最優秀候補
「五木汐凪を、最優秀候補生とする」
学園長に、そう言われた。
学力と、この間の学科長代理としての働きが評価されたとのことだ。
「こんなことでいいんだね。」
「汐凪、最優秀はせいぜい一学園のものだからね」
綾波に呆れられてしまった。
「これからが勝負。最優秀不在が続くのは良くないから、今年中には最優秀が決まる。頑張って」
前最優秀の優雨は陰陽の関係する大学に進学した。
陰陽に入る人たちは高校までしか出ていないことが大半、だからこそ大学にいくとのことだ。
私は卒業までここにいるのかな。
「明後日、候補生の集まりがあるって。綾波は候補生について何か知っている?」
「知らない。」
最優秀候補生でもそんなものなのか。うわー、なんだかいくのが怖い…
「最優秀候補生の五木汐凪です」
ドアを3回叩いて名乗って中に入る。
「いらっしゃい。あなたの席はこちらよ」
中にいたのはきっちりと制服を着こなした、でもどこか高飛車な少女。
「あたしは五年の松沢まな。他の人が来るまで大人しくしてなさい」
そう言いながら紅茶とコーヒーと緑茶とジュースを冷蔵庫から出して並べている。
「さっさと取りなさい」
慌てて緑茶を手に取って飲む。
しばらく二人で大人しく飲み物を飲んでいると、松沢さんが立ち上がった。
「きたわね」
扉を開けるとよそ見をしている人ときっちりとした人が立っていた。
「さっさと座りなさい。飲み物をとって」
松沢さんがここを仕切っているのか。でもそれでいいの最優秀候補生。
「こっちが妻問美珠。普通科進学の中高一貫六年生。名門のお嬢様よ。」
ずっと興味なさそうに口を開かずにそっぽを向いている。
「私は三立さや。特進3年のの特待生で寮生。」
「五木汐凪です。八谷神宮の上級巫女、編入生で能力科と特進科の五年、寮生で特待生です」
私だけ肩書きが渋滞している…でも巫女はいるし学園の所属もいるし…
「劇の?」
えっと、妻問さんだっけ。
「よく覚えておられますね」
「美珠は一度見たものは忘れないからね」
「そんなことが?!」
すごい能力だ。
だから最優秀なのかな。私は人に協力してもらわないと何もできないのに。
「そうそう、新任者にこれを渡せと。つけておきなさい」
…紐?
ビニールに包まれて渡されたのは、金に少し赤い糸が混ざった紐だった。
「スカートのここにつけるの。最優秀候補生の証だよ」
確かによく見ると3人ともスカートのところに紐をつけている。
「三立さんは…」
「さやでいいよ。」
さやか。さやさんは呼びづらいし、本人の申告通りさやでいいか。
「なら、私のことも汐凪で。五木汐凪は語呂が悪いですから」
なんだか呼びにくい名前だから、みんな汐凪と呼ぶ。
「わかったわ。今日集まったのは顔合わせと、学園祭について。生徒会長も来られるから、しばし歓談しておけってさ。」
生徒会長に敬語?最優秀候補生でも、生徒会長よりは立場が下なのだろうか。
「会長か。」
「あの、生徒会長に何かあるのですか?」
なぜかまなは視線を逸らしてしまったのでさやに視線を向ける。
「あはは…この学園の生徒会長は、最も身分の高い生徒に任されるの。最優秀が副会長になって支える、という構図よ。
今の生徒会長は、斎宮魅夜さまの異母妹にあたる、二品内親王氷舞宮さま。」
にほんないしんのうひまいのみや?
斎宮魅夜と呼んでいたのを考えると、おそらく氷舞宮が名前なのだろう。きれいな名前だな。
「あの人、良くも悪くも女御腹の内親王ですから。」
まな…そんなふうに言ったら怒られるよ?
「わたくしは、氷舞宮の遊び相手だった」
美珠が口を開いた。もうこの人が無口なのだとわかっている。
内親王の遊び相手って、美珠はどれほどの名家の人なの?
「妻問家は帝にお仕えしていて、順調に行けば美珠は氷舞宮の側仕えになるの」
さやの解説がありがたい。
…私、どこに行っても常識がない人だな。これでも日常会話ならこなせるのに。
「さっすが特待生なだけあるわね。出自の知れない人にお優しいこと。最優秀への点数稼ぎですか?」
まながさやを煽りに来る。
「そうは言いつつ飲み物を渡してわたくし優しい〜って自惚れているの?成金は大変ね」
さやも負けじと応戦している。美珠は他人事でそっぽを向くだけ。
おねがいだから私を挟んで喧嘩しないで…
「鎮まりなさい」
パシンという扇子の音が部屋に響いた。
どこか安心する声が、威厳ある声が響く。
それに反応して二人が大人しく席に座る。
「氷舞宮。」
美珠の言葉でこの人が、魅夜の妹にして生徒会長、氷舞宮。
氷舞という名に相応しく、氷のような冷たさを持つ人だ。
「全く。最優秀候補生なのに仲間内で貶し合いとは、落ちたものね」
うわあ、すっごい人が来た。
「改めまして、北寺学園女子部中高一貫コース五年所属、生徒会長をしています。
二品内親王氷舞宮と申します。汐凪のことは、姉上から常々」
えーっと、中高一貫コースの入学年齢は12歳だから、今17歳か。
「能力科、及び特進科所属の編入生で四年生、八谷神宮上級巫女の五木汐凪です。」
よろしく、と笑う彼女は確かに内親王足る威厳がある。
「さあ、今回の内容を説明するわね。美珠、お願い」
美珠は心得たようにホワイトボードをどこからか運んできた。
「学園祭は、こんな早くから始めるのですね」
「そういうわけでもないでしょうね。去年はやらなかったもの」
なぜ今年やるのだろう。
「最優秀が不在となったから、その埋め合わせでしょう。少しは頭を働かせなさい」
まな、手厳しい。
去年までは優雨がやっていた仕事をやるということか。
「そこで、まずはクラス別の演目くじ引きを任せますね。全て覚えて報告してください」
これは、美珠が得意そうな分野だ。任せっぱなしにするわけにはいかないけれど。
「あとは、学園祭当日まで文化委員と生徒会との連絡係、当日はトラブル対応、をお願いするわ。できる?」
氷舞宮の言葉にはどこか逆らえない。命令能力があるわけでもなさそうなのに。
「わかりました。」
氷舞宮は満足して帰っていった。
次は十日後になるらしい。
「氷舞宮、すごい人でしょう」
「さすが内親王だと思いました。斎宮とはまた顔立ちもおふるまいも全く違いますね」
姉妹なのに。
「あれ、知らない?氷舞宮と斎宮は、異母姉妹なの。斎宮さまは皇后腹のお子様で、兄が東宮陛下。
氷舞宮は女御腹。」
あ、そうだったの。異母妹もいもうとと読むからてっきり同胞かと思っていたら。
「その割には、姉の庇護を受けている私を嫌悪なさっていませんでしたね」
「異母だからと言って仲が悪いとは限らないからね」
なるほどね。
学園祭まで、学校生活に加えて最優秀候補として各場所とのすり合わせの日々だった。
特進科の学科長は私が尽力したのも虚しく交代になり、私が後任を務めることになった。
夏休みには去年と同じく陰陽の手伝いと神宮の手伝いに行った。
九十九の二人は特に何も接触してくることはなく、穏やかに、そう、異様なほどに穏やかに日々は過ぎていった。
いい加減悠長かなと思ってきたので今年はさっさと飛ばします。
三年目に色々詰め込む予定なので




