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人形シリーズ  作者: 古月 うい
第四部 見破られない人形 学園編

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試験

「五木さん、特進科の普通授業に参加することを許可します」


やったあ!


入学して早二か月。


もうそろそろ長雨になるらしいけれど、それが信じられないほどに暑い。

こういうところは荘園と同じだ。


ようやく能力系科目以外の全てに参加できる許可が出た。

これからは共通科目は能力科で受けて、主要教科と呼ばれるものは特進科で受けるようになる。

どうしても授業がかぶるので、そこはやはり補修や休みの日になんとかするしかないけれど。


ようやく学校が始まったという感じがする。


「綾波!明日から特進に参加できるよ!」


「おめでとう…今月末試験だけれど、大丈夫?」


試験とは……尋ねると変な顔をされたが教えてくれた。

もはや私が人とは違うのは綾波の中で常識になっているらしい。


いつか、伝えて本当に友達になりたいな。


今はそれより荘園だけど。


「試験というのは、この学園では年に2回ある、授業内容を理解できているかどうかを調べるもの。

これの成績が直接特待生や最優秀に関わっているから、がんばれ」


嘘でしょ!?特待生剥奪になるかもってこと?

…私、初めて剥奪される側になった。こんな気持ちなのかな。


というわけで、特進科の授業の開始で慣れないのに加えて、試験の勉強もすることになった。



朝早く起きて勉強、学校に行って授業を受ける。

放課後は部活があれば部活へ、なければ授業数を合わせるための補講。

終われば寮に戻って勉強。

これらの間にも早良とのやりとりや日常の生活、最優秀のためのその他貢献のために行動したり。


正直のんびり寝ている時間も惜しいぐらいだった。


「汐凪、寝なさい。寝ないと休む羽目になってもっと授業が遅れる」


そう言って寝かされた後もこっそり起きて勉強をした。


予習復習をしないとついていけない。

前提となっている知識すらほとんどないから理解に時間がかかる。


最優秀を目指すならこれぐらいで挫折していられない。




その日は眠くて授業中にうっかり寝てしまった。


「五木さん、大丈夫?」


「花野…汐凪でいいよ。平気。次は副教科の音楽だっけ」


「そう。移動だよ。行こう」


気がつくと授業は終わっていて教室には誰もいなかった。


「うん、行く…」


立ち上がって、目の前が暗くて思わずよろけた…と理解したのを最後に、目を閉じた。



「あ…」


気がつくと火の中に立っていて、ここは荘園だと感じる。


けれど景色は全く違う。


火が煌々と燃えて、人は逃げ惑って、ぶつかってこけて燃えている。


ここは地獄だ。


一歩後ろに下がるとそこはすでに火が回ってとてもではないけれど歩けない。


「汐凪のせいよ!」


「汐凪がもっとやってくれていたら…」


ねえ、教えて。どうすればいいの?

お願い、置いていかないで!




目を開けるとそこは見覚えのない天井だった。

嫌な汗をかいていてやけに疲れている。


あれが夢というやつなのか。夢見幾世の人はいつもこれを?


「五木さん、起きましたか?」


誰だっけ、この人。


「私は…」


「五木さんは休み時間に倒れたのですよ。花野さんが慌てて運んできて、もう大変でした。

ああ、起きないで。」


名札を見て保険医だと分かった。そういえば初めに案内されたっけ。


ペタペタ触られて変なものを脇の下に入れられた。


「うーん、少し熱があるわね。念のため検査するね。」


と言われて保険医は奥から何かを取り出した。

細長い何か。

それを鼻の中に突っ込まれる。


すっごく痛い。


「はい、水飲みなさい。」


渡された水筒の水を飲んでいると保険医が戻ってきた。


「特に病気ではなかったわ。疲れが出たのね。熱が下がれば学校にいっていいわ。

それまでは安静にしていなさい。」


うそ…



「寝なさい!」


帰ってくるなり綾波に怒鳴り込まれた。一応布団に寝転がって勉強道具を開いているだけなのに。


「寝てるよ」


「目を閉じなさい!それだからぶっ倒れたのに何も学んでいないのだから!」


だって働きすぎで倒れるなんて知らなかったし…


「ただでさえ編入生で、しかも二科掛け持ちなのだからもっと器用に生きないと。」


器用に生きる、ってなんだろう。


結局二日間倒れる羽目になってしまった。


しかもそこからちょうど休日になったため合計して五日休む羽目になった。

まあ、休みの日には補講だったけれど。


そして、優雨に怒られた。


「倒れる奴がおるか!」


と。全くもってその通りなのでおとなしく説教を聞いた。




「五木さん…!もう元気?」


「はい。花野には心配をかけたね」


目の前でぶっ倒れるとか、きっと後から思い出して恐怖するぐらいだよ。


確か、トラウマレベルって言うのだったか。


「休んでいるうちに選択授業の一日目が終わったから次の選択授業まではないね。それに関連して、結構な数のものが渡しておけって」


新品の神楽鈴、巫女装束、そして部活のパンフレット。この他に授業についての手紙もある。


その日はとりあえず遅れを取り戻そうと必死だった。


「綾波、これ何?」


部活関係の欠席中に溜まっていたものだけれど、いろんな写真がついている。


「ああ、小道具。

扇子と、稽古着が配布で、扇子その他のデザインを決めろって」


そのほかも頼めば買えるらしい。扇子入れとか。


「何がいいとか、ある?」


「特に。好きなのでいいよ」


好きなのか…私に好きとかいう概念あんまりないからな。昔から誰かしらが用意したものだった。


「綾波のは、どんなの?」


「月の扇子と、波模様の稽古着二枚と扇子入れ。あと風呂敷も買った。」


結構色々買ってる。


私はとりあえず扇子かな。何にしよう…できれば執政官とかそういうのに関係するものがいい。

パラパラとめくって一通り見たけれど何も思い浮かばない。


そもそも私の象徴ってなんだっけ?


飛行から風?剥奪から…んー、やっぱり何も思い浮かばない。


「羽衣…」


もう一周している時にそんな衣装のものを見つけた。


細かい模様があって、透かすと綺麗らしい。他に浮かばないしとりあえずこれでいいか。


扇子入れも羽衣にして、稽古着は海松色。とりあえず当面はこれで困らないだろう。



「はい、試験初め」


その声で一斉に試験を始める。


周りのカリカリという音に気押されて少し出遅れたが、それでも初めての試験をやり切った。


試験の日は半日しか学校がないらしい。その分勉強しなさい、ということか。



試験のあとは部活動だ。


「えっと、発表会のために何をやるかについて決めます。

これは全員が出席ですから頑張って」


部長は大人しくて声が小さい人だった。でも踊りはすごく綺麗。

多分私には劣るけどね。自慢じゃなくて、本当に。


私は発表会では一年の演目をやることになった。


まあ一年目だし仕方がない。


「綾波だけ別なんだね」


「ええ、まあ、」


何があるのだろう。綾波だけ…


「綾波は先生の本当の生徒」


部長。


本当の生徒って、弟子ってこと?なるほどね。


「そこにいないで練習して」


仕方なく練習に戻る。


「あなた、やっていたの?そこの、扇子のない子」


元こちらかもしれない早水から教えられたものだし、可能性はあるかもしれないね。


「ただ、だいぶ荒い。これから毎日空いているから、来なさい」


何時までかな。二つ目の補講がない日なら結構あるし、その時に行こう。


あれ、補講?


「あ!」


今日の補講が始まる時間だ。


「ありがとうございました。補講のために失礼いたします。」


まずいまずい遅刻だ!

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