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人形シリーズ  作者: 古月 うい
第四部 見破られない人形 学園編

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文化祭

「文化祭です、本日、2時から舞台なので一時には揃って着替えているように。それまで、解散です!」


早良は午前中は一人で見て回るらしい。そして、午前中は綾波は店番をしている。つまり、午前中は私一人だ。


今のうちに行きたいところに行こう。例えば古典部とか、神話についてとか。


ここら辺は展示発表なので、多分五階だ。階段しか使えない縛りなのでとても疲れる。


「あった。」


やっぱり妙なのだよね。なぜ荘園とこちらの風俗に共通点があるのかを


「あ、天女についてだ」


そのポスターは比較的大きな模造紙に書かれていた。


羽衣伝説、かぐや姫、神話での天女などなど多岐にわたる天女について書き連ねてあった。


「『天女は天界に帰りたいと泣いていた…』」


なら帰ればいいのに、なぜそうしないのだろう。


「天女に興味がおありですか?」


声をかけてきたのは初老の男性だった。古典の先生なのかな?


「私、劇でかぐや姫をやるので少し気になりまして」


「そうですか。私は、本物の天女を知っていますよ」


本物の…天女?


「詳しくお聞かせ願えますか?」


「もちろん、こちらへ」


案内されたのは社会科の先生の部屋。


「社会科なのですね」


「天女については、趣味の範囲ですよ。」


趣味なのか。


「さて、何から始めましょうか。


私の実家のあったあたりには、神社がありました。その神社では天女を祀っていた。曰く、天女が舞い降りた場所だと。」


それ自体はまありそうな話だ。


「その神社には、代々神職を務める家系がありました。名は忘れましたがな。


そこに、祖父代に女の子がいたらしいのです」


その女の子が、天女だと?


「女の子は水葉と言いました。明るく、舞踊の腕がずば抜けていました。村の小さな男の子たちは皆彼女に夢中でした。」


彼はふふッと懐かしそうに笑う。彼より昔の話のはずなのになぜだろう。


「その神職の家系は舞い降りた天女の末裔と言われておりました。それで、女長子を天女と呼ぶ習わしがありました。


とはいえ、ただのあだ名のようなものだと思っていたのです」


彼はお茶を一口飲んだ。皺の刻まれた手が湯呑みを握りしめる。


「彼女は十歳になった頃から帰りたい帰りたいと泣くようになりました。まるで、お伽話のかぐや姫のように。」


彼はなおも続ける。


「皆は不思議がり、君悪がられ当時の神職によって神社の社の中に閉じ込められました。


そして、彼女は12の歳に、消えてしまったのです」


「消えた?」


昇ったではないのか。


「ええ、跡形もなく。その後、村は崩壊し土砂崩れによって道も閉ざされています」


何が天女なのか、何も証拠はない。けれど、一つ思い当たる人がいる。


「それは、何年前のことですか?」


「約百三十年前だと聞いています」


名前に水、百三十年前、舞踊が得意…


「なぜ、私に話してくださったのですか?変人扱いされるのがオチでしょう。」


その人は笑った。まるで、救われたような、清々しい笑み。


「あなたの舞を見せてもらいました。彼女の舞にそっくりだった。


きっと、彼女に育てられた天女でしょう。」


「少しお待ちください、百三十年前と言いましたよね。なのに、舞を覚えておられるとは?」


流石にないでしょう。執政官でもない限り。


「ある時から、歳をとりづらくなってしまいました。これでも、百五十歳なのです。」


それは…


「お幸せですか?」


「正直、もう死んでしまいたいです。家族も皆死に絶えました。私一人です。」


彼からは心残りを何も感じない。ならば…


もしも、あなたが望むのなら、私に一つだけできることがある。それが救いになるのかどうかはわからないけれど。


「結界、範囲指定。夢境」


幸せな時に閉じこもって、死を待つといい。


夢は、いつでも一緒に泣いてくれるから。


私も、そうできたらいいのに。


「あ!時間!」


慌てて戻って、劇までにご飯を食べる時間はなかった。




昔々、天女は地上に降り立った。


帰りたい帰りたいと願い続けたかぐや姫、羽衣伝説の天女。


そして、空に登った天女の末裔。


彼女たちの願いが叶えられることはなかった。


それはきっと、荘園の理ゆえのこと。


かぐや姫は地上に戻りたいと願った。けれど、再び移動することは叶わなかった。




「お疲れ」


「早良、きてくれたの。」


久々だ。二ヶ月ぶりの早良は、初めて見る洋装だった。


ズボンがとてもよく似合っていて、キリッとしていてかっこいい。


「学校、いいところ?」


「うん。早良、お昼ご飯持ってない?私食べてないの。ついでに報告したいことがあるから一旦出よう」


外はまだ日差しが強くて、でも風が涼しい。


「で、どうした?」


「え、ここで?」


まさか、昔ながらのうどん屋さんのカウンター席で天女について話すなんて。


「店員さんはいちいち覚えていない。案外、密室の方が難しいと聞いた。」


はあ…


「荘園の人は、前にも何回かこちらにきたことがあるみたいだね」


「と言うと」


「荘園の人は、こちらでは天女と呼ばれている。」


それが私の出した答え。天女の羽衣と、執政官の羽衣。形が違うから別物かと思ったが、どうやら違うらしい。


「こちらの人に言わせると、あの羽衣は領巾に見えるらしいの。」


だから、天女の羽衣と執政官の羽衣は同じもの。


そして、荘園はここから見ると上にある。


「子孫が、荘園に行ったこともあるらしい。


そして、その子孫の名前は水葉。舞踊が得意な子で、百三十年前に、荘園に昇ったと」


「やはり、お母様はこちらの人なのね」


予想はしていたけれどね。


実際そうだとなると、早良がどのような立ち位置なのかいまいちよくわからなくなる。


「わかったのはこれぐらいかな。ご馳走様」


梅入りうどんって結構美味しいのだな。



文化祭はその後何事もなく終わった。

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