能力科
「能力科の実技に入れる。」
綾波が報告してきたのは水月に入ってからだった。
「おめでとう」
「二人そろって、だよ」
私も?能力科の実技は正直もっと早くしてくれと文句を言いたい。
扱いに慣れているし私は早くていいじゃん。
今までは転科生として綾波とも一緒だったが、これからは一人になるのか。寂しいな。
「汐凪も」
「え?」
「汐凪も能力実技の授業に参加できる。
元々先月からでもよかったけれど、試験があるから終わってからの方がいいという判断。」
あ、そうなんだ。
「これで全部に参加できるね。ようやく学校が始まったって感じ。」
「能力科のメインの授業が始まるっていうのに、呑気。
能力科の卒業率が四割弱なのは、能力実技の点が取れないからだと言われている」
うわー、不安。
前回の試験では全ての教科で学年順位が真ん中のあたりだった。
最優秀を目指すなら、最低でも十位にはならないといけない。
「参加は明後日から。うまくできるといいね」
「本日から五木さんと浜浦さんの二人が能力実技に参加を始めます。
それでは、まずはじめにお二人の今を見せてもらいましょうか。
みんなも練習を始めて」
卯木先生は能力科の能力実技の主任だったらしい。能力実技の授業は全学年合同だ。大体300人。
私はとりあえず飛行を使って学校を飛ぶことに、綾波は先生の考えを知るという課題が出された。
綾波は精神感応系なのかな。もしかしたら霊姫との交信ができるかも。
水ってことは未来視もできたりして?
ぼんやり考えながらふわふわ浮かんでいると、したから大声で呼ばれた。
「わたくし、何かやらかしましたか?」
「それほど長く飛ぶなど自殺行為をやめなさい。それと、もう授業は終わりです。」
そういえば優雨が浮かぶのは短い時間だけで、移動はできないとか言ってたな。
私はけろりとしているのに。
「卯木先生、その子は大丈夫だ」
「土御門さん」
優雨だ。いつの間にこちらにきたのか。
「その子はこちらの理が通じない。気にすることはないよ。死にはしないだろう」
んー、それはそうなのだけれどそういう言い方をされるとなんか変な感じ。
「五木、災難だったね」
「花野。そう?」
「そうだよ。でもよかったね。最優秀の土御門さんを見れて!」
あれ、優雨そんな存在なの?
「優雨、そんなに有名なの?」
「そっか、汐凪は土御門さんに後見されているからね。
土御門さんは最年少で最優秀となって、次期陰陽頭となられるお方。しかも凛々しく優しく気高い。完璧なのよ」
へー。優雨はそんな憧れの対象なのか。
「そういえば、これって聞いていいのかわからないのだけれど、花野の力は何?」
「聞いていいよ。そもそも実技受けてると自然とわかるしね。私の力は草木記憶。植物の記憶を読む力。他にもこれがあったあれがあったと木が教えてくれたりするよ」
それで噂とかに詳しいのか。植物さえあればほぼなんでも知れるから、調べずとも教えてくれると。
「みんな、なんだか綺麗な能力名を持ってるんだね。」
「あれ、汐凪はないの?能力が判明した時に能力を包括して名前がつけられるけど?」
あ、そうなんだ。
「勝手に付けれるものなの?」
「いや、んー、そうなのかな?この歳で能力科であれだけ使いこなせて能力名がないのは不自然だから、勝手につけていいんじゃない?」
その口調に少し不安になったので斎宮と優雨に聞いてみることにした。
「変に思われるから、むしろつけろ。能力はなんだ?この場で明かしてもいいものだけで」
優雨がすぐに決めてしまったので斎宮へは事後報告にしておく。
「飛行、結界、命令、能力譲渡ですかね」
これで一つの名前にまとめるのは結構難しい気がするけど、大丈夫なのかな。
「なら、何も全てを包括する必要はないのではないか?いっそ牡丹花睡猫子とかでもいいのだけど」
なにそれ。ぼたんかすいびょうじ?
「牡丹の花の下に寝ている猫に近づくと猫が逃げてしまって、その猫は寝ていたのか寝ているふりをしいたのか考える、という話。私は胡蝶の夢推し。
胡蝶の夢は、夢が現実かわからないことのたとえ。夢みたいな力を持っているから」
胡蝶の夢は知っている。早水が教えてくれた言葉の中にあった。奇妙だな、荘園の本には載っていなかったのに。
結果胡蝶の夢に決まった。短くて綺麗で聴き慣れていたからだ。
「早良へ
能力科の授業が始まりました。
能力に名前をつけなければならないと言われたので私の能力名は胡蝶の夢になったよ。」
その他にも二、三書いて送った。最近は手紙での敬語が抜けてきている。
返信が楽しみだ。




