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人形シリーズ  作者: 古月 うい
第四部 見破られない人形 学園編

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冬休み

「早良ー!」


「その服では手を振らない。忘れられましたか?」


早良は厳しいなあ。


「久しぶり。少し報告したいことがあるから、いい?」


流石に報告はしないとね。早良だし。


「どうぞ。神宮が休みだから」


「準備は?」


年末年始の神事のための休み…つまりは神事の用意の仕事があるはずなのに。


「明日からは沢山あるけれど、今日はない。二組に分かれている」


ああ、確か連勤はしきたりでできないのだよね。



「で、どうした」


「綾波、和歌の家系の2つで適性があれば受け入れて貰えることになった。」


これでだいぶ行けたのではないだろうか。


「こっちも、宮司や神官として受け入れてもらえることになった。頑張ったね」


「えへへ」


やはり早良が安心する。優雨は母のように心配してくれるが、私にとってはまだまだ子供。頼るとか、甘えるとかはできない。


早良は私より一応年上で、いつもそばにいてくれた。


「私、早良に味方でいてもらうためなら、きっと何だって厭わないよ」


いきなり、脈絡もなく宣言すると、やっぱり驚かれた。


「汐凪…なら、どうして祐をああしたの?」


人形のことか。


「理由は、特にないかな。目の前に死にそうな人がいたから。」


けれど早良は私の本質を知っている。


「あなたは執政官。そんなことするわけない」


そう、祐は理の外の、異質な存在。それを作ったのは私だ。


「好きだった?」


「違う。」


ねえ早良、私はあなたが好きなの。かけがえのないほど愛しているの。なのに、どうしてわかってくれないの。


「早良…」


「触らないで」


伸ばした手は払いのけられて、触れた手は暖かかったのに。


早良はその日、夜遅くまで部屋に帰ってこなかった。帰ってきても、何も喋らなかった。




「汐凪、久しぶり。」


「…霧氷?!どうしてここに」


境内の見回りをしていると、霧氷に声をかけられた。


「お久しぶりね。元気でしたか?」


「ええ。汐凪もお変わりないようで。」


にっこりとわらう霧氷は神界にいた時よりも威厳がある気がする。


「なぜこちらに?」


霧氷は来るが必要ないはずなのに。


「向こうの混乱でこちらにまで手が回らないのです。ですから、私が説明に出向いて参りました。」


わざわざ霧氷が出て来るぐらいまで混乱しているのか。…どのくらいか想像がつかない。


「説明をしたいので、早良を呼んでこれる?そもそも今抜けられる?」


慌てて確認するときにショートカットが揺れて愛らしい。


「今から昼休憩なので、40分ほどなら」


十分という霧氷の鶴の一声で霧氷を呼びに行った。


「早良、霧氷が来ている」


「わかりました。」


霧氷と共に矢口の部屋に入って、三角形になって座る。


「荘園からの連絡が、大遠野国寒国の崩壊以来途絶えています」


ああ、あれか。私に転送されていないわけではなく、本当に来ていないのか。


「こっちに報告は上がっています。ですがまあ…今の状況は知りたいですか?」


二人で同時に頷く。知ると知らないは大違い。知らないでは済まされないから。


「まず、大遠野国は寒国がなくなったであっています。


地震により鬱憤の溜まった豪族が反乱を起こし、火の巫女が国ごとなくして解決させました。


3割ほどの家屋が地震により倒れ、交易も途絶えがちになり餓死者、凍死者がでています。」


はじめ、ということはこれが一番ましなのか。


「移儚夜は家屋の5割が倒壊。修復が間に合っていない。


民間の支援には限界があり、死者数が異様に多い。


こういう時に限って井戸に毒を入れる人も火をつける人もおり、安全地帯はないと言ってもいい。」


結、そんなところの臨時巫女に…大丈夫なのだろうか。


霧氷はお茶を半分まで飲み干して、新しいお茶を注いだ。


「執政界は最低限の生活に必要な物資の配布を泊が、巫女への指示を清が、死者の対応を江が、要求の吸い上げや被害の確認を沃が。ここは、その時々で変化します。」


江もきちんとやっているのか。よかった。


「神界では人員が減り、今ではいくつかの付喪神と領主、その他数名程度しか存在していません。」


まさか、神界にも影響があったとは。


「神界も減るのですか。」


「むしろ、一番被害が出るのは神界かもしれません」


…どういうこと?


「荘園の崩壊はすなわち神の限界。荘園を維持できないほど権威が弱まっているということなのです」


この子は、幼いけれどしっかりとした神なのだ。時々それを忘れそうになってしまうけれど。


「一度荘園に戻らせてください」


みんなを放っては置けない。執政官が、こんなところでぬくぬくしていてどうするの。


「できません。二度とこちらに戻れなくなります」


なぜ。


「戻れないとは?」


早良の質問に、霧氷は冷たく続ける。


「荘園とこちらは、往復切符しかないのです。片道で止まっても良いのですけれど、戻ると二度と行き来はできません」


え…もう二度とここには戻れないの?


「一応救済は存在するにだけれど、今するとあなたが消えるからね。そちらの報告も聞きたいから、教えて」

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