夢見幾世、招集令状
「今日はどこに行く?」
「この世界について、もっと知りたいから色々教えて。女性の人生とか」
またしても先生利音が出来上がった。
「まず、生まれた時に能力がないかをみられ、強ければ京家へ。これを五歳と十歳の時に行います。
もしなければ教養を磨き、嫁に行きます。
農民階級の人たちは働き手らしいですよ。
他に、官吏になる道があります。
官吏試験に合格し女性官吏となるか、京家のやっている塾である京塾で見出されて京家の官吏となるか」
京家の人に聞いたのが間違いだったのかな?
だいぶ偏っている気がしてならない。
「あとは遊女 妓女 白拍子といったところでしょうか。主に孤児で顔の良い子供は梅林楼閣に入れられ、素養を磨きます。
最も優れた成績の少女は白拍子になります。旅芸人ですね。
遊女は基本格が高いので、優れた成績のものが。
妓女は格差が大きいものの出世が狙えるらしいです。
これらから成績順に選べるそうです。京家もたまに視察しに行き、見出しています」
梅林楼閣は見に行きたいかもしれない。
「あなたはどういう経緯なの?」
「私は……」
利音は少し悩んでから「元庶民で、京の姫でした。」
といった。京の姫ってなに。
「紆余曲折あり、利家に拾っていただきました。」
京家の受け皿だったのかな、利家は。
さすがに、こんな闇のありそうな地の実質的な支配者なら、そういうところがあってもおかしくはない。
「ほかには何かお聞きになりたいことは?」
「巫女はいるかって聞いた時、やけに多くの職業を羅列していたよね。あれは?」
利音はああと言って説明してくれた。
「姫巫女は皇女から選ばれます。
かつて最高神霊姫より巫女の役割を仰せつかった霊泉家の末裔だからだと言われております。
姫巫女は巫女殿にて池を守り、神祇官の代表として朝議に参加することがお役目となっております。
京の姫君は京家の高位能力者でかつ選ばれたもののみが名乗ることのできる称号で、京家においては当主より発言権が強い代もあったとか。
桜守は桜を守ることが役目です。
桜家のなかから神託で決められます。」
どの役割も基本は血筋が重要、と。本当の巫女は誰だろう。
「あなたにとってここはどういうところなのですか?」
早良が質問する。
「特に何の感慨も抱かないわ」
そう毅然と答えたのは雪子。
「私は生まれた時からここで、外の世界があるなんて汐執政官に教えられるまで知らなかった。
いつもの暮らしに何の感慨も抱かない。不満はないということよ。
これではだめ?」
私は首を振った。十分だ。その答えが聞けただけでも。
「なんだ、どこにも行っていないのか。
そのおかげであえたがな」
「おばあさま!」
おばあさまはにっこりと笑った。
「おばあさまはどこがお好きなのですか?」
「そうだな……町に出るか。そうしよう。それが一番だ。
汐凪、早良、来た時に渡した服はあるか?」
「これがここの町なのですね」
「行きたいところはあるか?」
賑やかな人。おしゃれした娘、見栄を張った商人、飴を売り歩くひと、それに群がる子供達、その子供達の親は笑ってみつめている。
「では、おばあさまのおすすめで」
「汐凪、汐執政官は久しぶりにここにきたの。大半の店は変わっているわ。私が案内しましょう」
まず連れて行かれたのはスープ屋さん。
鶏出汁のいい香りのするスープを温めながらいただき、残りの汁にご飯が麺を入れられる。
多いので早良と半分こだ。
「麺で」
「米でお願いします」
そうするとこういう対立が起こるわけで。
早良としばらく睨み合って私が折れた。
米もなかなか美味しいが、これには絶対に麺が合う。
そして、白拍子が来ていたのでついでに見ていく。
「あれは今庶民に人気の鞠つきという白拍子。演目は桜巫女だね」
桜巫女?桜守の事だろうか。
「桜巫女は、姫巫女の古い呼称です。
元々桜巫女は桜神社に使える巫女でしたが、降臨の時にそれが崩れまして。」
降臨…きっと新場の誕生のことだろう。あれ、そうなると時系列がおかしくない?
新場の誕生は多く見積もっても百数十年前。
けれど、夜見妃は百年前で、すでに降臨から結構な年数が経ったあと。
もしかして千姫が?でもここの領主は霊姫のはず。信仰されているのも霊姫だし。
そのあと連れ回されて、なぜか装束ふた揃いが手元にやってきた。
「早良、変わったね」
「どうか?」
夜、早良は今日は髪をくくっていた。
月に照らされて、遠くで鳥の声がする。
「昼ごはん、引かなかったじゃん。前はああいう時は何も言わずに私を優先していたのに。
私は嬉しい。ようやく早良が早良を優先するようになって。」
早良は何も答えない。
ふと、向こうからバサバサという羽音が聞こえた。
「ねえ、こっちに向かってきていない?」
「何事」
上を見上げると、普通の烏よりは大きくて足が三本ある八咫烏だった。
何かをくわえている。
「烏……神使。烏ということは天上大御神。」
最高神がこんな事を?手紙を抜き取って中身を改めて、早良と顔を見合わせた。
ーーーーー冬火ーーーーーーーーーーーーーー
窓辺にやってきた烏は紙を咥えていた。
引き抜いて中を見ると、『巫女へ。近いうちに迎えがくるから神界へ来なさい』という旨のことが書かれていた。
なにか連絡でもあるのだろうか。
「神界からの連絡なんて初めて」
ほかの巫女も驚いている。いったい何があるのだろう。
ーーーーー清ーーーーーーーーーーーーーーーー
「いよいよなのね」
書状の内容は予想していたものだった。私は烏を上に放つ。
羽を散らしながら烏は遠くへ飛んでいった。
これからが、私の本番。
私はこのために出てきたのだから。なるべく被害を抑えて、そして…
「清ー?」
「はーい」
江はまるで赤子。長は立ち直ったとはいえ役に立たない。
「これから、あなたはどうなるのかしらね」
冷たい江の頬を撫でながらそんなことを、考えた。




