泉月なら
「交友関係は学内では皆無、家族は父のみ、双子の妹がいた、能力は不明もしくは隠している、水が好き…どこで調べた短期間でこんなこと。」
「同級生に協力してもらいました。行動を起こしてもよろしいですか?」
優雨はもう好きにしろと言った。やったぁ。
「なら、ひとつ質問してもよろしいですか?
次に斎宮が来られるのはいつですか?」
多分これは斎宮の助けがいる。優雨の力ではおそらく不足する。
「確か二週間後だったか。」
そこまでわかるのなら十分。
さあ、綾波覚悟してよね!
「…言おうか迷っていたのだがな、一応学園内は簪禁止なのだ」
「え!」
前に妖怪の里で作ったものをそのまま使っていたが、ダメだったのだろうか。
「誰からも注意されませんでしたよ?」
「それは汐凪の後見人と立場が大きすぎるからだ。ともかく、やめられるのならやめておけ。」
でも私、簪じゃなくて大丈夫かな…
一応優雨の意見を聞くために簪を外して解くために首を振る。
髪、膝ぐらい長いのだよね。普段は三つ編みを駆使してまとめていたけれど、おろしたままだと間違いなく座る時にふむ。
「…初めて下ろしているのを見たが、長いな」
「あちらではこれが普通でした」
断髪の霧氷が浮いているのだ。普通このぐらいだった。斎宮だってお尻より長かったから、てっきりこれが普通かと思っていた。
…よく考えると巫女達とか店員とかの髪が短かったからその時に聞けばよかった。
「切りますか?」
「やめておけ。長さによって能力の精度や威力が変わるとも言われている。」
優雨に、二つに分けて三つ編みをして、それを後ろまで持ってきて一つくくりお団子にする方法を教えてもらった。
「あの、何で留めるのですか?」
「そこからか?!」
髪用のゴムがあるらしく、それで留めるとのことだ。
「これをやるから、これが切れたら買いに行け。薬局や雑貨屋に売っている」
商店棟の薬局は小さい。保健室に行かせるためにあえて小さくなっている。
その分髪洗いや顔に関係するもの、食べ物が充実している、とのことだ。
「なぜこんな簡単な情報で行動を許可してくれたのですか?」
「練習さ。人に頼ることを知るのにいい機会だ。
どのみちこれからはあたしが卒業するから見守ってくれる人もいなくなるだろう。あなたにとっては子供でしょうけれど、これでも後見人だ。」
お母さんみたい。でも、そういえば今までこんなにも向き合ってくれる人はいなかった。
……早水は、どちらかというと臣下みたいな接し方だったから。
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「汐凪様」
早水からはそう呼ばれた。
ずっとそう呼ばれて、親子らしい交流をしたことはない。育ての親、と呼ぶのにはちょうどいい。
母親のような愛情を持たれたことがないから、安心感を持てる人はいなかった。
早良は始めの方は反感を持っていた。
だから私はたった一人で過ごすしかなかった。誰も信用できずに、過ごしていた。
だから、今でも親子の情はわからない。
早水にとっては私の母への忠誠心がすべてだった。だからそうなってしまったのだろう。
一つ、早水に感謝したことがある
ここに来た時、それほど驚くことはなかった。
それは早水が普段語っていた懐かしい過去そのものがこの世界だったから。
もしかしたら早水はもともとこちらの人なのかもしれない。
こんな推察は、死んだ人に対しては無礼かもしれないけれど。
常識とかはたぶん、こっちとあっちが混ざっている。それはすべて早水に教えられたこと。
でも、荘園の人の感じがするのはなぜだったのだろう。
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私は久々にクローゼットから執政官としての服を取り出した。
慣れ親しんだ羽衣、ひだになったワンピース。
今日はこれに着替えよう。一番楽だし力を発揮できる。
その日の夜中も綾波は抜け出したのでこっそりついて行く。
別にここが3階でも浮けばいいだけだから。
綾波は一人で奥へ奥へと進んでいった。そして、塀の隙間から外に出る。
さらに進むと大きな泉があった。こういうところに霊姫がいるのだろうか。
すると、綾波は水面に顔を近づけてしゃがんだ。
そしておもむろに手を出して、水面に円を描く。
「感情の映し水……現れて」
それからは遠くて声が聞き取れなかった。
そんな日が何日か続いたので、いよいよ声をかけることにした。
最近綾波が疲れているような気がするから、ゆっくり寝てもらうためにも早く解決しないと。
今日、先生の説明を受けているときに居眠りしていた。さすがにこれが続くのはよくない。
そうなるとなるべくかっこよく登場したいものだ。
なら泉を歩こう。この服だし、髪をほどけばそれらしくは見えるだろう。
綾波の驚く姿、みてみたいな。
「綾波、それは危険だよ」
上から降りて、すこしだけ浮いて泉を歩く。
久々に下ろした髪が心地いい。やっぱりこうでなくちゃ。
「……汐凪には関係ない。妹を取らないで」
すでに鏡は消えている。まあそうか。彼女は、私の前には姿を現さないだろう。
「それが本当の妹なら、そうしたことでしょうね。
でも、私はあなたを守る。
大丈夫すぐには消さない。四日後、同じ時間にここにきて。あなただって、今が悪いことだとは、わかっているはずよ」
綾波は何も答えない。
それにこれは私一人では能力でかばーできないから、巫女の協力が必要。
綾波はただ一人そこに残っていた。




