)がいる。


「清。そっちも終わっていたのよね。」


「ええ。」


「どういうこと?」


清はにこりと笑った。


「わたくしの宣託により、早良を成人させることになりました。」


早良が……


「瞳直系でなくても成人できるのだね」


「私たちの代では初めてだよ。前に繫栄能力を持っていた人がいたかはわからないけれど。」


おかあさまのことか……


「まあ、来月に成人だから頑張ってね。手順は覚えた?」


「一応、寝起きでもできるぐらいには」


早良の答えに焦る。まだ全然できていないのに。


「それ一応じゃないよ?」


そんな日々が過ぎつつ、成人になった。




「おはよう。成人だから、さっさと用意して。」


まだ日が昇って間もない時に江から容赦なく起こされて、着替えさせられる。普段の服と形は同じなのに透け模様が入っていた利後ろに半透明のレースが付いていたりしていた。


「これから神殿に行って、神々に報告をします。執政界は大昔は似神界、つまり神の世に似た世界と呼ばれており、この世界において神の代わりとしての役割がありますから。」


なるほど、まじめモードなのだな。


それから禊をして、巫女のもとに行く。今の今まで巫女が誰かを知らないのに危機感を覚えるべきか……


「巫女さま。お連れいたしました。」


「入りなさい」


中には普段と違って鮮やかな青の衣をまとった清がいた。


そうか、そういえばそんなこと言ってたな……


「頑張りなさい。人形にならないように」


意味の分からないことを言われつつ、問題なく終了した。


「これから長のところに向かいます」


ここ五か月嫌というほど存在を聞かされてきた人だ。どんな人なのだろうか。怖くない人だといいな。


移動中の渡殿では、その隣の渡殿に紫の目をした人と白い目をした人がたっていた。多分、執行官第二位(よく)と第五位(はく)だろう。


「長、新たな執行官をお連れしました」


なんだか、いつもより江が委縮しているような気がする。


私はその肩に手をのせてから、中へ入った。


「お初におめにかかります。執政官第一位、汐が孫娘、汐凪と申します。」


「そう硬くならずともよいのに。わたくしも、お会いできるうれしく思います。清が会わせてくれなかったのです。よくここまで生きてこられました。()()()()()()()()。」


長は幼い声をしていた。姿も幼く、黒い衣をまとっていて、目も黒い。幼い見た目に反して、その口調には老齢さと賢さがにじんでいた。さすが執政界の長。


「成人の証に、羽織を与えます。恥じぬよう、励みなさい。」


「ありがたく頂戴いたします。」


これで、大まかな儀式は終了した。


あとは執政官たちへの報告と序列の発表だ。まあ、多分年功序列で6位だろうけれど。


長とともに外に出る。外がまぶしくて、中が暗かったのだと気が付いた。


「五人衆。現在第一位の汐が失踪中なのはまことに残念なことだ。だが、この場に新たな仲間が加わった。汐の孫、汐凪だ。彼女を執行官第六位に任命し、執行官第一位代理とする。」


”執行官代理”初めて聞く役職だ。ひとり分あけて前列左にすわった紫の瞳の人が驚いている。


「よろしくお願いいたします。」


とりあえず頭を下げてこの空気からさっさと外に逃れた。


成人って、大変だな……


ぼんやりと窓の外に出て飛ぶ。


思っていたけれど、ここには鳥の類がいない。魚しかいないぐらいに何もない。


空は紙人形がいるだけだ。


「執政界か……」


次の目標は、役割を見つけてまた4人で行動することだ。明日、清にでも頼もうかな……


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー???ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「汐……」


わたくしは汐の身代わりだった。


そのためだけに生かされていたのに、あの子が来てしまった。


うれしい、憎らしい、愛したい、奪わないで。


いつか、彼女を傷付けないようにしなくては……

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