表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人形シリーズ  作者: 古月 うい
第四部 見破られない人形 学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/88

同室

「あー浜浦さんはギリギリまで家のことをやってると思うから、たぶん始業式前日までいないな。ま、気にするな」


同室について優雨に聞くとそう返ってきた。


浜浦さんというのか。どんな人だろう。


「それと、汐凪に早良からの手紙だ。」


今度は小鳥の封筒でやってきた。


『拝啓

汐凪へ

執政界からの返信が来ました。

八谷神宮に着く式(緑)と執政界に行く式(白)を泊に作ってもらったので緊急の時はこれを使ってください。

敬具

早良より』


セットになって執政界からの返信も入っていた。


簡潔に、とりあえずがんばれと書かれている。


うん、頑張ろう。



「…あなたが次の同室?」


同室だったのは、ほっそりして髪が背中まである人だった。

どこか危うげで儚げなのに決して折れない強さを感じる。


「五木汐凪です。」


「そう。私は浜浦綾波(はまうらあやな)。」


会話を広げる気はあるのに全てこっちに投げている。

やりにくい。


「浜浦さんは」


「綾波」


「綾波さんは、何学科の何年ですか?」


「能力科と普通科当主コース三年生。」


なに、当主コースって。でも、名家の人が通う学校ならそんなコースがあっても不思議ではないか。


「私は能力科と特進科です」


「そう。無駄話はやめて、登校するわ。遅刻したければそこにいたら?」


慌てて後ろをついて行く。


今日は始業式だ。


今日初めて袖を通した制服は結構かわいい方なのではないだろうか。

深い紺色のスカートに、上は水色だが肩の周りにはひらひらと布が付いている。


これが薄紅なのが能力科、白が普通科、黄色が特進科、紫が複数科所属を表す。

刺繍の色が緑、青、橙、黄緑、黒でそれぞれの学年を表す。

この色は持ち上がりらしく、次の一年が黒学年だ。


二人とも同じ学年で能力科に主に所属するので同じクラスだ。


「はじめましての人もいますね。能力科三年の担任、卯木です。今年もよろしくね」


強そうな若い女の先生。そして周りがうるさい。


「はーい静かに!編入生を紹介します。土御門さん」


いまだにこの名字になれない。


とりあえず土御門と五木の二つで自己紹介をする。


「土御門汐凪か、五木汐凪と呼んでください。特進科にも所属しています。どうぞよろしくお願いします。」


クラスでは五木が定着しそうだ。


「そして、普通科からの転科生がひとり、浜浦さんです」


初日のところはこれからの学習予定が配られて終わった。


私は編入生なので勉強に追いつくための講習をみっちり入れられている。

主に能力関係の科目だ。


教科は国語、算数、理科、社会、神学、能力実技、能力座学、薬学、体育、副教科、家庭科、礼学、選択で伝統芸能1つ。


これでも一般の高校よりも少ないらしい。


「選択伝統芸能と部活は皐月の2週目までに提出してください」


と紙を渡された。


すぐにクラスメイトに囲まれてしまう。そんなに編入生が珍しいのだろうか。


「五木さん、あの八谷神宮の巫女だと聞いたのだけれど」

「土御門の養子ですよね?ぜひ教えを請いたいです」


肩書が渋滞している私はなぜ知っているのかと聞きたくなることを知っている人たちに取り囲まれた。


綾波はひとりで無表情で過ごしている。


「浜浦さんは……」


「あの人?浜浦家の跡取りなのだけれど、水の中から声がするっていうのよね。気味が悪い。

ああ、同じ部屋だっけ。気の毒だよね」


ああ、我慢ならない!


「あなたたちは能力に偏見がないのかと思っていましたが、違ったようですね」


その人はそれっきり友達の元へ行ってしまった。いつの間にか綾波はいない。



「食堂は一番奥……」


午後からは礼学の授業と能力座学の課題を受け取りに行かなくてはならない。


それまでに早良へと手紙を送るために用具を買わなくては。紙と、糊と。


食堂があるあたりは基本的に寮生専用だ。


通いの人が来るのが禁止なわけではなく、勉強の参考書やそれこそ服や美容品が売っており、通いの人はくる必要がない。


こういうこまごましたことも優雨に叩き込まれた。

曰く、あって損する知識ではない、と。



それからはひたすら同じことの繰り返しだった。


朝7時に起きて着替えて用意して20分には朝ごはん。

それが終わればつかの間の自由や朝練。

授業を受け、放課後には補講を受ける。


それが終われば宿題をしたり予習をしたりして、11時半完全就寝。


週末になると早良に手紙を送る。


週末は補講が入る。



そんな繰り返しの最中、気になることが起こった。


夜中に綾波が寮を抜け出しているのだ。


きまって寝静まった2時ごろ。それからしばらくしてふらりと帰ってくる。


なんだか怪しい。でも決定的な何かはないし、現場を押さえるしかないか。


そう思って優雨に相談すると、まず下調べをしろと言われた。


「あらかじめ知っているのと知らないのでは大違いだ。調べろ、話しはそれからだよ。」


そんなわけで私今、尾行しています。


日中の綾波は誰とも交流を持たない。まずは本人を観察してみないと。



綾波は本当に誰とも会わないし話さない。


「……寂しくないのかな」


思わずつぶやいてしまった。


「何してるの」


後ろから声をかけられて飛び上がる。慌てて後ろを見ると花野(はなの)だ。


花野は同じ能力科所属の3年で、最初のころの私の情報がクラスに知られていたのは花野が広めたかららしい。


隠し事をするには敵でも、こういう時には頼れる存在。


「綾波の能力って知ってる?」


「明確ではなかったはずだよ。能力持ちなのは確からしいけれど」


なら隠しているのか、目覚めていないのかなのだろう。


「どうしたの?いきなり調べて。」


「同室だから、そりゃ気になるよ」


同室が夜中に抜け出すとか、気になるよ。


綾波はまたしてもいなくなっていた。


あたりには水辺でもないのに水の香りが漂っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ