夏休み、弐
文月も後半に差し掛かり、いよいよ暑さが殺人的なものになってきた。
少しずつ補講に合格してきて1日の内2回の授業ぐらいになったことで余裕が出てきて荘園のことについて考える時間が増えた。
どうすればそのあとの生活に困らないか。戸籍がない、常識がない。
どうすればいいのだろう。支援を作るにも、14歳で通しているので限界がある。
いつもぐるぐる考えてしまう。仕方ない。
誰も教えてはくれない。私がやるしかない。
「汐凪、すこしいい?」
「はい」
優雨だ。こっちにくるなんて珍しいな。
「あのさ、陰陽師の手伝いしてくれないか?今人手足りなくてさ」
はあ……
「明日なら補講がないので行けますよ」
優雨と明日の手伝いの約束して一人の部屋を見まわす。
綾波は浜浦の家で仕事をしているのだろう。もともと普通科にいたので補修が必要ないのだ。
あした、頑張ろう。
「ああ、そっちにしたのか」
今日は夏用の制服の上から羽衣を着ている。学生と示すためでもある。
「この羽衣は力を安定させるものなので。そうでないとしても、今まで着ていたので安心するのです」
ぞろぞろ、というほど人数も居なけれど優雨とともに現場に向かった。
「土御門のお嬢様、ようこそおいでくださいました。……そちらの方は?」
なんだか前にも似たやり取りをした気がする。
きっとこれからもこのようなうやり取りをする羽目になるのだろうな。
前は不快なだけだったけれど、今ではきっとまたあるという達観がある。
成長したのかな。
「関係ありません。さっさと連れて行きなさい」
おお、強い。
「説明しておこうか。この山に悪霊が出た。それがわかったのが3日前だ。しかし強くてどうにもならない。そこであたしが呼ばれたのだ。
悪霊は何かをぶつけると消滅する。それさえわかれば大丈夫だろう。」
たどり着いたところはどこか懐かしい空気が漂っていた。
「土御門さま。いつ行かれますか?」
「今日。早い方がいいでしょう。この人も連れて行きます。」
てきぱきとやりとりをして現場に向かう。
「こんな小娘が?」「役には立たないだろう」
なぜ口に出すのかな。うまくない人たちだな。
現場は悪霊が大量に発生していた。
すぐにみんなが戦闘を始める。けれど私はふるまい方がわからずに守られる側になってしまう。
なにかしたいのに、動くこともできない。
おろおろしていて気が付くと目の前に悪霊がいた。
「おら、邪魔だ!」
押しのけられてよろけてこけてしまう。
何もできないわけではないのに、行動できない。
何もできないだろうと人々がにやにやしながら見てくる。
ああ、いらいらする。
私は執政官第一位、汐凪だ。
「結界範囲指定、対象悪霊」
周囲の悪霊に結界が張られる。みんなが驚いてこちらを見る。
「動くな」
途端にすべての悪霊が動きを止める。
なにもできないとこれからもいわれるのなら、何度でもそのたびに覆してやる。
1人で過ごすしかないなら、一人で認めさせてやる。
ひとりでややるしかないのだ。
周囲の枝を浮かせて悪霊にぶつける。
さっきの人たちが全員あっけにとられている。
ただひたすらいらつきを発散するために次々枝をぶつける。
全てを倒すのに3分もかからなかった。
「お疲れさま。さすが。はい、食べな」
差し出してきたのはインスタントのカップラーメン。
お湯が注ぎたてなのかとても熱い。
「ありがとう」
確かしばらく待つのだったよね。
「これでわかっただろう。汐凪は陰陽にとって役に立つ。今後けなすことは許さない。」
優雨……ありがとうね。
「命令ができるのなら滅べと命じることもできたのでは?」
うわあ、この人本当にあきらめが悪い。
「あなたひとりでこの短時間であいつらをすべて消滅させられたと?ならばあなたには文句を言う権利がありますね」
その人は黙った。やっぱりできないんじゃんか。
滅ぼすのは私の命令能力が強くないから動きを止めるのが精一杯。
「優雨、あの程度の奴らなら荘園の能力持ちなら対処できると思うよ。
荘園の人たちの受け皿になってもらえる?」
「ん~、まあ試験はするが、受け入れよう。合格したら生活は保障するしサポートはできる」
これで一つ解決だ。あとは能力持ちではない人たち。これはだいぶ時間がかかりそうだ。
あれ、そもそも夢見幾世って崩壊するのだっけ。おばあさまがなんとかしているのだろうか。
来週には八谷神宮に行ける。ようやく、ようやく早良に会える。
早く会いたいな。




