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人形シリーズ  作者: 古月 うい
第四部 見破られない人形 学園編

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編入試験

巫女の朝は早い。まだ日が上らないうちから起きて禊。

そのあと朝食作り。

朝食は一日の始まり。その日を左右するもの。だから上級巫女にしか許されていない。


それが交代になれば境内の掃除をして、斎宮であり宮司の魅夜を起こしに行く。


宮司が起きたら全員で朝食。


朝7時に八谷神宮開門。


このあと午後6時半まで社務所に勤めたり掃除をしたり人の対応をしたりして過ごす。


この時間、私は編入試験勉強だ。


初日に魅夜(みや)に舞踊を仕込まれそうになったが今までやってきた舞を披露すると免除されることになった。

今は主に玉英と優雨から座学を教えられている。


一般常識と巫女としての教養を玉英、編入試験に必要な能力や力関係などは優雨。


編入試験の科目は国語、理科、社会、算術、能力座学、能力実技、神学。


理科と社会以外は何とかなりそうなのが救いだ。


私にとっての鬼門は玉英の担当する一般常識だ。


それこそ暦とか、地理とか。県があって、皇が治めていて、睦月からはじまる12か月。こまごましたことが違って本当に混乱する。


閏月がなくて、閏年がそれかと思ったら1日しか違わないし。本当によくわからない。神話すら違うし。


「能力科は能力が扱えればまず落ちることはありませんが、卒業するには学力が必要だ。入ってから苦労しないように、今のうちにやっておくといい。」


そう言って一番親しみやすいだろうと渡された神学、神話についての教科書で私は爆笑した。


天上大御神が一人でこの世界全てを作ったとか、嫉妬深くて天岩戸に閉じこもったりとか。


神にそんなこと許されるはずがないのに。


「今は巫女がいて神社もあるけれど、本気で神を信仰する人などないに等しい。

居なくても何とかなると思っているから。それこそが神からの恩恵を損なう行為だと気が付かない。」


斎宮はひどく憤っていた。祭祀を司る、しかも本物の巫女だったらそうなるか。


「ならば、わたくしがそれを変えて見せましょう。」


なんだか悔しくなった。烏姫があんなに必死になっているのに、それが知られていないというのは。


このまま荘園が崩壊すると、きっと誰からもわかってもらえなくなる。そんなのは悲しい。


「……それをするには皇に会いに行かなくてはなりません。

北寺学園女子部にて、最優秀を取るか、陰陽寮に入って高位になるかが今のところ目指せるものですね」


さすがに神話は簡単には変えられないか。でも、面白そう。


「皇に謁見し交渉するということは、わたくしの目的である荘園の人々の保護とも合致いたします。

ひとまず最優秀を目指してみます」


「ほうほう、最優秀の座は譲らないぞ」


後ろから現れたのは優雨。


「優雨、いらっしゃい。何か飲む?」


「では、いただくとしよう。」


玉英は心得たように早業でお茶を運んできた。


「優雨が最優秀なのですか…」


「これでも陰陽頭だからね。最優秀でなくては、みんなに示しがつかないよ。」


それは、役割。陰陽頭として譲ることができないこと。とても悲しいこと。


「優雨は今何年生なのですか?」


「次が最終学年だよ。」


五年生か。私が編入するのが第三学年だから、2歳差になるのかな?


「斎宮も一応同じ組なのだけれど、斎宮ときたら学校に来なくてね。」


え、行ってないの?


驚いて斎宮の方を見ると頷かれた。


「内親王は全員通う規定なので通っているだけです。わたくしは特待生で試験だけなのですよ」


…?そんな制度があるのか。


「斎宮、あなたは言葉が足りない。

斎宮は宮司としての役割を果たしておられるので、学校に行く余裕がないのだ。

5歳の頃に選ばれてね。それ以来ここにいる」


そんな小さな頃から。


「優雨、そこまで明かす必要はない。」


「隠されてはいないし、いずれ知ることだよ。」


この二人、身分は確実に魅夜の方が上なのだけれど、実際の力関係は優雨の方が上なのかな?


「編入試験勉強はどうだ?学力だけではなく、能力試験の方がむしろ重要だよ」


「ここに来てからずいぶんと体が重くなって、飛行能力がうまく使いこなせないのです…」


他は問題なさそうなのだけれど、どうしてかこれは無理。私の主能力なのに。


「みてみようか。外に出よう」


魅夜に嫌そうな顔をされながら、神宮の中で飛ぶことになった。


とりあえず地面を蹴って空中に浮かぶ。

やっぱり安定しない。


「飛べるのか」


「わたくしの第一能力だから、これぐらい」


第一能力は普段よく使い公開する能力。隠しておいた方がいいものもある。剥奪とか。


「今なんと?複数あるのか?」


え、そうじゃないの?


お互いがお互いを見つめてあっけにとられている。


「ふっ、」


斎宮が笑いをこらえられずにもらしている。早良は私と同じ顔をしている。


「えっと、執政官は3つ以上持っているのが当たり前……でした」


早良が説明する。多い人はもっと多いし。私も6つぐらいはもっている。


「こっちでは1つ、多くても2つだ。陰陽寮に来ないか?上級を約束するぞ」


ありがたいけれど、……


「最優秀を目指します」


その方が後々に役に立つ。


一つに頼っていては、いずれ崩壊する。足場は多くて頑丈な方がよい。


内親王が通うぐらいの名門なら、きっとそれなりの身分の人が多いのだろう。


「……いつまで浮いていられるんだ?」


「3日ぐらいなら余裕ですけれど」


またしても絶句された。


こっちでは4、5分程度が限界らしい。


そんなに短くては大遠野国も移動できない。


「こっちでは浮遊能力と呼んで、移動はできないが?」


荘園って、本当に特別なのだな。今までそれを見ようともしていなかっただけで、私たちは恵まれていたんだ。


編入試験、頑張ろう。



「試験はじめ」


はじめてたくさんのこっちの人に出会って混乱した。試験も見たことがない形式だったが、結構頑張った方だ。


「どうだでしたか?」


出迎えてくれた早良に安心がこみあげる。知らない人だらけで怖い……


「実技試験は問題ないと思う。計算とかは執政官としても求められることだったし。まあ、結果待ちだね。」


うう、不安……


「お疲れ様。今日は早良もお勤めを免除するから、社会見学でもしてくるといいわ。

おつかいでこれを買ってくることが条件よ」


魅夜に渡された紙には、服と書かれていた。


「あの、今の服で困らないのですけれど」


「阿呆。洋装がその服しかなく、普段着が着物でしょう。さすがにあと3着は持っておかないと。

編入してからも必要だから、出し惜しみはしないわ。常識の範囲内で」


まだ合格とは決まっていないのに。


そんなこんなで、早良とともに十分なお金を渡され、店に放り込まれた。

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