表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人形シリーズ  作者: 古月 うい
第四部 見破られない人形 学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/88

番外編 身勝手だね 珠守

「はじめまして、付喪神」


私は、作られた付喪神だった。

普通、付喪神は九十九神と書くように、長い間使われた物に宿る神。


けれど私は違った。

時神であり英知の神である千姫によって意図的に作り出された。それも、三日とかからずに。


「あなたは,汐凪を見守ってもらう。」


「しおなぎ?」


千姫は、赤い服を着た女の人だったということしか覚えていない。

作った人だから母にあたるのだけれど、感慨はなかった。


高位の神に抱くという恐ろしさすらなく、ただ赤い人だと思っただけだった。


「そう、汐凪。あなたが汐凪のそばにいる時間は長くはない。そうなったら、こっちに来なさい」

汐凪のそばにいればいいのか。


そんな雑で意思があるのかないのかすら疑わしい程度の思いだった。



見守れと言われた汐凪は、確かにいい人だったし、世界が彼女に期待していた。いや、そのように仕向けられていた。


「珠守はどう?玉を守る」


汐凪は、私に名前をつけてくれた。

それは少し嬉しかった。


何回か汐凪と会話したが、そのぐらい。ほとんど会話も交流もなく、私が神座である簪から出ることはなかった。

それでいい。近づきたくないと思っていた。


出ると早良執政官に痛い目を喰らわされそうだったというのもある。

日々がそのまますぎることは、なかった。



「理の外だから」


たったそれだけの理由で、清によって私の神座は壊された。


千姫に生み出されて、それほどしないうちに神座を壊された。

そして、いらないものとして捨てられた。



本来なら神として存在できなくなるところだったのを、霊姫が己の眷属にすることで守ってくれた。


てっきり私のためかと思ったら、霊姫はそういう神を集めていた。

何をしたいのか何もわからない。それでも、生きるためにそこにいた。



「あなたたちには、汐凪の行くことになる学園に編入してもらう。」


1番新人の私と、付喪神の中では一番高位の人に与えられたのはまたしても汐凪に関することだった。


「汐凪の監視、それが役割です」


まず先に先輩が、汐凪が編入する年に高校受験という形で特進科に入学した。

私は間に合わ来年に入学する、ということになった。


実際は私の方が階位が低い分環境にすばやく適応できる。


でも、階位からして私がこの人を支えるという形でないといけないらしい。

面倒極まりない。


「こんなことをしなくても…」


「あなたの方が階位が上なので」


そう納得させるしかない。


悔しいと思っていることを出してはいけない。

この扱いの差に理不尽を感じてはいけない。

私の方ができることを示してはならない。


私の方が階位が低いから。


「でも、あなたは名持ち。私は名前がない。それだけでも、あなたは私より…」


私は彼女の口を塞いだ。


それ以上は言わないで。あなたが言ってもいいことではない。


「家事は分担しましょう。こちらの人たちは,分担することが良いとしているから」


そう言われて、結局分担した。


私は編入試験を早々に受けて入学を確定させたので、ほとんど暇だった。

することもなかったので家にひきこもった。



「あなた、淡々としているね」


そう指摘されたのは夏のころ。


「そう?」


受け流しながらも内心焦った。


今まで、確かに感情に任せてあれしたいこれ欲しい言ったことはない。


付喪神は、長く使われた道具に宿る神。

使われた年数分経験も知識もそこらの中級神より多い。

故に付喪神は重宝されるし、尊敬される。


神は人として生まれることで感情を獲得する。


付喪神は長く使われることで獲得する。


けれど私は生み出された。


千姫によって本来経るはずのことを全てすっ飛ばして。


これで感情が獲得できるはずがない。そもそも大半の人より生きた年数がすくないのだ。


なのにそれを責められても、私にはどうしようもない。



編入の日がやってきた。


「九十九…なんと読むのですか?」


「それは…」


私は、汐凪に名をつけられたか弱い付喪神ではない。


「しゅま、と読みます」


教室で真っ先に見つけたのは驚く汐凪の顔だった。


「九十九珠守です。」


私は仮面寮生として寮に入った。


まず真っ先に汐凪と同室になれないか申請してみた。

予想通り撥付けられた。


それでいい。


同室だった子は気がついたら退学していた。私のせいじゃない。


これで一人部屋になったので心置きなく今までの暮らしを続けるられる。


寮の費用は滞在した日数分しか請求されないので、私は毎日外泊として家に帰った。


「汐凪から接触があった。きっと早良にも伝わった。」


予想通り。


それからは大人しく、ただのクラスメイトとして過ごした。



「汐凪が最優秀候補になれる事件を起こす?」


提案した張本人である彼女は悪びれもしていなかった。


「いつまでたっても動きませんから。

いま、汐凪に足りないのは学園に対する貢献。なら、作りましょう。」


「ずるでは?」


今更か。そもそも汐凪が保護されたのも巫女になれたのも全て他の人の手回しが入っている。


英雄なんて、そんなもんだ。


「汐凪が代表として動くことになるのは、特進科において私と水川という人が動けなくなったとき。

能力科は?」


「代表はランダムだから狙えない。

何か、事件でも起こす?犯人に仕立て上げられそうな人なら知っている。」


みんなからの批判に晒されていて、酷いことをしたら納得されそうな人を。


「じゃあその人で。内容はてきとうでいいか。

汐凪が動くよう仕向けるのは私に任せて。あなたは周辺の調整ね。」


その後打ち合わせて細かいことが決まった。


彼女は、さんに凶行に走らせて、汐凪に調査依頼が向くように仕向けた。



汐凪が呼ばれたのを見計らって私は外に出て、綾波に声を掛ける。


「汐凪が男子部との境界の辺りにいるよ。私が教えたっていうことは言わないで」


「どうして?」


綾波はいい人だ。汐凪が傾倒するのも無理はない。


「私、汐凪に嫌われているだろうし」


「そんなことないと思う。あなたが編入してきたとき、汐凪はあなたに目を奪われていた。汐凪のあんなかお、見たことない」


それ、驚きと恐怖と猜疑心だと思う…


「クラスメイトのよしみで黙っておく。」


少し時間を稼いで綾波を送り出した。


次に花野の元に向かう。


「汐凪が?」


「きっと力になれる。綾波が言ってたの。行ってくれる?」


花野はきょとんとしてから頷いた。


「九十九さんは、五木さんのことが大切なんだね」


「…五木って誰?」


今度は私がきょとんとした。


「五木さんは五木さん。五木汐凪」


そんな名前なんだ…


私がしたのはせいぜい人に嘘の証言をさせ、人を向かわせる程度。


この事件で、汐凪は最優秀候補生になった。



「ねえあなた、霊姫のやくに立ちたくない?」


「別に」


助けてもらった恩はあるけれど、その程度だし。


「なら、汐凪が死亡する確率を上げたい?」


「嫌だ。…私に何をさせたいの」


この問答をやりたくない。


「堕ちて」


…今、なんて?


「それは、祟り神に堕ちることであっている?」


「うん。意図的に堕ちることができるか。できないならこれ使う。堕ちる薬」


どんな薬なのよそれ…


「ねえ、ひとつ聞いていい?なんで私のことを珠守でも珠守でもなく、二人称で話すの?」


二人で行動しはじめてからずっと、あなたと呼ばれている。


「名前があると認めたら、私に名前がないと認めること。」


なるほど、彼女の誇りなのか。


今は九十九蜘蛛と名乗っている彼女。誇り高き付喪神のリーダー。


「いいよ。堕ちる」


みんなみんな勝手。


勝手に作って、勝手に壊して、勝手に眷属にして勝手に見下して勝手に利用して、挙げ句の果てに勝手に堕とす。


私の望みは誰も理解しない。


ただ、対等な友人が欲しかっただけ。


なのにどうして、こんなことになったのだろう。


みんな勝手。勝手に生み出して、壊して利用する。

そうして、誰も彼も私を覚えてはいないのだ。

わたしは珠守が結構好きです。

毎回出てきてすぐに消してごめんね…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ