巫女
「そろそろ来るはずだから、しばらく待っておいてください。玉英」
玉英は魅夜に呼ばれてお茶を運んできた。
「優雨はいつつくかしら?」
「5分もかからないかと」
誰だろう、ゆうあって。
そのとき、ガラガラと扉の開く音がした。
「優雨かしら。見てきて」
玉英は女性を連れて戻ってきた。
年は私の見た目と同じぐらい。背は高めではっきりと意見を言うタイプなのだろう。強さを感じる。
「……斎宮に呼び出されてみれば、なるほどあなたが荘園の人なのか」
じろじろと眺められる視線に耐え切れずに頭を下げる。
「烏姫の荘園の執政官をやっております、汐凪と申します」
「早良と申します。」
その人は笑った。口を開けた笑い方なのに下品ではない。豪快で、おしとやか。
こんな人がいるのだな。
「楽にしてくれてかまわない。あたしは土御門優雨。これでも名門の娘で斎宮の幼馴染だよ」
優雨は座って玉英の差し出したお茶を一気に飲んだ。
「で、今どこまで進んでるんだ?」
「何も。巫女にならないかと提案しただけよ」
優雨があきれてるよ…そりゃあそうでしょうね。
これだけでは何も伝わらないだろう。
「あなたたちはなぜここにきた?」
「荘園の崩壊が近いので、そうなった時の受け皿を見つけるためです。
荘園の中と外では常識や風俗が全然違いますから、すぐには馴染めないのです。ですから、それまで面倒を見ていただくところを探しております。」
優雨は納得したようだ。これだけで伝わるとは思っていなかった。
「事情はある程度わかった。そもそも斎宮から伝えられていたしな。だが、それに協力するかどうかは別だ。
汐凪なら3学年に編入できるな。何か特殊な力はあるか?」
「結界と、命令と、飛行と…」
羅列しようとすると優雨に手を振られた。
「それだけあれば十分だ。
半年後、北寺学園女子部に入ってもらう。
そこであたしが協力する価値が汐凪にあると思ったら協力してやる。励めよ。」
どこ、北寺学園女子部って。
それをどう勘違いしたのか、魅夜が説明を加えてきた。
「優雨は能力者の家系の名門、土御門家の若き当主で昔からわたくしの遊び相手として過ごしてきたの。」
「斎宮、多分違う。汐凪達はそもそも常識がないのだ。斎宮が何かもわかっていないと思うが」
優雨がすごい優しい人に思える。さすがに初対面の人を非常識呼ばわりは失礼だけれど、残念なことに事実なのだよね……
そして、ずっと優雨が魅夜を役職で呼んでいるのが気になる。
「詳細に自己紹介いたします。
先代帝の皇后腹の皇女、魅夜。今は祭祀を司る斎宮をしております。」
大体華木皇国と同じか。こっちでの帝がどの立場かはわからないけど、苗字がないのが身分の高さを表しているのだろう。
「北寺学園女子部とは?」
「皇女、良家の令嬢なども通うお嬢様学校だよ。入学試験の難易度が高く、卒業できるのは四割ほど。
能力科というのがそんざいして、そこのみ編入が認められている。卒業の難易度は変わらない。」
各分野の名門の子女が集うらしい。あと一応男子部もあるそう。
「どんなところかはすでに知っているはずよ。はじめに出てきたところが、北寺学園女子部だから。」
あ、あそこなんだ。
「早良、何か聞きたいことはある?黙ったままだけれど」
外気に当てられてるな。早良、態度の割に結構繊細だから。
「どう価値があると示れば、受けいれてもらえますか?」
「それは一概には言えない。信頼できない人を受け入れられないから、まずは汐凪と早良が土御門にとって役に立つと証明しろ。」
う、それが私の肩にかかっているのか。今回は早良を頼ることはできないし…
どうしよう……
とりあえず気になったところだけを聞いて、巫女の話にもどる。
「なぜ巫女になる必要が?」
「状況わかっているのか?汐凪たちはいきなり現れたただの不審者だ。
流石に不審者の後見をするほど土御門もお人よしではなくてな。学園に入るにも身分はいる。
ここの巫女は社会的信頼度が高い。
八谷神宮の巫女の身分は使える。これは確かだよ」
ものすごく説教された。でも、まあ確かにそうか。利用させてもらうことにしよう。他に行くあてもないし。
「よろしくお願いいたします」
そうして、私たちは八谷神宮の巫女見習いとなった。
「学園女子部に入るのが早良ではだめなのですか?」
年はそう変わらないのだけれど……
「汐凪、北寺学園女子部は18までしかいられないのだ。早良はどう見ても成人しているだろう」
あ、もしかして見た目通りの年だと思っている?
「成人は何歳ですか?」
「20だ」
うんやっぱり。私、もうすぐ100歳なのだけれど……
これでも結が仲間になってから見た目は少し大人っぽくなったのに!
「私たちは何歳と名乗ればいいですか?」
「あれ、14、5歳ではないのか?」
全然違う。まあ、とりあえず14歳と名乗っておこう。
「早良は19歳にしておく?」
「承知いたしました。約80年の詐称ですね」
その言葉に2人が驚いている。そりゃあそうだよね。
「まあ、これから頑張れ」
それからいくつかの手続きをして、優雨は去っていった。
「玉英、二人を頼むわ。部屋は……そうね、矢口で」
それから、巫女教育が始まった。
巫女としての常識、世界の常識、教養を身に着け、ひたすらに歩かされて体力をつけつつ所作を矯正する。
暦、時間、すべてが違った。細かい違いがややこしくて、とても苦労した。
玉英はひたすらに厳しく、しっかりと私たちは巫女としてあるべきことを叩き込まれた。
玉英は巫女長らしい。古くから斎宮に仕えていたことから巫女長になったと、巫女見習い仲間の美佳に教えてもらった。
「神に拝謁なさったことがあるのなら、それを理由に元孤児として巫女になれます。」
天上大御神に会ったことがあると知ると、とんとん拍子にことが進んだ。
もともと下級巫女になる予定だったのが、上級巫女になることがきまった。
そうして4か月で上級巫女になり、私は北寺学園女子部への編入試験の勉強を始めることになった。




