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人形シリーズ  作者: 古月 うい
第四部 見破られない人形 学園編

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後始末

「お久しぶりです、学園長、生徒会副会長、生徒会役員の方々。」


珍しく優雨が敬語を使って、いわゆる普通の話し方をしている。


「本当に久しぶりね。優雨、この度の不始末はどうした事かしら?」


わあ、流石内親王。目も笑っているのに、怖い。


そしてなんでこんな早くに集まっているの。何も知らなかったのだけれど。


「わたくしたちもわかっていないのです。

いつものように依頼があり討伐に向かいました。

倒すところまではいつも通りで、何も異変はなかったのです。

報告された悪霊の数と倒した数が一致しなかったことから式神に調べさせました。

その時にはすでに学園に近かったので式神を使って学園長、副会長、汐凪に知らせました。」


優雨は、私を五木と呼ばない。そういう場なのか。


一通りの報告書をして、質問を受けるところになった。


「なぜ五木さんを入れたのですか?今は正解だと思いますけれど、その時にただの学生に送ろうとは思わないでしょう。

卯木先生ならまだわかりますけれど、わざわざ卯木先生を除いて五木さんに送った意図は?」


うん、三井さんの指摘は納得だ。


私だってわからない。こっちに振られたら、早良に投げようかな…


「汐凪の力を、立場を理解していれば自然です。

それに卯木先生ほどの方なら、知らせずとも理解なさるでしょう。式神がつく方が遅いです。」


卯木先生、本当に凄かったもんな。


すぐに事態を把握して結界を張った人物を特定。

生徒の混乱を防ぎ被害を最小限にするための措置と機材確認を同時に行う。

戦闘不能になった先生を避難させ…


綾波から聞いた話を繋いでいくとこれが五分以内のことだから。


「五木さんの立場とは?」


学園長、それ聞きますか?


「早良、いい?」


早良は視線を彷徨わせたあと、こちらを見つめてくる。


私が判断しろということか。


優雨が隣から肩を突いてきた。


「知らせてもいいだろう。最優秀になったらいずれ知られることだ」


あ、口調。


「優雨はその口調でいいわ。あなたの敬語は違和感しかないもの」


氷舞宮の許可が降りた。


今は、優雨の口調ではなくて、明かさないと。


「長くなりますが、一気に説明しますね。

初代天上大御神はこの地にいらっしゃったとき、荘園を開かれました。

荘園はもとはただの島。

そこは、妖怪たちによる自治が行われておりました。

初代天上大御神はそこに侵攻し、妖怪たちの中から三人を選ばれました。

すなわち武に秀でた鬼の鬼姫、知に秀でた天狐の狐姫、徳の高い雪女の雪姫。

彼女たちは隔離れた荘園の中から人が出ないように監視をすることを命じられました。


荘園の中の話に移りましょう。

中は大きく四つに分かれております。

全員が夢を見る夢見幾世、寿命の短い移儚夜、大きく荒れた大遠野国、荘園の監視をする寿命の長い瞳一族と呼ばれる執政官たちの住む執政界。

それぞれに巫女がおり、その土地の長をしたり神と交信したりしております。」


崩壊まで伝える必要はない。今は立場を説明するだけ。


これは、神話に入れたいと思って考えていた文章。

だからつらつら述べられる。


「わたくしと早良は、執政官なのです。わたくしが第一位で、早良が第五位。」


江が継続不可能になったので、出る直前ぐらいに早良が繰り上がった。


「荘園の執政官は命令能力、結界能力を必ず持っております。

汐凪は歴代でも特に能力が強い人の中に名を連ねるほどの実力者でございます。

これらを土御門さんの方に共有させていただいておりました」


早良が私の知らない補足を入れる。


「えっと?」「強くて偉い?」


うん、そうなるよね。ポカンとしている生徒会の二人が正常な反応だ。

他三人の反応がおかしいだけで。


「まあ、予想はしていたがな。規格外の能力持ちで、人体実験の成果なのかと。

斜め上を行かれたが」


学園長も平静を崩さない。


「えっと、いきなり神だの荘園だの言われても、混乱したり驚いたりは…」


「するな。」


ならどうしてこんなに落ち着いているの!


「この程度では隙は見せない」


学園長もしかしてそっち?


「年齢も大幅に詐称しています。退学になさりたければご随意に」


「詐称のレベルは超えていると思うが。それに、今から退学になることはないだろう?」


優雨が意味ありげな視線を氷舞宮に向ける。


「命をかけてでも学園の生徒を守ったその心意気。

学園に対して十分な貢献を果たしている。」


ええと、つまり?


後ろの早良と綾波の二人を見ると、早良は私と同じ表情を、綾波はニヤニヤ笑っている。


「五木汐凪を、最優秀とする」


みんなが拍手する中、ぽかんとしていたのは多分私と早良だけだった。


「…え?」


「汐凪、目指していたでしょう?喜ばないの?」


綾波が心底不思議そうな顔をしているが、それはこちらだ。


「当たり前のことだよ?悪霊を祓えなかった力不足に最優秀でいいの?」


「汐凪、最優秀は二年に一人ぐらいいる。過去には十七年不在もあったが、ここ最近はずっといる。

そして、そうそう汐凪の感じるほどの貢献をする機会はない。あくまで一学園の話だ。

むしろここまでの貢献をして選ばれないことはないぞ」


綾波にも似たこといわれたことがあるけれど、学園長の前でいってもいいことなのかな。


ちらっと見るとむしろまんぞくそう。


こうして、私は最優秀になり、帝に会いにいくことが決まった。



「汐凪、みんなの記憶を書き換えてくれ」


はい?


「あいつらの存在は極秘だ。だが漏れてしまった。

そこで、汐凪に書き換えてもらいたいのだ」


ああ、あの悪霊のことか。


「いいように利用しないでよ…」


「何か問題が?

最優秀など、学園に利用される最たるものだ。それぐらいやれなくてなんとする。

それに、こちらにいる術者では5人がかりだ。そこまで人員を割きたくはない。」


はあ、まあ別にいいけれど…


優雨の頼みを引き受けて、学園全体に結界を張った。


「範囲指定。夢境能力。例外、能力科。

霜月十日、みんなはいつも通りに過ごしていた。悪霊など来なかった。」


言い聞かせるように洗脳し、そのまま優雨のところに向かった。


「優雨、これでいいの?みんなが何も知らなくて」


「悪霊の存在など、知らない方がいいだろう?」


そうではないでしょう。


「もし同じことが起きて、知らなくて混乱するのと知っていて混乱するのはどっちがいいの?

知らなかったでは済まされないことが起きるかもしれないのに」


崩壊に際して大遠野国は知らされたゆえ一国が滅んだ。


無知故の暴走だと聞いている。


「私は優雨に同じことになってほしくない」


優雨にはきっと伝わらない。

それでもいい。


私のことなど、理解しなくてもいい。


こんな歪な存在、理解できないだろうから。

してほしいとも思わない。



「汐凪…私はお前を助けたい。」


「無理だよ」


優雨、ごめんね。


理解できない化け物で、ごめんね。

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